04


ゴンは空中に鼻を向け、くんくんとニオイを嗅ぐ。

「こっちだよ!」

私たちはヒソカが去った後、ゴンの鋭い嗅覚を頼りに二次試験会場へ向かっていた。

「もう大丈夫、走れる」
「バカ言うな。私の応急処置だけでどうにかなると思っているのか。まだ痛むんだろう?」
足を怪我した私はクラピカに抱えられている。抵抗しようにも怪我で力が出ず、渋々受けるしかなかったのだ。


「ねぇ、ヒソカが言ってた合格ってどういう意味だと思う? オレは顔をじっと見られてただけだし、名前とレオリオは逆に倒されちゃったよ」
「おそらく自分と似たニオイを感じとったのではないか? "今殺すにはおしい人材だ"そんな風に考えたのかもな」

淡々と話すクラピカの顔を、彼の腕の中からじっと見つめる。視線に気づいたのかクラピカが私の方に顔を向ける。
「……すまない。無神経だったな」
「ううん」
フルフルと首を横に振る。
私は自分自身をあんなに攻撃的だとは思っていない。
だけど、クラピカの言う"似たニオイ"というのは少しわかる気がした。

「少しずつわかってきた気がする、オレがあの時感じた変な気持ち。殺されるかもしれない極限の状態なのにさ、オレ少しワクワクしてたんだ」
「ゴンはたぶん、仲間のためっていう状況の方が、強くなる」
ヒソカに勇敢に立ち向かったのも、仲間のためだからだろう。
「名前も仲間のためにヒソカと戦ったんでしょ?」
「私も……?」
「あぁ、そうだな。名前はレオリオの悲鳴を聞いて駆けつけてくれた。そして、ゴンを助けるためにヒソカに立ち向かったのだよ。それは仲間が傷つけられているのを見て咄嗟に出た行動なのだろう」

「仲間…」
クラピカの言う通りなのかもしれない。私はレオリオの悲鳴を聞いて走り出し、ゴンを助けなければと思ってヒソカに立ち向かった。
けれど結果こうしてクラピカに抱えられて、完全にお荷物状態だ。こんなことでは仲間を守るどころか見限られて終わりだろう。足を引っ張るような私に仲間だと名乗る資格はない。


「名前。仲間のために行動を起こした、その事実が大切なのだ。今回は相手が悪かったが、仲間がいることで相乗効果を生み出して普段よりも力を発揮させることもある。名前の気持ちが周りの者にとって力になることもあるのだ」
クラピカの言葉にハッと顔を上げた。
彼はこちらを見て優しく微笑んでいる。まるで私の考えていることが分かっているようだ。

その笑顔に、懐かしい兄の笑顔が重なる。


私はいつも兄と一緒にいた。
兄だけが私の理解者。

その兄がいなくなってからというもの、以前にも増して毎日淡々と生きていくだけだった……。
寂しいという感情さえ忘れてしまっていた。

もう何も失いたくない。しかし今またこうして仲間と呼べる存在ができてしまった。

「名前……?」

失うのが怖い……。
ずっと一人だったら何も失うものはないから。

でも……


一人じゃないことが嬉しい。


交わらない2つの感情に困惑し、私を抱えている"仲間"の胸に顔を埋めた。

「名前……?どうしたのだ?」

私の急な行動に焦る声が頭上から降ってくる。迷惑はかけたくないけれど、今は素直に二人の言葉が嬉しい。

「ありがとう……」
それは蚊の鳴くような小さな小さな声だった。
私を抱えるクラピカの手に少し力が入る。



「あ、着いた!」
ゴンの声に反応して前を向くと、他の受験生たちが集まっていた。
「どうやら間に合ったようだな」


ふと視線を感じ、そちらを見るとヒソカがある方向を指していた。その方を見ると木にもたれかかっているレオリオの姿があった。


「うむ。腕のキズ以外は無事のようだな」
「てめーよく顔を見ろ、顔を。
というか名前、そのキズどうしたんだ!?」
「レオリオ、覚えてないの?」
「どーも湿原に入ったあとの記憶がはっきりしなくてよ。それよりも応急処置はしてあるみたいだが、すぐにちゃんと手当した方がいいぜ。クラピカ、名前をこっちに」
「…………あぁ」
クラピカは渋々といった態度で私を降ろす。


レオリオの処置は医者の卵というだけあり、早くて完璧だった。
「よし、これでだいぶマシになっただろう。けど激しく動かすと治りが遅くなるからあんまり無茶すんなよ」
肩の部分を見られないように工夫していたのだが、なんとかうまく隠せたみたいだ。
「レオリオ、ありがとう」
私はレオリオに微笑んだ。

レオリオもゴンもクラピカも目を見開いて私の顔を見ている。
「名前今笑ったね!」
「そうやってる方がかわいいじゃねーか。やっぱり名前はオレが見込んだだけあるな!」
「お前は名前の何なのだ……」
クラピカは呆れたように溜息をついた。

「クラピカも、ゴンも、ありがとう」
私はクラピカとゴンにも笑いかけた。こうやって口角を上げるのはいつぶりだろうか。


「よ」
「キルア!」
「どんなマジック使ったんだ? 絶対戻ってこれないと思ったぜ」
「レオリオのニオイを辿ってきたんだ」
「はあ!? お前……やっぱ相当変わってるなー」

キルアはゴンに話しかけたあと、こちらに視線を寄越した。その視線には呆れのようなものが混じっている。
「名前も意外と無鉄砲なことするんだな」
しかしその口調には安堵感も含まれているように感じた。キルアなりに心配してくれていたのだろうか。

私はそんなことを思い、うん、と微笑みながら頷く。
キルアは少し目を見開くとふいっと顔を逸らした。

あれ……読み違えた……?また余計なことを言ってしまったのかな。
私はキルアの後ろ姿を見ながら少し肩を落とした。




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