and we live it as




「ついに明日からランク戦だね。どう? 緊張してる?」
「いえ、むしろ楽しみです」
「望むところですね」
「私はちょっと緊張します。でもワクワクもしてますね」
「そっかそっか。頼もしい限りだね」
かわいいかわいい後輩たちは期待に目を輝かせる。
思っていたよりもリラックスしているようで安心だ。この様子だと、本来引っ張っていくはずの名前が一番緊張しているようだ。何せ初めてのランク戦だ。ここ数日寝る間も惜しんで記録を繰り返し見ることによってある程度雰囲気を掴んだが、やはり実際にその場に立つと違った印象を受けるだろう。
お互いを狩る目的で集められた人間を相手にする戦がどういうものなのか全く想像がつかないといったところが正直な感想だ。


やる気に満ちた眼差しを受けると、この子たちに任せてみるのもいいかもしれないという気分になる。だってこんなにしっかりしているのだから。少なくともランク戦において先輩である茶野たちの方が対人の戦い方というものを知っているだろう。

「まず1回戦は間宮隊と三雲隊だね。3人の意見を聞かせてもらってもいい?」
「はい」
名前からの投げかけを待っていたように、茶野が姿勢を正しタブレットを操作する。その画面には間宮隊と三雲隊の面々が表示されている。
そして茶野がタブレットをタップし、三雲隊を拡大させた。
「今回肝となるのは三雲隊だと思います」
「ふんふん。どうして?」
「彼らは最近入隊したばかりでデータが少ないという点と、この空閑という人は訓練で新記録を出したと聞きました。要注意なのは間違いないです」
「そうだね」
うんうんと頷き名前はにっこりと微笑む。
正直、間宮隊は名前一人でも対処できる相手だ。本気を出せるなら、という条件付きだが。しかし三雲隊はすべてが未知数だ。どういう戦い方をするのかもわからない。警戒すべきなのは間違いない。

「じゃあ、未知数の相手にどう戦おうか?」
そこで3人の眉間にシワが寄る。何度議論を重ねてもしっくりくる答えが見つからなかったことが伺える。それは当然のことなのだ。だって相手は未知数なのだから。
その中からベターを見つけられたら万々歳といったところだろう。
だからこそ茶野たちがどういう答えを出したのかが名前は知りたかった。

今度は藤沢が徐に口を開く。

「オレたちとしては、名前さんを主戦力にして、オレと茶野でサポートという陣形で戦うのがいいのかなと思っています。それが一番確実かなと……」
「なるほどね」
まあ、普通に考えたらそうだよねと頷く。
アタッカー1人とガンナー2人で構成される諏訪隊と同じ形というわけだ。1番強い者をエースとするのは当然のことだろう。ただし、その実力が発揮されればだけど。

おそらくこのランク戦、名前は一番使い物にならない。

話し合った結果の答えなのだろう。3人は固唾を飲んで名前の言葉を待つ。いつも茶野たちの声が彩っていた作戦室がしんと静まり返った。色よい返事を待っているのは痛いほどわかる。
しかし名前は、眉尻を下げて困ったように首を横に振った。

「……残念だけど、その陣形は使えない」

名前の言葉がショックだったのか、茶野たちは目を見開く。
「私、今回は茶野くんたちを主力としていきたいと思ってるんだよね。戦闘経験を積んでほしいっていうのが理由の一つ。もう一つは、相手もきっと私が主力で来ると思ってるはずだから、その裏をかけると思うの。どう?」
3人は顔を見合わせる。
予想していなかったのだろう。その顔には困惑の色が見て取れる。自分たちより強い人がいるのになぜ積極的に戦わないのか。自分たちが主力で名前の期待に答えられるか。期待と不安が入り乱れる。
しかし、一度目線を下げた茶野が真っすぐ名前に向き直った。

「いけます」

その頼もしい顔を見て、名前はほっと胸をなでおろす。
「よかった。じゃあ茶野くんたちを主力とした作戦を立てていこうか」
ああ、なんてズルい先輩だろう。名前の提案なら受け入れてくれるとわかっていて自分に都合のいい意見を提示した。自分ができないことを相手にやらせて自分は高みの見物か。ひどい先輩だ。
やらないんじゃなくて、その覚悟がないだけのくせに。
作戦室に再び彩りが戻る。しかし、その色は絵の具のように混ざり合って黒く変色しつつあるように感じた。




*




一方その頃三雲隊も、初のランク戦に向けて話し合っていた。玉駒のフルメンバーがソファや椅子に座る。各々が忙しい身なのでこうして全員揃うのはなかなか珍しい。

「この鏡宮名前って先輩のデータが全然ないんです。どうも最近茶野隊に入ったみたいなんですけど、どういう人なんですか?」
「ああ、名前さんね。とってもかわいい人だよ」
「え……いや、あの」
そういうことを聞いてるんじゃないと三雲は冷や汗を浮かべる。対して宇佐美はそれがわかっていてふふんと満足げな笑みを向けた。今のはただの名前に対する感想だ。名前のことなら同い年である迅の方がよく知っているだろうと、椅子に座って聞き手に徹している迅をちらりと見やる。

宇佐美の視線を受けて、迅はニヤリと笑うと徐に口を開いた。
「名前はつい先日まで隊にも所属していなかったしソロランク戦にも出ていない。だからポイントだけ見ればB級上位といったところだが、トリオン兵を相手にすれば小南級の動きを見せる」
「ほう」
「小南先輩級……!?」
空閑は小南の名前が出て関心を示す。その口元がにやりと薄く伸びた。
「比較に出されたこなみは名前さんのことどう思う?」
「まあ、名前はあたしほどじゃないけど、全力でまあまあね」
どこか偉そうな態度を取る小南の名前に対する評価はA級のそれと同じだ。今回は怪我で見ていることしかできない三雲は不安そうに空閑と雨取を見やる。対して当人の空閑には焦りや不安といった色は全くなく、いつもどおり涼しい顔だ。
「向こうは一応ガンナーもついてるしこっちの分が悪いか?」
人数とデータ不足、相手の実力をあくまで冷静に考え空閑が唇を尖らせる。さすがの空閑でも警戒せざるを得ないと三雲も彼の言葉に賛成する。

「いやそれはない」
しかし、思わぬところからその意見は否定された。
その確信的な物言いに、三雲や空閑たちだけでなく宇佐美や小南も、その声の主である烏丸の方に顔を向ける。

「というと?」
「……名前さんはトリオン兵によって弟を殺されている。第一次侵攻の時だ」
「重い弾の人と似たような境遇だな。ということはやっぱり近界民であるおれは余計に狙われるんじゃないか?」
「いいやそういうことじゃない。それに名前さんは忍田さん派だ」
やけにはっきりと言い切る烏丸の様子に驚きはしたが、それよりも話の展開が読めない。空閑が予想したとおり、近界民に恨みを持っていて空閑に攻撃してくる可能性が高いという話ならわかる。しかし名前は三輪と違って近界民にあからさまな敵対心はないという。
空閑自身もよくわからないといった顔をしているのを見て、三雲はもう一度烏丸に顔を向ける。
「どういうことですか?」

烏丸はゆっくり瞬きをし、ぼんやりと自分の手元を見つめる。いつも飄々とした烏丸にしては珍しい表情だった。
「名前さんは年下……特に男性には攻撃できないんだ」
「……え?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
しかし迅や宇佐美などの反応を見るにこのことは周知の事実らしい。
「詳しい事情はわからないが弟さんを思い出してしまうのだと思う。だからきっと空閑のことも攻撃できない。名前さんは元来の性格からして戦闘に向かない優しい人なんだ」
「そうか。攻撃できないとわかっている相手なら楽勝だな」
「しっかし名前さんがランク戦に出る日が来るなんてね〜。あんたこれすごいことなんだからね? 絶対勝ちなさいよ?」
「ふむ。全力は尽くす」
ふむふむと頷く空閑の頭を、小南がぐりぐりと掌を押し付けるように撫でる。それを見て笑う宇佐美といつもと変わらない笑みを浮かべる迅。そして緊張したように口を引き結ぶ雨取。三雲は一人考え込んでいるような面持ちの烏丸をちらりと盗み見る。
「……まあ何にせよ記録は見ておくことだ。名前は隊にも所属していなかったし基本的に防衛任務に出ていてソロ戦もやってないからデータがかなり少ないけどな」
徐々に話し合いから脱線しつつある空気を読んだ木崎の一言で各々解散になった。

静かに椅子から立ち上がり玄関へと向かう烏丸の背中は、一人取り残された子どものように寂しげだった。






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