不機嫌そうに眉を顰める少年と、にこにこと楽しそうな笑みを称える少女。対象的な表情を浮かべる2人は仲睦まじく肩を並べて1つのソファに身を沈める。
知らない人が見たらできるだけ接触を避けようとするであろう表情の彼は、機嫌が悪いわけではなくこれがデフォルトだ。なので決して少女の横に座らされているのが不満でこんな顔をしているわけではない。決して。
「はあ……」
「…………」
にこにこと笑みを浮かべていた名前はちらりと隣の彼を見て小さく溜息をこぼす。
上機嫌で影浦隊の書類を受け取り、そのまま半ば強引に彼の隣に座って書類を片付けようとした。隣に座っても逃げなかったのを良しとして書類仕事を始めてしまったが、彼はずっと眉間にシワを寄せて黙り込んでいる。話しかけても、ん、とか、おう、とか短い返事しか返ってこない。
本当は嫌だったのかな。
名前は書類に視線を落としたまま自分の行動を顧みる。やはり感情だだ漏れの名前が隣にいると落ち着かないのだろうか。今も心の中で叫んでいる。
もっと影浦と話したい!!!!
こんな大きな感情をぶつけられたら彼はどんな痛みを覚えるのだろう。チリ、どころじゃない。それこそ包丁で刺されたような痛みか?
その痛みを想像してフルリと身体を震わせる。もしそうだったら大変だ。自分は今、眉間にシワを寄せる程度で済んでいるのが不思議なくらい残酷なことをしてしまっているのではないか。
「ごめん影浦くん……。私やっぱり自室に戻るね……」
「……おい」
早く彼と離れなければといそいそと書類を片付ける。その手を、痛いくらいの力で彼が掴んだ。
「余計なこと考えんな」
ギリ、と腕を掴む手に力が入り、名前の身体が固くなる。あ、これあれですか。俺が受けた痛みを思い知れってやつ。
「……ちっ」
ごめんね影浦くん。私は大人しくその痛みを受けるよ。しょんぼりと肩を落とすと、追い打ちをかけるような影浦の舌打ち。
「おい、こっち向け」
影浦の言葉に素直に首をひねると両手で頭を掴まれる。少し下を向かされたと思ったら、頭部に軽い息がかかった。
「え……」
両手が離れ思わず影浦を見ると、引っ張り上げたマスクでも隠しきれないほど顔が赤い。
今……キスしてくれた……? 頭に……?
す、好きだ!!!!
「っ! それやめろ!」
言わなくたって伝わってしまう。彼はそれを嫌がるけど、私はこの気持ちを抑えたくはない。
髪 思慕