「いくら室内つっても夜はまだ寒いし、ベルナールから毛布貰いに行ってこい」

気遣いに聞こえるその発言に苛立ちとどうしようも無い虚しさが込み上げたのは今宵で何度目だろうか。イドは恋人のその何気ない言葉に何も言い返すことが出来ず、黙って船長室を出た。





「おいベル、毛布余ってるか」

船員たちが雑魚寝する大部屋には、既に仕事を終えた者たちがそれぞれ寝る準備をしていた。もう眠ってしまった船員の上を跨ぎながら部屋に入ってきたイドに、大量の毛布を抱えて歩いていたベルナールは眉をしかめた。

「…またですか」

呆れ半分に呟く彼に、イドは黙ったまま頷く。自嘲することも、乾いた笑みも浮かべることは出来なかった。さぞ滑稽だろう、恋人と同室で寝る環境を得た男が、すごすごと別の寝台に寝るための毛布をねだりに来るのだ。決して柔らかくない厚みだけがある毛布を受け取って、イドは溜め息をついた。
イドの認識が正しければ、コルテスとは3ヶ月前に恋人同士になった筈だった。一方的な彼の告白に戸惑ったのは事実だが、友情と違った好意を抱いていたのはイドも同じで、正直嬉しかったのを覚えている。立場上1日中べったりとはいかない仲ではあるけれど距離が近い仲間にはやはり悟られてしまうわけで、同じ船に乗る部下たちに知らない者はおそらく居ない。隠す必要が無いならとコルテスは良くハグやバードキスを平気で部下の前でやらかし、それをイドがはねのけるのは最早日常と化していた。コルテスがスキンシップを会うたびに求めてくるのは、丁度出航前でお互い忙しかったからでもあるのだろう。仕事の合間しか二人きりになれない時間を、イドもそれなりに愛していた。だから船に乗って落ち着けば漸く恋人同士らしくなれると信じていたし、実際昼間は良く一緒に居る。だが、夜はどうだろう。今回はあまり長い航海ではないため速度を重視することも無く、いつものガレオン船ではなく、古いキャラベル船に乗ることになった。ベッドは船長室にしか配置されておらず、船員たちは殆どが雑魚寝だ。また航海士専用の部屋が用意されて居なかったので最初は船員たちと雑魚寝を考えたが、当の船員たちの必死の懇願により船長室に寝ることになった。そこまでは良い。何故大部屋に寝させてくれないのかは理解出来なかったが、船長室に泊まることが苦になることは無い。むしろ夜を期待していた部分は少しはあった。しかしコルテスはイドを部屋に通した後、ハンモックを其処に吊るし、部下に毛布を貰うように言ってくるのだ。最初は意味が分からず聞き返したが、彼は何でもないように丁寧に言い直した。何故別々で寝なければならないのかと疑問を紡ぐことも出来ず、イドが素直に毛布を貰いに行って今日で一週間になる。勿論、ベルナールにも二人の仲は伝わっているわけで、毛布を貰いに行く度に毎回複雑そうな顔をされる。それでも同情したり慰めようとしないのは彼の良いところだと思う。

「…凄く部屋に戻りたくない」

多分コルテスは今頃呑気にベッドで丸まっているのだろう。虚無感を抱きながらぼそりと呟くと、ベルナールはぐいとイドの背中を押した。

「そんなこと言ったって此処は定員オーバーですよ。頑張ってください」

「…あの鈍感をそのまま具現化したような男相手に何を頑張れば良いんだい」

「その鈍感男を好きになったのは貴方なんですから、私に何かを言う権利は無いと思います」

「権利を与えよう」

「イヤですよもう眠いです」

毛布を配り終わっていない時点で、まだ寝ることは出来ないのだが。顔に面倒くさいと書かれてあるベルナールに、イドは負けじと食らいつく。このままコルテスの部屋に戻り一人虚しく眠るよりは、部下を巻き込んで話している方がよっぽどましだ。毛布を貰いに行ってこい、とイドを送り出したコルテスの背には、お前を抱く気は無いとくっきり書かれている様に思えた。さすがにイドもセックスだけが愛を確かめ合う行為だとは思っていない。しかし二人ともいい歳した大人なのだから、そういう方面に思考が働くのは仕方の無いことだ。陸に居たときは忙しかったし、部屋も別々だったから気にしていなかったが、今は寝る部屋も一緒になるのだから多少は求められても良いと思う。

「もしかしてあいつ、男同士は無理なのか?」

「男同士で不快に感じるのは社会的や宗教的な禁忌観の生理的嫌悪からって聞きますが、船長は良くイドさんにハグやキスをしますし、告白も彼からですから其処に問題があるとは思いませんが」

「ハグやキスが大丈夫で、それ以上は無理とか」

「ハグはともかくキスに嫌悪を感じなかったら平気だって、良く言いません?」

何だかんだで世話焼きたがりなのか、いつの間にか他人の恋愛事情に食い込んでいることを本人は気付いていない。

「何らかの事情があるんだと考慮した方が、気分が明るくなると思います」

「何だそれは。私があいつに妥協する必要は無いだろう」

「恋人って言葉がゲシュタルト崩壊起こしますねそれ。さっきから憤懣やる方ないって顔してますけど、短気になるよりは前向きに付き合った方が円満具足な恋愛が出来ますよって私からのささやかなアドバイスです」

「君が投げ遣りなのは良く分かった」

俯瞰的に見たら皆同じような結論に至るのだろう。だが少なくとも当人にとって利口な解決策には思えなかった。他の事情を考慮したところで、また悲観な妄想に陥って眠れなくなることは目に見えている。これを恋だと言うのなら一生向き合いたくない感情だったが、好きになってしまったものは仕方ない。ただそれを衝動として抱え込む勇気がイドには足りなかった。定義不可能な感情と対峙するには、あまりにも知識や経験が少なすぎる。

「…苛立っているんじゃない、不安なんだ」

先程のベルナールの言葉をイドは否定する。コルテスに対する怒りをぶつけたいわけではない。不安や虚無感に押し潰されそうな心情を、苛立ちで包み込んで隠しているだけだ。男を誘う知識なんて欠片も持っていないし、雰囲気を作ることも出来ない。媚を売るのは死んでも御免だ。なのに好きな人には触れたくて、触れられたいと思う。恋だと銘打ったものに異性の肉体を求めることでしか関われない精神構造をした男が、理想の肉体どころか同性に恋をするという一種の病原菌を取り込んでしまった。免疫が無いのだからその毒が全身を駆け巡るのは早い。おそらく対処法を真剣に悩む時点で、深刻に侵されているのだ。以前のイドなら、その感情自体一笑に付して背を向けていただろう。

「…だったら尚更、こんなとこに居ない方が良いです。時間が経てば経つほど言いたいことが言えなくなりますよ」

「はは、今度は的を射たアドバイスだな」

「普通助言聞く側がそういうこと言いますか?」

貴方らしいですけど、と口を尖らせて不貞腐れた真似をしてみせるベルナールにイドは苦笑する。毛布を持ち直し、片手でぽんぽんと彼の頭を軽く叩いた。

「冗談だよ、ありがとうな」

イドは自分より年下の頭を撫でるのが好きだった。今までのやり取りを引っ込めて優しく礼を言うイドに、ベルナールは苦笑に似た表情を浮かべる。イドは自分に嘘を吐くタイプの人間ではなく、むしろ他人にも自分にも、それが良いことなのかは別の問題だが素直な方だ。胸に燻った感情を表に出さずに溜め込み、空想に惑わされることは滅多にない。それなのに今回胸の内をその原因に吐露出来ないのは、それが恋の相手だからか、それともコルテスだからか。以前の様に馬鹿馬鹿しいと一笑することはもう出来そうになかった。




イドは別に、コルテスに自分の望み通り動いて欲しいとは思っていない。だが、少しは此方の機嫌を読んではくれないだろうか。一度ならまだ良い。しかし一週間(つまり七回も)同じ反応をされ続けてみればさすがに堪忍袋の緒が切れる。ベルナールに後押しされ部屋に戻って鍵を掛けた時、広いベッドの上で欠伸をしたコルテスに「寝るならカンテラ消しとけよ」となんでもなさそうに言われ、プチンとイドの中で何かが切れた。

「船長、お話があるんですがね」

いつもと違う口調で話しかけてくるイドを違和感に思ったのか、コルテスが訝しげに眉をしかめる。イドは食物に群がる蝿か何かを見る目で自身の恋人を見下した。

「不動の信仰や思想を一部歪めて私を好きだと告白した君の行動に一貫性があるとか価値観がいちいち伴っているとは思っていないし、その点は私も了承しているつもりだ。だが中途半端に君の神を思い出して私を振り回すのはやめてくれないか。男と同衾することに抵抗があるなら初めから男に愛を語るのは止めてくれ。大体何故船長用に用意された無駄にでかい寝台を君一人が占領するんだい?お前ごときがベッドで寝るなんて百年早いってことか?嫌がらせ?君が優越感に浸るのは結構なことだが一人でやってくれないか。今夜も私に別で寝ろと宣うなら甲板に移動して星空を眺めながら眠ることにする。部屋が兼用で狭苦しかったのは事実だろうからな」

ぽかんと間抜けに口を開けたままのコルテスに一方的に言いたいことを捲し立てる。

「ではグーテナハト、良い夢を、船長殿」

結局この部屋にも、元からイドの居場所なんて無かったのだろう。コルテスにとってイドは大部屋が無理だから仕方なく泊まらせてやっているだけで、ベッドに招き入れることは最初から頭に無かったのかもしれない。そんな男に期待したことが馬鹿だったのだ。イドはさっさとコルテスに背を向けて、入り口付近に掛けてある外套を手に取る。もう仕事以外で部屋に訪れることも止めようと、私物を持てるだけ手元に集めた。叶わないものが常に視界を征しているのは不快だ。コルテスに妙な気を起こす前に早く背を向けるべきだった。しかし後悔に苛まれながらドアに伸ばした手を、突然背後から大きな腕が制す。

「イド」

「………」

低い声がゆっくりとイドの名前を呼ぶ。感情の読めないその音にイドはぴくりと肩を揺らした。それでも振り切って部屋を出ようとすると、ぐっと腕を引っ張られる。正面から抱き締められたと気付くには少し時間を要した。

「イド、悪かった。…そんなつもりじゃなかった」

「……何のことだい?別に君の謝罪が聞きたいわけじゃない。離したまえ」

「離したら外出ちまうだろ。嫌だ」

子供のように拒否してくるのに、体に回された腕は何処までも力強い。イドはぐっと眉を寄せて不機嫌を思い切り顔に出したが、コルテスの束縛が自力では解けないことを悟ると腕に抱えていた荷や外套を全て床に投げ捨てた。ドサリと重い音が響き、安堵したのかコルテスの肩から力が抜ける。

「すまんイド、不安にさせて」

そんな声で囁かれたら苛立ちを保ち続けられない。怒りの中に隠してある寂しさが表に出そうで、イドは固く手を握りしめた。どうして恋人同士になったのに、寝台を別にするのか。どうしてキスだけで済ますのか。どうして、何にも求めてくれないのか。様々な可能性を考えて気を紛らわしても、どれも悲観的な答えしか出てこない。次第にはコルテスと一緒に居る時間は全てその思考で頭を埋めつくし、彼と話していても虚しさしか生まれて来なくて、そんな自分がどうしようもなく嫌だった。

「……抱いてもいいか?」

肩を掴まれ、無理に視線を合わせられる。真摯な瞳が向けられて思わず逸らしたくなった。欲しくて仕方なかった言葉なのに、どう答えれば良いのか分からず唇を噛み締める。

「………好きにしたまえ」

正直、男同士の行為にはあまり詳しくない。元から女の体しか価値を見出だせない性だから知る必要は無かった。どのくらい負担があるのか分からないし、不安や恐怖が伴うのは誤魔化しようがない。それでも、触れてほしかった。それくらいコルテスのことが好きだった。ぼそりと蚊の鳴くような声で返答したイドに、コルテスは情けなく眉を下げて笑う。イドの体を解放し、腕を引いてベッドへ戻った。彼がベルナールから貰ってきた毛布を、コルテスが代わりにベッド付近の机に置く。縁に座りブーツを脱ぎ出したイドの横で、溜め息を吐くようにコルテスは呟いた。

「誤解されていたならこの際言っとくけど、俺の方こそイドとシたくて仕方なかったぞ。陸だと忙しいし宿には上司も居たから我慢してたが、船では此処でお前が寝るって言うから結構期待してたんだ」

「……では何故、寝台を一緒にしなかった」

「ふと気付いたんだよな。俺は良いけど、お前は駄目なんじゃないかって」

イドはその言葉にブーツを脱ぐ手を止める。

「…決め付けじゃないか」

「お前こそ、俺を女しか抱けないって決め付けてたろ。お前は末期の女好きの巨乳好きで、告白もキスも俺からで、本当に俺のことを好きなのかも分からないのに、抱かせてくれるなんて思うわけないだろうが」

つまり二人とも勝手に悲観的な妄想に囚われて互いに余計な距離を取っていたらしい。お互い様だと苦笑するコルテスに、イドは何も反論出来ずに口をつぐむ。イドがコルテスの行動を読み取って行為に及ばない理由を探ろうとしていたのと同様に、コルテスもイドの一挙一動に意味を見出だそうと躍起になっていたのだ。理解した瞬間にコルテスの視線を意識してしまい顔が熱くなるが、イドは逡巡しながらもブーツを脱いでベッドの横下に置いた。足もベッドに乗り上げたイドを、コルテスがきつく抱き締める。

「……っ」

「好きだ、イド。ずっとこうしたかった」

体の中から沸き上がった熱に呼吸が震える。手中にある体温が恐ろしくて、それでも酷く愛しくて、イドはその背中に腕を回した。行為を求めていたというより、愛してくれている確信が欲しかったのかもしれない。女のようだと自嘲するが、その気持ちに嘘を吐くことは出来そうにない。顔を離して見つめえば、コルテスはふと息を漏らすように笑いイドの頬に口付けた。

「男とヤッたこと無いのは俺も同じだから、イドが望むなら俺が下でも良いぞ」

「……実に魅力的な提案だが、後に気が向いたら抱かせてもらうことにするさ」

だから今は良いと言外に告げると、そうかとコルテスは頷く。酒場でそういう人間と交流がある彼に比べれば知識も無く、上だと途中で断念してしまう可能性があった。受身である方が多少スムーズに事が進むかもしれない。今回のでしっかり頭に叩き込んで、次に活かせば良いとイドは軽く考える。
そう思考を働かせている間にコルテスはイドの首筋をするりと撫でた。軽いリップ音を立てて頬を口付けて、唇にもやわく触れる。入り口を叩くように舌を出したので、イドは戸惑いながら唇を開いた。

「…っふ、…ん」

熱い舌が口内を犯し、その気持ちよさに思わず声が漏れる。バードキスをされたことはいくらでもあるけれど、舌を入れられたのは初めてだということを今更思い出した。男は単純なもので、ディープキスをすればセックスの前哨戦だと本能で認識してしまう。じわじわと舌から、内側から侵食してくる熱にイドは固く瞼を瞑った。今までキス一つで思考が掻き消されるくらい興奮したことはない。

「…っは」

「……イド」

唇が離れて互いの舌を透明な糸が繋ぐ。瞼を開けば熱に浮かされて苦しそうな表情のコルテスが映った。熱が篭った声で低く名前を呼ばれて動悸が激しくなる。イドはごくりと息を呑み、コルテスの下半身に目をやった。衣服ごしに見たそれはいつの間にか形を主張している。その意図を読んだのか、コルテスは苦笑した。

「…いいぞ無理しなくて。やったことないだろ」

「……確かに無いが、キスだけで反応するくらいなら一度抜いた方が私の為だろ」

「そうかよ。……じゃあイド、指」

否定も肯定もせず、曖昧に受け流してコルテスはイドの右手を掴んだ。イドの手のひらも剣を握っていることもあって固くなっているが、コルテスはそれ以上に皮が厚くがっしりとしている。太さの違う指で人差し指を撫でられることがくすぐったくて腕を引くが、彼は許してくれなかった。

「…っあ、!?」

突然、コルテスはイドの指を一本口の中に入れて舐める。ぬるりとした感覚に驚いて体がびくりと跳ねた。

「な、なな何して…!」

「やったこと無いんだったら教えてやるよ。こういうの口で言うより実践でやった方が良いし、いきなりでナニ噛まれたら困るし」

「…言いたいことはたくさんあるが何故君にそういう知識があるのかをまず問いたい」

「大学の頃酒の席でおっさんに」

「分かったそれ以上言うな」

考えることが恐ろしくなってコルテスの言葉を遮る。大して気にしていないのか、途中で制されたことに触れずにコルテスはイドの指の爪をゆっくりと舐めた。人差し指と中指と薬指の三本を纏めて掴むと指の腹を舌で撫でる。その焦らすような動きにイドは早速逃げ出したくなった。

「…っ、コルテス」

「舐める時は手も使え。カリから下を擦って、舐める時もこの動きを止めるなよ」

「…っ、ん」

「唾液は出来るだけ多く出して、まあ…亀頭が一番イイだろうけど、そこだけ舐めるなよ。根本からくわえて全体を愛撫するんだ」

コルテスの親指と人差し指がイドの纏めた三本の指の間を丁重に舐める。大きな口が指を飲み込み、その生暖かさに腕が小刻みに震えた。口内でイドの反応を探るように蠢く舌が指を撫でる。

「当たり前だけど歯立てるなよ。頭動かして出し入れする。余裕があったら強く吸え。顎疲れるけど」

「……、ぁ」

「イドはここがイイのか?」

「っあ!?…やッ、ん」

「っ、かわいいな。イドは髪長いから耳に掛けて顔見えるようにしとけよ。俺が興奮するから」

「…あ、う…っや、もう」

ぐりぐりと舌先で水掻きを押されて声が漏れる。その変態くさい説明の仕方をどうにかしてほしい。刺激から逃れたくて指を引いても、コルテスががっしりと手首を掴んでいるので叶わない。ちゅ、ちゅと唾液ごと指を吸う音が響き羞恥で死にたくなった。コルテスはたまにイドの様子を見上げては、口の端を吊り上げて意地悪く笑う。

「イド」

気付いたらいつの間にかコルテスは口から指を抜いていた。透明な糸が引き濡れ光る指を眺めながら名前を呼ばれて顔が熱くなる。コルテスは唇についた唾液を腕で拭った後、イドの前髪を掻きあげた。実践しろと言われているのだと気づいて、イドはごくりと唾液を飲み込んだ。

「…怖じ気づいた?」

「…………な、わけないだろ」

「はは、声が引きつってんぞ。途中まででいいからやってみろ。女にされて気持ちいいとこあるだろ。ちょっと意識するだけで変わるから」

だから何でそんなに詳しいんだと噛みつきたくなるが、絶対に良からぬ返答が返ってくるのはさっきのやり取りで悟ったので言葉に出すのは止める。愛しそうに唇を指で撫でられ、意地になったイドはコルテスのベルトを音を立てて引き抜いた。出来るだけ彼の眼を見ないように事を進める。イドが決意したのを察したコルテスはベッドに立ち上がり、イドはその前に膝立ちになった。下着をずり下ろすと勃ち上がり掛けた性器が露になり、つとイドの唇に当たる。羞恥を隠そうとしてぐっと眉間に皺が寄った。

(こんなの入るのか…?)

規格外な大きさにふと疑問が浮かび、すぐに頭を振って思考を止める。今は何かを考えたら恥ずかしくて先に進めなくなる。コルテスの視線は頭上から痛いくらい感じるが、何を考えているのか一言も言葉を発しない。髪を耳に掛けたあと、毛を片手で退けて、唇で先端を軽く啄む。まだ口には含まずに全体を軽く舐めた。噂のような苦さは無いがしょっぱくて思わず眉を寄せる。カリに舌を滑らせると「ん」とコルテスが軽く呻いた。

「…そこ、いい」

「………そうか」

なんと答えれば良いのか分からず曖昧な返事しか出来ない。必死に娼婦がどんな風に振る舞っていたか思い出そうとするが、行為の時に囁かれた甘い台詞などは死んでも吐けそうにない。先程のコルテスの言葉を順々に頭の中で整理し、言われた通りに性器全体を舐めて亀頭を口に含んだ。舌を出して愛撫し、余裕が出てきたので唇でも刺激する。絶対鼻の下が伸びて頬が痩けてるんだろうなと思ったが、顔を伏せていればコルテスに見られないからまだ良いかと思い直す。

「…お前、巧いな」

「…んっ……ふれひくない」

「顔上げろよ」

「…っ、ぅ…ふ!?」

無理矢理頭を掴まれて顔を上げさせられる。このタイミングで顔を見たら萎えるだろと吠えたくなったが、口が塞がっているために反論出来なかった。此方を見下ろしたコルテスの表情は間抜けなくらい唖然としていて、イドが性器を離す前に自分の口に手を当てて顔を逸らす。

「イド、やばい。エロい」

「……っ」

口の中のものが一気に大きくなってイドの呼吸が詰まった。う、と声が漏れて思わず唇を引き締めると、それがまたコルテス自身を刺激してしまう。多分そろそろ限界だろう。初めてだが、こういう反応はすぐに分かった。

「こうてす、…もう、?」

「っ…、ああ。出して良いぞ。不味いだろ」

「…ふ、ん…ぁむ」

「おいイド…!?」

最初からコルテスをイかせるのが目的だから、むしろさっさと出して貰った方が良い。慌て出したコルテスを尻目に唇と舌で性器を奥から先に滑り、最後に先端でズッズッと定期的に吸い上げた。それが切っ掛けだったのか、掠れた呻き声と共に中から一度に精液が出てくる。

「…ふっ…!んん」

「……ぁ、イド」

思ったより量が多く、イドの口に入りきらずに口端から漏れてシーツに軽く染みを作った。出来るだけ飲み込んでやろうと唇で吸い上げた白濁を喉の奥に通す。ひどい味だが、覚悟していたからか不快には感じなかった。一通り飲んだ後唇を離し、顎に流れてしまった精液を服の袖で拭う。

「…すげえエロかった」

さっきからその感想しか言ってない。イドは恥ずかしくなって顔を見ないままコルテスの口を塞ぐ。

「君はそれ以外に他に言うことは無いのか」

「強いて言うならフェラは口じゃなくて手コキが基本で唇の愛撫だけじゃそう簡単に気持ちよくなれないのにそれでも俺イッちまったとか思うとお前どんだけエロむぐぐ」

「同じことしか言ってない!!」

口を押さえる手に力を込めて吠えると、コルテスはにやりと唇を歪めてイドの手を取って逆にベッドに押さえつけた。

「…次は俺の番だな」

「………っ」

今ので結構精一杯だったが、そういえばまだ本番には行っていない。今更そのことを思い出してひくりと頬をひきつらせるイドに、コルテスは心底楽しそうに微笑んだ。

「大丈夫、優しくしてやるから」





普段船員達に対し多少高飛車な物言いをしたり、遠慮の欠片もなく低能と罵るような男が、ベッドの上で声を上げないように必死に耐えている時の表情など誰も想像出来ないだろう。イドをベッドへ押し倒し、シャツのボタンを上3つだけ開けて、ちゅ、ちゅとリップ音を立てて軽く口付けていく。そのたびにイドの薄い喉仏が動き、コルテスは口元を歪めた。かわいい、と囁くと顔を赤くして髪を掴まれる。

「…そういう、君は、まるで獰猛な動物、ん、みたいだ。…虎とか、ライオンとか」

「へぇ、じゃあイドはさしずめ小動物か?たとえば、太陽の様な毛並みを持つ金色の猫だ。気紛れで、餌をくれる奴には近寄る癖に一向に触らせてくれない。綺麗な容姿で相手を魅了させるだけさせて、好意を抱かれていると勘違いする低能を鼻で笑う。だがその猫はライオンにだけは心を許してて、必死に自らの魅力を振り撒き、ライオンがその匂いにつられていつか食ってくれることを待ち望んでいる」

「自惚れるな。同じネコ科だから、親近感が、っ湧くだけだよ」

「きっとライオンも猫が好きだから大事に食べる。柔らかくて小さな感触を味わいたくてゆっくりと歯を立てるんだ、こんな風に」

「っあ、ぃ…!」

イドの首の薄い皮に歯を立てると、急所を噛み付かれた本能からかびくびくと彼の肩が跳ねる。反射的に退けようとする手を押さえ込み、するりと右手でイドのベルトを外した。カチャカチャと派手になる音が恥ずかしいのか音から逃れるように顔を逸らす彼が本当に食べてしまいたいくらい可愛い。そのまま下着をずらして鎌首をもたげたイド自身を取り出すと、その空いた右手で近くのテーブルの引き出しを開けて香油を取り出した。主にイドが使っているものだが、他に無いから仕方ない。

「…は、っうあ!」

「すまん。冷たいと思うが耐えろ。指も入れるから、俺の指噛んでろ。最初痛いと思うけど、10分ちょっと慣らしたら男でも入る」

「…10分、って…長くないか…?」

「何かくだらないことでも考えていれば良い。出来れば、俺のこと考えてて欲しいけど」

「っひ…ぅ」

右手とイドの下半身に垂らした香油で何度か性器を扱き、彼の息が浅くなったのを確認して指で入り口を軽く撫でた。不快感からか暴れだした両足を退けて股の間に入り、何度か丁寧になぞる。拒むように肩を掴まれたがその痛みは放置し、イドの唇に指を入れた。噛めとは言ったが、躊躇しているのか唇で軽く挟んでくるだけだ。変なとこで気を遣うやつだなと思う。だが指摘されたくは無いだろうから黙って蕾を広げた。ぬるりとした液体を入れ込むように一本中へ入れる。

「痛くないか?」

「ん…っは、ふ…」

こくこくと頷いたのでコルテスは安心させるように軽く微笑んだ。別にお前を痛め付けたいわけではないのだと教えるように、ゆっくりと指を出し入れする。少し中が解けてきたことを慎重に確認し、二本目も中に入れた。イドの顔色は良いとは言えないが、痛みに顔を歪めることはない。多分痛みが無いのは本当だろう。女も濡れていなければ粘膜に摩擦が生じて痛みを生むが、逆に言えば濡れていれば男でもなんとかいけるようだ。イドの中を指で感じながら、コルテスはそこに彼の快楽を見出だそうと躍起になって指を動かす。

「っあぁ…!?」

びくりとイドの体が異様に跳ねた。何が起こったのか分からず目を丸くして見上げてくるイドに、コルテスは口角をつりあげる。

「見つけた、ここだろ?」

「っうああ!、やっ、やだ…!ひっ…ぁ、なに…!?」

「指、三本入れるぞ」

「あ、まって…っやあ!ぁ、あぁ…そこ、そこやめ、っあぅ!」

口にあった指を吐き首を振りながら快楽に耐えようとする。先程近くに置いた毛布を見つけ、即座に取ろうとするイドの片手を封じ込め、非難するようにぐりぐりとそこを刺激した。涙を溢しながら腰をひきつらせる目の前の恋人に、コルテスはどうしようもない情欲をその胸に抱いた。切れ切れの喘ぎ声を漏らしていたイドが、ふいに腕を伸ばしてコルテスの唇に触れる。なぞるような指の動きにキスをねだっているのだと察し、指の動きはそのままに唇に深く口付けた。

「…っふ、う、…むぅ、んぁ!?」

舌を動かして口内を翻弄しながらイドを快楽の海へと引きずり込み、指で一点を集中的に押すと彼は口の中で悲鳴を上げて達した。自分でも状況を把握仕切れないのだろう、困惑した表情で見上げてくる。その様子を見つめながら、中が狭まることを危惧してコルテスは指を動かし続けた。

「…ふ、あぁ…ぁあ」

「イド、気持ちよかったか?」

「ん、あ…コルテス…。い、イイからも、まだ…ぁ?」

「……ああ、わかった」

もうつらいよな、と話しかけると、イドは頷いた。コルテスは指を抜き、代わりに自身をそこに擦り付ける。熱い塊が先程まで散々焦らされ敏感になった粘膜に触れ、イドはぎゅっとコルテスの肩の服を握り締めた。小刻みに震える指先にまだ覚悟が出来ていないのだと判断し、コルテスは微笑んでイドの涙で濡れた頬を撫でる。

「怖いだろうけど、出来るだけ力抜けよ」

「ん、どうやって…?体がひきつって、やり方分からない」

「そうだな。まず大きく息を吸って、…吐いて。そう…もう一回」

コルテスはイドに指示を出しながら、彼の気を逸らしてゆっくりと準備を進める。片足を肩に乗せて、ぐっと上体を前に押した。コルテスの指示通りに胸を動かすイドの呼吸に合わせ、焦らすように擦り付けていた先端を中に入れる。

「っは、あぁぁぁあ…!」

「…く、は…きつい」

「あっやあ…っあ、あ!コルテス!」

熱い塊が中を侵してきたことに敏感に反応して締め付けてくる中にコルテスは顔を歪める。やはり男相手だと女のように簡単にいかないようだ。香油の滑りを利用して、出来るだけ中を傷付けないように慎重に進める。その焦らすような動きがつらいのか、コルテスの指示に従って整えていたイドの呼吸が乱れた。

「っ…イド!」

「はぁ、っあ、ああ、コル、テス」

「俺を見ろ。息を吸え」

「っ…あ、ふ」

「そう…吐いて」

「っん…ふ、ぅあ、ああ」

声をひきつらせながら何とかコルテスの言葉を耳にとどめて呼吸をするイドに合わせて彼も熱を前に進める。前立腺を一度に擦り、ひくりと達しそうになったイドの性器を片手で掴んで制した。そのままなんとか腰を動かして全てを収める。

「あ、…は…」

「イド、動くぞ」

「っひ、ぁあ」

前立腺を擦られ、呼吸を乱され、欲望を制されて酷くつらそうだったが、これ以上はコルテスも我慢出来そうになかった。イドの腰を掴んで何度も叩きつける。ぐちぐちと卑猥な水音が部屋に響き、イドは恥ずかしそうにシーツを握って顔を逸らした。その仕草が可愛くて、自然とコルテスの頬が緩む。

「っあ、あぅ、ああ、あ…!!」

「イド、きもちいい、か?」

「っん、ぅ…やあ、あっ」

「…やばっ、ん…エロいな」

誰もが認める実力を持つ一等航海士。いつも余裕を表情に浮かべて人を導く彼が、自分の下で髪を乱して泣き叫んでいる。陸の上で戯れにバグやキスをするたびに、いつかこうなる日が来れば良いと待ち望んでいた。今では恐ろしいくらい近くにイドの体温があり、望めばいくらでも熱を繋げることができる。どうしてこんなにこの男は色っぽくて可愛いのだろう。助けを請うように腕を伸ばされ、愛しくてその手に指を絡めた。隙間を縫うようにきつく繋いでシーツに押し付け、快楽で歪んだ彼の顔を見つめる。

「っイド、…好きだ。ずっと、好きだった」

「あぁ、ん、あ、コルテス…っ」

律動を早めて中をきつく抉ると、汗に濡れたイドの喉が震える。喘ぎを断続的に溢しながら、必死になにかを伝えようと口を動かした。

「っあ、コルテス…私、も」

「イド…?」

「私っ、も……っ好き」

震える唇が吐息のような音を漏らし、その内容に顔が一気に熱くなった。
――ああやっとその言葉が聞けた!
歓喜に震えてぎゅっとイドを抱き締める。いきなり胸に顔を埋めたコルテスに驚いたのか、イドは息を荒くしながらも目を丸くした。白磁のようなすべらかな肌にしっとりと汗が染み込み、狂えるような色気を放つ彼を腕の中に閉じ込めて存在を確かめる。

「Gracias…イド」

「っい、きなり…どうした低能。恥ずかしいぞ」

「お前が好きすぎてどうにかなっちまいそうだ」

「…また君は、よくそんなセリフを吐けるな」

呆れるようにため息を吐きながらも、嬉しさを隠しきれずに顔が仄かに赤らんでいる。これを愛しいと呼ぶのだろう。胸に込み上げた感情に苦笑し、ぐっと腰を押し付けた。軽く悲鳴を漏らすイドに笑う。

「っ仕方ねえだろ、好きなんだから」

「っや、あっ…あー、やぁぁ…も、でかくすんな、っふぁ」

「すまん、…っ」

「も、もぅ…あぁぁ、ぅあア…むり、ぃ」

コルテスが腰を動かす度にぐちぐちと音が鳴り、抽送を繰り返された中は体液を溢す。その全てから逃れようと身を捩るイドをコルテスは逃がさず、腰を固く掴んで乱暴に突き入れて柔らかい肉を抉った。本当はもっと相手を考慮すべきなのだろう。だが一度スイッチが入った衝動は欲を解放するまで決して収まらない。泣きながら懇願するイドの声を聞き、眉をしかめて快楽に耐えながらコルテスは腰を動かし続けた。

「…っひ、あぁぁ、アア…!」

「…く、ぅ」

拷問のような悦楽を通りすぎ、コルテスは中に精液を注ぎ込んだ。中に出されている感覚にもイドは敏感に反応し、小刻みに四肢を震わす。はあ、とお互いに息を吐き出して呼吸を整えた。じんわりと染み込む肉壁を感じながら、イドの汗で濡れた前髪を掻き分けてやる。イドはそんな様子を眺め、声にならない声でコルテスと恋人を呼んだ。それに笑い、イドの横に倒れこむと毛布を手繰り寄せる。

「すげえよかった。イド、お前やっぱり可愛いな」

「…そう言われて喜ぶと思っているのか」

「そうやってすぐ顔赤くしてこっち見れないのも可愛い」

「……低能が」

熱を吐き出したばかりの頭では上手く言葉を手繰り寄せることが出来ないらしい、ぽつりといつもの罵り言葉を呟いただけだ。それが無性に愛しくて、腕を背中に回して胸に抱き込む。それにイドは反射的に身動いだが、やがて胸に頭を埋めて動かなくなった。表情を精一杯隠す柔らかい金髪を撫でてやる。

「どんなにお前が嫌がっても、もう離すことなんて出来ないからな。覚悟しろよ」

髪を撫でながら耳元で囁くと、暫く何の反応もなかったイドが僅かに顔を上げて、ちゅと胸元にキスを落とした。まるで肯定するかのようなその行為にコルテスは緩む頬を抑えきれず、腕の中の可愛い恋人を強く抱き締めた。




―――
これぞリア充爆発しろというやつです。
コルテスの「可愛い」は、女の子の様な愛嬌があって愛でたいみたいな意味は欠片もなく、色っぽいとか仕草がきゅんとくるとか好きとかそういう言葉を諸々短縮して「可愛い」なのです。コルテス専用辞書とか作るべき。
タイトル考える気さらさらなくてごめん。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -