(コルイドで大学生パロ)

平日、この時間帯、帰りの電車は当たり前のように混んでいた。朝から講義に出ていたというイドは少し疲れ気味で、吊革に全体重を掛けてそのまま寝てしまいそうだったので俺は空いた席を素早くキープして彼を座らせてやった。丁度その駅で降りる人が多く、正面に位置する席も空いた。イドの姿が見えるなら問題ないだろうと、俺もそこに座る。降りる駅は同じなので着いたら起こせば良い。
いつもイドと二人で帰ると、俺の方が彼に起こしてもらうことが多かった。電車の揺れが心地好く、1日の疲れを癒すには最適な場所だ。せめて今日くらいは彼の目覚まし時計になってあげても良いだろう。多分イドも俺が居ることを考慮して大人しく睡魔に従ったのだと思う。二人揃って寝過ごしてしまうという間抜けな事態を起こさない為に、俺は講義で薦められた本を開いた。

ガタン、ゴトン、と揺れる一定の振動に逆らわずイドの頭が僅かに跳ねる。口を開いて寝るその姿はあまりにも無防備で、本で口元を隠しながら苦笑した。あんな姿、二人きりの時も見られた試しがない。余程疲れているのだろう。

(…っ…と)

ガタンと派手に揺れた振動に、かくんとイドの頭が隣のおっさんの肩にぶつかりそうになっていた。当たるスレスレで元に戻り、また段々と横に倒れていく。時折気付いて少しぼんやりと瞼を開くが、寝惚けているのか頭が横に傾くのは止められてない。十秒もしない内に舟を漕ぎ始める。携帯を弄っていたおっさんの視線がイドに向き始めた。

(寝相悪ィな…)

本の文字が全然頭に入ってこない。そもそも視線が本に向かず、不自然なくらいイドを凝視していた。一度しっかり目を冷ましてくれれば良いのに。そう念じてみたが、視線が目を閉じた相手に届く筈もない。

(あ、携帯)

視線は届かないが電波は届く。早速俺は携帯を取りだし、イドに向けて「一回起きろ」と短くメールを打った。イドは着信音の煩さを嫌って、常にマナーモードにしている。バイブ音で気付いてくれと祈りを込め、送信ボタンを押した。

(………)

ブー、ブー、ブー…

「…………」

ブー、ブー…

「…………」


起 き な い
何でそんな熟睡してるのに首がかくかく動くのか非常に問いただしたい。次の策を考えようと携帯を鞄に閉まった。そうしている間にもイドの首はおっさんの肩に当たり、申し訳なさそうにちょっぴりおっさんは腕を動かしたがイドは気付かない。相変わらず口を小さく開けて熟睡している。いっそその頭の角に本を投げつけて起こしたかった。この距離なら周りに迷惑を掛けず難なく目標にクリーンヒットすると思う。

(…やらないけど)

何でそんなに寝相が悪いんだ。俺が隣だと意地でも眠らない癖に何でそんなに熟睡しているんだ。一点を見据え続ける俺に周りの人が不審な目を向けてくるが、それよりもイドの寝相の悪さの方が気になる。もしイドの姿が見えない場所に座っていたなら、俺も気にせず本を読めただろうに。

そうしている内に、駅に着いた。それなりの乗客が降りていく中、イドの隣が空く。俺はすかさず荷物を持ってイドの隣に座り、未だおっさんの肩に寄り添う彼の頭をぐいっと此方に引っ張った。驚いたのかイドの体がびくりと跳ね、目が見開かれる。

「…!っなんだコルテス…」

「お前向こうに首傾けすぎ」

「……は?」

「眠いんだろ?」

「……あ、ああ」

「あと5駅くらいあるから。首、此方に傾けてろ」

未だ困惑するイドの頭に手を添え、自分の肩に寄り添わせる。これなら向こう側に首を傾けることはない。なかなか良い提案だ。だが反対にイドはぐっと眉をしかめた。

「コルテス…これ寝られない」

「なんで。寝やすくなっただろ?」

「君は何にも分かってない…」

「良いから。ほら、目瞑って」

幼子にするようにぽんぽんと髪を軽く叩くと、嫌だったのかイドの顔が若干赤くなった。だが視線をさ迷わせつつも段々と肩に体重を乗せていく。首筋に金髪が当たって擽ったかったが、諦めた様に目を瞑ったので良しとする。たまに居心地悪そうに身動ぐが気にならない程度だ。これで大人しく本も読める。

「…………」

女子高生二人が此方をちらちら見ながら携帯を連打しているのに気付いてまた文字が頭を素通りした。頼むTwitterで呟くのとかは勘弁してください。



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