犬飼




やるねぇ〜。

名前がぽかんと立ち尽くす中、陰に身を潜めた人物が一人。先程の辻の一連の行動を見てニヤリと口角を上げる。

「おれも辻ちゃんに負けてらんないな」

そう呟いた声は、誰にも聞かれることなく静かな廊下に吸い込まれる。


「名前さーん」
「あ、犬飼くん……」
あらら、名前さん放心状態じゃん。
クククと抑えきれない笑みを浮かべながら魂を抜かれたような名前に歩み寄る。
「見ちゃったーさっきの」
「っ!」
確信をつくようにニッと笑いかければ、名前は目を見開き次第に顔が紅潮していく。その赤い色は辻といい勝負だが、彼と違ってとても美味しそうに映るのは女性だからか、はたまた名前だからか。

でもこの顔、俺に向けられたわけじゃないのが気に食わないよね。

ヘラリと笑う犬飼は目の前で顔を赤くする#name2
#の髪を耳にかける。
耳まで真っ赤にしちゃって……。
現れた耳は顔に負けないくらい赤くなり、触ると熱を持っている。
「な、なに……?」
あー、その上目遣いは反則でしょ。
身体の内から湧き上がる抑えきれない想い。ぐうっと胸が詰まるような感覚。

堪えきれず、真っ赤に染まった名前の耳を食むように口づける。

そっと離れ名前の顔を見ると、リンゴのように真っ赤に熟れていた。
「ドキドキしました?」
「ひゃい……」
名前は目眩がしそうなほど顔が熱くて、頭が真っ白になる。

なにこのゲリラキスの嵐は……。

何も考えられない頭を犬飼に笑顔で撫でられても、名前はされるがまま受け入れるしかなかった。




耳 誘惑





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