王子




名は体を表す、という言葉は彼のためにあると言っても過言ではないと思う。

「名前さんも紅茶かい?」
「うん、王子くんと同じもので」

こうして紅茶を淹れる姿も様になっていて、本物の王子様のようだ。実際の王子は紅茶もお付きの執事に淹れてもらうのかもしれないがそういう問題ではない。所作の一つ一つが王子という名に恥じぬ優雅さがあるのだ。

「はい」
「ありがとう。紅茶まで淹れてくれて本当に助かる」
「どうってことないよ。名前さんも手土産を持ってきてくれたからね」
白手袋を外し、一口サイズに千切ったクロワッサンを口の中に入れる。
「うん、美味しいね」
「よかった」
机の上に置いた好物のクロワッサンを一瞥する。実は事前に下調べをして彼の好きな紅茶に合うクロワッサンを持ってきたって言ったら王子はどんな反応をするのだろうか。

「ねえ、名前さん。今どんな顔してるかわかってる?」
「え?」
頬杖をついていた手を下ろし、ぽかんと王子を見返す。もしかして、間抜け面……?

彼は王子様らしく形のいい唇をきゅっと上げ、白い手袋をはめ直す。
「わからないのなら今はそれでも構わないよ」
いや私はよくない。そこまで言われて気にならないわけがない。
王子は爽やかな笑みを浮かべたまま戸惑う名前の小さな手を取る。それはまるで王子様がお姫様をエスコートするかのような優しい手つきで。口元まで掲げたかと思うと眠り姫も目覚めてしまう柔らかいキスを手の甲に落とす。

「仕事、手伝うよ」

そして、彼は何事もなかったかのように机に広げられている書類を手に取る。

名前はぽかんとその一連の動作を見ていることしかできなかった。




手の甲 敬愛





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