「キスしたいところかあ」
「初っ端が迅なんて先が思いやられるわ」
「こらこら名前ちゃん、そういうメタ発言はダメだよ」
ニヤニヤと笑いながら頭から爪先まで舐めるように視線を巡らせる迅を睨みつける。しかしそれはこの状況を楽しんでいる彼を余計に焚きつけるだけだとその表情を見て悟った。
迅の視線が爪先から名前の顔に戻ってくる。
「……フッ」
そしてヤツはあろうことか私の顔を見て鼻で笑うのだ。
「……もしかして、視た? しかも鼻で笑ったよね!?」
「んー、名前ちゃんはやっぱりかわいいなあって」
「そうやってはぐらかす!」
「ほんとほんと。俺のサイドエフェクトもそう言ってる」
「ほらやっぱり視てるじゃん!」
洗いざらい教えろと凄んでみても迅は楽しそうにヘラヘラと笑うだけ。
「意地悪迅はぼんち揚げでも食べとけ!」
「えーぼんち揚げより美味そうなもんが目の前にあるのに?」
こういうことを日常会話の延長線上でさらっと言ってしまうこの男のことを憎めない私も私であると自覚はしている。
「名前ちゃん」
目を細めたまま見つめてくるその視線に眉を釣り上げていた名前は思わず口を噤んだ。
一歩後ずさりしても二歩詰めてくる。
未来が視える相手に敵うわけがないんだ。
迅の右手がそっと名前の鎖骨をなぞる。そのくすぐったい感覚に、ぞわりと背筋に冷たいものが走った。ちらりと見上げると、妖艶に口の端を釣り上げる迅の顔が視界を占める。
咄嗟に顔を逸らすも、顔に集まった熱は逃げてくれそうもない。
そっと音もなく鎖骨に柔らかい感触が当たる。
ゆっくりと顔を上げた迅は名前の顔を覗き込んでぽつりと呟いた。
「ほら、やっぱりかわいい」
鎖骨 欲求