An irreplaceable life,




試合が終わってみれば、茶野隊6点、荒船隊2点、諏訪隊1点と、茶野隊の快勝であった。

一人戦場に生き残った名前の姿は、美しさと力強さを兼ね備えた戦場の花、ジャンヌ・ダルクのようだったという。




「じゃ、お疲れさまってことで、かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
ドリンクジュースが入ったグラスを鳴らし、各々がゴクリゴクリと小気味よく喉を鳴らす。

「はぁーっ! 気ぃ抜けるわ
「一時の休息ですね」
一気に半分ほど減ったグラスをテーブルに置き、ソファにぐてりと身体を預ける名前を見て十倉がクスリと笑う。
大事な試合を終えた茶野隊はその翌日、勝利祝いも兼ねて影浦の実家であるお好み焼き屋に来ていた。店のチョイスはもちろん名前である。ここのお好み焼きは最高に美味しい。

「今回の名前さん最っ高にカッコよかったですもんね!」
「そうそう。最初にメテオラ放つシーンとか何回も映像見たぜ、俺」
「バッと明るくなった瞬間に一瞬だけ浮かび上がった名前さんの不敵な笑みが痺れるよな……」
「わかる! あの時はオペレーションに必死だったけど改めて映像確認して震えたもん!」
「キミたちそういう話は本人がいないところでやってくれ」
居住まいを正し咳払いをする名前の頬はほんのり赤い。茶野たちは試合の映像が公開されてから繰り返し見てはこの調子である。最初は彼らの褒め具合に照れよりも驚きが勝りギョッとしたものだが、こう何回も自分の話を聞いているとかなり恥ずかしいのでやめてほしい。

「俺も映像見ましたけど、名前さん良かったですよ」
「はっ、ようやくまともに戦えるようになったのかよ」
隣のテーブルからニヤニヤと笑いながら茶化してくるのは荒船と影浦だ。名前たちが店に来たときには既に席についていたので、せっかくだし一緒に食べようということになった。昨日負かした相手とともに食べるというのはどうかと思ったが、むしろ荒船が隣の席を勧めてきたので大人しく従うことにした。
年上を誂う悪い少年たちをジトリと睨むも、顔を真っ赤にさせてふるふると震える名前が可笑しくて荒船たちはより一層口元を緩める。

これ以上誂われては耐えられないと思っていたところにお好み焼きがタイミング良く運ばれてくる。
「さ、食べよ食べよ!」
待ってましたと言わんばかりに名前が両手にヘラを持ったことで、各々の意識は昨日の試合から目の前のお好み焼きへと移っていった。

「これ、ひっくり返すんですか」
「そうだよー。それがなかなか難しいんだよね……。私もまだ一回しかひっくり返したことないんだけど」
ふと隣のテーブルを見ると、荒船が既にヘラを持っていてお好み焼きをキレイにひっくり返している。影浦なんかは目を瞑っていてもできそうなほど手慣れており、茶野たちのテーブルからは歓声が上がる。
「おおー! なかなかうまい! ベテランだね」
「名前もひっくり返せよ」
「ぜひ後輩たちに教えてあげてください」
「ちょ、そういうプレッシャーよくない!」
この子たちこんなに意地悪だったか、と首を捻りながらもとりあえずヘラを両手に持ち、お好み焼きの下に滑り込ませた。

「えーっと……ここからどうすればいいんだっけ」
その状態で固まった名前を見て荒船と影浦は面白がるように笑う。
「さっき俺がひっくり返すの見てたでしょう。同じようにやったらできます」
「いやいや、一度見ただけで上手くいけば人間こんなに苦労しません」
「いいからさっさとやれ」
「うええ影浦くんたちひどいなあ! もう……顔面パイならぬ顔面お好み焼きになっても知らないよ?」
「その場合悲惨なことになるのは茶野たちの顔面だけどな」
荒船の言葉を聞き、向かい側に座る茶野と藤沢が一瞬顔を引つらせたのを名前は見逃さなかった。
この子たちのためにも絶対そんなことはさせないと決心し、えい、と勢い良くお好み焼きをひっくり返した。

「おお〜!」
「おお」
「へえ」
三者三様の反応を見せたお好み焼きはキレイに形を保っている。
「まあ、私やればできる子なんで」
「はいはい」
「うぜえ」
「二人ともひどい」
全くノッてくれない後輩二人を軽く睨み、自分でひっくり返したお好み焼きをヘラで軽く叩く。

茶野たちも見様見真似でお好み焼きをひっくり返す。多少形が崩れたりはしているが、みんなとても美味しそうな焼き色と形を保っている。
それぞれのお好み焼きを4等分に切り、熱々のうちに口の中に放り込んだ。

「うう〜ん、美味しい!」
思わず頬を押さえ満面の笑みが出てしまうくらい美味しいお好み焼きだ。具だくさんでホクホクで、タレもオリジナルなのかしつこくなくてちょうどいい甘み。
「あたりめーだよ」
影浦はそう言って得意げに笑った。久しぶりに見せたその笑顔にじっと魅入ってしまう。
影浦は名前を見つけるとマスクをつけてしまう。原因が自分にあることをわかっている名前はその行動にとやかく言うことはないが、心の底では寂しさを感じていた。影浦は心を許している者としかつるまないことも理解はしているが、荒船など彼に認められた者たちに向ける笑顔が、厚かましくも羨ましく思っていた。

その十分の一でもいいから、私に向けてはくれまいか、と。

そんな名前の気持ちを感じ取ったのか、ふんと鼻を鳴らす影浦は顔をぷいとそらして頬杖をつく。

名前もニヤけた顔を隠そうともせず茶野たちに向き直った。
「美味しいでしょ、ここ。影浦くんの実家なんだよ」
「はい! すごく美味しいです!」
ニコニコと曇り一つない笑顔を浮かべた十倉たちが影浦の方を向くと、いよいよ居心地が悪くなったのか彼はガシガシと頭をかき、一口大の大きさに切られたお好み焼きを口の中に放り込んだ。



心とお腹がすっかり満たされた茶野たちはそこで解散することにした。ここ最近は試合のための準備で張り詰めていたため、今日は休養日ということにしていた。まだ試合は続くが、時には休養も大切だ。

「で、名前さんはなぜ俺らと一緒に本部に向かってるんですか」
隣を歩く荒船からの鋭い一言に、うっとうめき声を漏らす。荒船を挟んでともに歩く影浦は、店を出た途端に再びマスクをつけてしまった。

「いやあ……今日は久しぶりに狙撃練習でもしようかと思って」
「へえ。後輩たちには休めと言っておきながら」
「ですよね……」
名前はバツが悪そうに笑うものの、その足が止まることはない。

視線を感じ、ふと荒船を見上げる。

そして、荒船の目が慈しむように細められたのを名前は見た。初めて見る優しげな顔に動揺を隠せない。慌ててそらした視線は、どこを捉えるでもなく宙を彷徨う。
昨日の今日というのもあるが、意識しすぎだろうか。名前は僅かにザワつく胸を押さえつつ昨日の戦いを思い出す。思わず背筋が伸びてしまうような彼の目つきと言葉が名前に突き刺さった戦い。茶野と藤沢はもう立派な仲間だ。守るだけじゃなくて、背中を預けられるような仲間。だが、彼らに刃を向けるとなるとそれは難しいだろう。背中を預けられても、戦うのは違う。それはやはり彼らに遠慮しているからなのか。対して荒船とは刃を交えられる。昨日、彼の真っ直ぐな気持ちをぶつけられて目が覚めた。どちらも比べようもない仲間である。茶野たちと荒船の違いはなんだ。

昨日の荒船の言葉を頭の中でリフレインし、名前はううんと小さく首をひねる。
『俺は名前さんと本気で戦いたいです』
あの時名前の心が大きく揺さぶられた。この台詞で火がついたのだろうか。だがこういった名前の心を動かす言葉は茶野たちにももらっている。
名前はうむむと口を噤んで腕を組む。

両者の違いは強さの違いかと考えるが、それなら風間などの強者と戦えない理由に説明がつかなくなる。
では見た目の違いだろうか。荒船は年下だが比較的背も高く落ち着きもあって年上に見えなくもない。

つまり名前が戦える条件は、強くて、年上っぽいことか?

一応の答えにたどり着き、名前は眉間に入っていた力を緩めた。
今度この条件に合う人をピックアップして個人戦に挑んでみようか。なんてことを考えながら、腹の中に押さえ込むようにして笑っている荒船を見上げて首を傾げた。




[list]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -