▼ 波

時間の波に囚われて、何度も親しい人の死に顔を見てきた。不思議に思ったのは同じ年に生まれた女友達の顔にしわが増えたとき。異変に気付いたのは妹が私より年をとったような見た目をしているのを見たとき。異変が確かだと感じたのは、妹が老衰で死んだとき。
年をとってシワだらけになるはずの手はまだ20代のまま。私があの人に出会った頃のまま。

村の人達に恐れられ、呪術師だと思われて、殺されそうになったこともあったけれど、私は死ななかった。治ってしまうのだ。どれだけ深く傷をつけようと、きれいに、何も無かったかのように。
あの人と過ごしていて怪我をすることは滅多になかったので気付かなかった体の異変。それに気付いたときは絶望したものだ。

それでも、あの人と同じ時間に生きることができるようになったのだと、この不死身の体さえ受けれられていた。でも、もうあの人は私を愛してはくれない。
もうどうしようもない。もう普通のヒトと同じ時間には戻れないのだ。私はもうヒトではないのだから。

「…フランシス」

あの人と同じ時間に生きるフランシスは、国の化身なのだという。はじめて会った時のあの顔は忘れられない。

(人を…巻き込んではいけないと知らなかったわけじゃないだろう?)
(自分の身を弁えろって教えた筈なんだけど)

冷たく、静かに あの人に怒っていた。きっと、フランシスは知っていたんだろう。国の時間軸に囚われた人はどうなるのか。
若い体は雨に濡れていた。呪われてしまった私の体を雨が伝う。
自分を嘲笑するように口角が自然と上がった。

「わたし、なんなんだろう」

泣いているから視界が霞むのか、雨が目を濡らしているのか、それとも、体の時間が元に戻っているのか。そんなことまで良く分からなくなっている。
フランシスはそんな私を辛そうな目で見つめていた。

青い傘が、重力に従って落ちた。雨がフランシスの体を濡らしていく。私に近付く度に石畳の上の雨水が跳ねて、彼の靴を汚していく。
フランシスの右手が私の左手を握って、強く引いた。普段の彼からは想像もできない力だった。

「俺がいるってこと、忘れないで」

握った手ははなされて、腕は私を強く抱きしめていた。
フランシスの体温を、雨で濡れて冷えた私の体が奪っていくのを感じて怖くなった。それでも抵抗できなかったのは、私を抱きしめていたフランシスが確かに、私のために泣いていたから。






((あいしているんだ。いまのきみには言えないけれど))



ボツ理由
とてつもない長編になる雰囲気が漂っている
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