「今晩はベルナールです」

扉を開いた瞬間現れた無機質な声と表情にイドルフリートは眉をしかめた。陸に足を付けてからも習慣で続けている日誌を今夜も寝ずに書いていたから良かったものの、時計を見れば真夜中だ。非常識にも程がある。イドは不機嫌な顔を隠そうともせずに、訪問者の隣の無駄に大きい荷物に目をやって溜め息をついた。

「それはなんだい?」

「見たら分かるでしょう。コルテス将軍です」

「…何故運んできたか訊いているんだが」

眉一つ動かさず淡々と告げるベルナールが肩に担いで運んできた荷物は、殆ど夢の中に全身浸かったよう状況で無理矢理立たされていた。威厳など欠片も存在しないが、紛いもなく我らがコルテス将軍である。イドは彼の顔を覗き混み、その顔が真っ赤に染まっているのを確認した。寝息から酒臭さが伝わり嫌そうに露骨に手で払う。コルテスが昔から酒を飲むと常人よりも顔を真っ赤にする体質であることを彼は知っていた。酒場か何かで意識が朦朧とする程煽ったのだろう。面倒臭いことが誰よりも嫌いなイドは、その元凶になりそうな荷物を運んできたベルナールを睨んだ。

「お引き取り願いたいのだが」

「勿論、荷物を受け取ってくれたら帰ります」

「受け取り拒否したい」

「断ります」

ベルナールは間髪いれずに応えてくる。何を言っても聞く気はないようだ。だがそこで、仕方ないと受け入れてやる心の広さはイドにはない。何故自分が面倒を見なければならないのか。実に不思議だった。それに拒否権は此方にある筈だろう。
コルテスは二日酔いの度に後悔し「もう酒は飲まない」と宣言して繰り返す典型的な低能ではあったのだが、船を降りてからの最近(といっても5日程度だが)は本当に自分の限界を越えるような飲み方はしなかった。なのに何故今日は抑えが利かなかったのか。こうなった原因を探るため、イドは思わず今日の曜日を頭の中で確認する。

「…日曜日、か」

その曜日は十分この男の状態の原因になり得た。船の中でも曜日の感覚はきちんとしていて、日曜日になると必ず船員をひとつの部屋に集めて僧を中心にミサを執り行う。さすがに波相手に仕事を休むことはできなかったが毎週それなりにらしい日曜日を過ごしているので陸での習慣が薄まることはない。船の上なら日曜日でも構わず大忙しな午後が陸に降りるとその仕事も全く無くなる。それは自然と人を欲の方向へ解放するらしく、本来なら部屋の中で大人しく聖書を読む有意義な休日を過ごすべきなのだろうが、午前は教会へ行きその足で酒場に足を踏み入れ朝まで飲み明かすことは珍しい話ではなかった。それどころか習慣化されていたので、船の出港日を月曜日にしたことはない。何故なら船員全員二日酔いで船が動かせないからだ。
今回イドは平日怠りがちだった睡眠を思う存分耽っていたい気分だったので酒場に行くのは断りそのまま宿屋に戻った。コルテスが執拗に来るように誘っていたが、重くなる瞼の誘惑の方が自分にとって重要だったのだ。そして日が落ちるのと同時に目を醒まし、今までずっと書物に目を通したり日誌を書いたりしていたのだが。

「将軍が酒場で酌していた女性に絡み始めたので、そんなに絡むならハブられているイドさんに絡みに行けと、嫉妬したらしい船員の数人から提案が出ました」

「………」

何処から指摘すれば良いのか分からなくなってイドは口を開いたまま固まってしまう。気持ち良さそうに眠っているコルテスが非常に恨めしかった。そのまま海に突き落とせば酔いも覚めるのではないだろうか。
ベルナールは無言のまま突っ立っているイドの合間を通り抜けて、彼のベッドにコルテスを寝かせる。ブーツもそのままなのでシーツに土がこびりつき、イドは反射的にベルナールを睨み付けた。

「そこに置いたら私が寝られないだろう」

「寄り添って寝たら良いんじゃないですか?」

「ベル、君ももしや相当酔って」

「それじゃあ確かに届けました」

イドの言葉を遮りベルナールは部屋を出て扉を閉めてしまう。イドの右手が虚しく扉の前で浮いた。扉の向こうの足跡がカンカンと小気味良く階段を降りていき、そして遠ざかる。今更出ていって呼び止めることも出来ず、イドは行き場の無くした右手で扉を軽く叩いた。

「私は便利屋か何かか」

投げ掛けた文句は返ってこない。イドは嘆息を吐くと諦めて扉から離れた。そして机の上に置いてあるインク入れに蓋をし、日誌を乱雑に整理するとまとめて端に追いやった。『本日は晴天なり』という書き出しのまま放置されたそれは、おそらくもう付け足されないだろう。また明日改めて『本日は』から始めるのだ。晴天かどうかは知らないが。
今日は晴天だがイドの機嫌は曇天だ。この男どうしてくれようと幸せそうに夢の世界へ旅立っているコルテスに目を向ける。本当に海に落としてやりたい気分だ。しかし浜辺まで運ぶのは自分なのでその提案はすぐに否決された。

「全く人の気もしらないで…」

午後にそれなりに睡眠を取れたのでとりわけ無理にベッドで眠る必要は無かったが、理不尽に寝床を取られてそれを黙ったまま見過ごすのも何だか癪だった。コルテスにベッドを譲り、自分が椅子で眠るのは間違っている気がする。そうぶつぶつと文句を口にしながらイドはベッドの傍へと足を運んだ。日誌を書く気も失せたし、借りた本は全て読み終わった。もう彼には寝ることしか暇を潰す用事が見当たらなかった。ベッドの傍で床に膝をつき、無防備に寝息を立てるコルテスの寝顔を覗きこむ。
そういえば彼の寝顔を見るのは本当に久々だった。もし同じ部屋で眠る時があったとしても、大抵はその前の戯れにイドが疲れ果て先に寝てしまうことの方が多かった。寝顔なら、いつも一緒にいる彼より入れ替わりコルテスの相手をしている女の方が頻繁に眺めているように思えた。

案外、かわいい顔をしている

髭に隠れて幼い顔つきは目立たなくなっているが、学生時代からそれとなく彼の表情を見て知っているイドには成長に隠れた昔の面影を垣間見ることができた。先程の憤りは何処へ行ったのか、気づけばコルテスの下唇を抉る小さな傷痕をなぞるように撫でていた。目元が息子を愛でる母親のように優しげに細められる。彼はコルテスの傷痕も髭も好きだった。以前彼はこの傷が原因で髭を生やしたと言っていた。傷のことに触れられ、揶揄られるのが嫌だからだと。男らしさを象徴するものがそんなちっぽけな子供みたいな理由で型どられたのだと思うと、それこそこのコルテスという男の中身を象徴しているようでイドは好きだったのだ。
撫でられる感覚がくすぐったかったのかコルテスの瞼が震える。イドはすぐに我に返った。悪いことをしていたわけではないのに、気まずそうに手を引っ込めて立ち上がる。今までの行為を指摘されたくなかった。何故と理由を問われたら答えられない。

「…イド?」

寝る為の椅子を引っ張り出そうとしたイドを見上げて、コルテスはぽつりと言葉を落とした。思わず手を止めて視線を上げると彼と目が合う。酒を煽っていた筈の目元は意外としっかりと開いていた。

「なんだい?全く、何故私が君の面倒を引き受けなければならないんだ。目が覚めたなら帰りたまえ。其処は私が寝る場所だ」

「…イド」

並べ立てた虚勢を一掃するようにコルテスはやわく彼を呼ぶ。おいでと手招きされた。人の話を全く聞いていないようだ。これ以上文句を言っても受け流されるだけだと察したイドは、彼の言葉に素直に従って椅子から手を話した。ベッドの縁に腰を掛けて彼を見下ろすと腕を伸ばして頬を撫でられる。そのまま顎下を擽られて私は猫かと思わず突っ込みたくなった。別に猫ではないので喉をならしたりはできない。ただ擽ったかったので、やんわりと彼の腕を掴んで制した。何が嬉しいのかコルテスの目が優しげに細められる。見たことのない表情にイドはろくな反応もできず固まってしまった。

「はは、イドだなあ…」

「…君、やっぱり相当酔ってるだろう」

「おいでイド」

「話聞けよ」

先程から同じことしか言ってこないコルテスに舌打ちする。しかし彼はそれを気にも止めずに掴まれていた腕を引き、逆に手を取って引っ張ることで体制を崩させた。イドは座ったまま上半身だけをコルテスに持っていかれ、背中に力強い腕を回され動きを封じられる。思わぬ行動に慌てて身体を持ち上げようとするが、暴れる度に力を強められ逃れることは叶わなかった。

「…勘弁してくれ」

「お前、なんで此方来なかったんだよ」

「は?」

呼吸確保の為に顔を上げるとコルテスと目が合って、予想外の近さに思わず逸らす。彼はするりと腕を伸ばして地面に降ろしたままだったイドの足をベッドに上げさせた。

「…っちょ」

シーツに土が付いてしまうのに!
ブーツを脱いでいないのに無理矢理動かすから、仕方なくそれを脱いで床に投げ捨てた。尚も抱き締められたままだったので腕を動かすのに苦労する。何だかんだでコルテスの要望通りに行動させられて、何故彼に従わなければならないのかと本気で疑問に思った。しかしコルテスの力は強く、それを破る抵抗力は持ち合わせていない。

「おれはお前と酒を飲みたかった」

「…何を言っているんだか。私が居なくても充分楽しんでいたそうじゃないか」

「…何故だ?」

「何故…って」

ベルナールがコルテスを運んだ理由は女に絡み始めたからだと言っていた。イドから見れば充分楽しんでいたように思える。だが、それをコルテスに言ってしまうとまるで女に嫉妬しているようだと取られそうで嫌だった。そんな惨めな自分を見せたくなかった。多少図星だったのだ。コルテスの疑問に答えられず口を閉ざすと、彼はイドを抱いたまま身体を起こした。シーツに汚れをつけたブーツをイドと同じように脱ぎ捨て始める。その途中でも逃さないようにしっかり抱き締めてくるから、どういう顔をして待っていれば良いのか分からなかった。
ブーツを脱ぎ終わったコルテスがイドに顔を近づける。

「落ち着け、やめたまえ、そのまま寝ろ。永眠しろ」

「やかましい。俺の寂しさを受け止めろ」

「あ?私には関係な…ッん、っ」

黙れと言わんばかりに口を塞がれて目を見開く。ぬるりと入ってくる舌に息をつめた。酒の味が伝わってきて此方も酔いが回る気がしてくる。目が合うことで熱を含んだ瞳に呑み込まれることを恐れてイドはきつく瞼を閉じた。いつもなら合間に息継ぎを入れることで段々と深みを増していく筈のこの行為は、今回は何故か最初から深く求められた。コルテスが寂しいと呟いていたのも些か間違いではないようで、まるで感情の隙間を埋めるように激しく絡めてくる。余裕の無い彼の行為を受け止めるのに精一杯で此方の思考回路まで埋められてしまう。ふと気がついたときには頭に柔らかい衝撃が走り、目を開くとコルテスの向こう側に天井が見えた。

「っは、はあ…は」

「…イド、していいか?」

「え、は?…っ待て、今此処でか?」

ブーツを脱いだ辺りから怪しいとは思っていたが、まさか本当にそういう雰囲気になるとは思っていなかった。心の準備が全く出来ていない。キスだって唐突だった。

「ああ、お前を抱きたい」

「…っ」

その率直な言い方をなんとかしてほしい。
正面から真顔で言われて、どう反応して良いか分からずイドは顔を赤く染めて息を呑む。一気に血が顔面に上がり熱くなった。これを恥ずかしいというのだろうか。両腕もシーツに縫い付けられていて、コルテスの中ではとっくにその気だったのだろうと今更気付く。見下ろされるのが酷く居心地悪くて顔を背けるが、それでもコルテスの視線を感じて泣きたくなった。訊いておいて最初から自分の意見など丸無視なのだ。その証拠に、頷いてもいないのに大きい手のひらがシャツの下に潜りこんでくる。

こうなった原因はなんだ。ベルナールがこいつを此処に引きずって来たのと、酒場の船員たちの訳のわからない提案が引き起こしたせいじゃないか。もしこうなることを予測して船員たちの中で賭けでもやってたら全員マストに逆さ吊りで公開処刑にしてやるとイドは固く決意した。



ああそういえば鍵掛けてないかもしれない、と扉の方に目をやりながらイドは舌打ちした。新しく導入した地図を思い描いて陸を想像でなぞり、島の名前を覚えている限り付けていく。海の場所によって変わる魚の種類や、世話になった異国の人間の顔を思い出す。いつもなら船の中で暇潰しにやるくだらない事に、今は全力投球していた。そうでないと思考回路まで根刮ぎ奪われそうだった。欲望に従ってみっともなく喘ぐことなど自尊心が許さず、身体とは別の方向に意識を集中させる。

「イド」

「…っふ、ぁ…」

「何考えてんだお前よ…」

シーツに額を刷り寄せて感覚に耐えるイドの背中を、ぬるりとコルテスの舌が伝い肩甲骨を執拗に舐めた。そういうことをするから耐えられないのだと、いくら彼に訴えても聞いてくれない。意識くらい逃がしてやりたくなる。
全身の服を剥かれ、自分を犯す男に尻を向けさせられたこの体勢はイドの羞恥心を増大させた。掴み辛いシーツに爪を立てて快楽を逃がす。既に尻にはコルテスの指が三本入っていて、先に足らされた潤滑油に絡み付き粘着した音を響かせていた。何回かの行為で完全に覚えられた前立腺をいたずらに擦られ、そうでなければ周りの肉壁をつついて煽ってくる。指では解放させてくれないらしい。触られてもいない前は先走りで濡れていてぽたりとシーツに染みを作った。

「あ、っあ、コルテス…ッ」

「ん、我慢出来ないのか?お前ン中、真っ赤だ。おもしろいことになってるぞ」

「あっ!?…ちょっ阿呆、見るな!」

「ここ、気持ち良さそう…」

「っ…!ん、ん、」

いつにも増して口数が多いのは酒のせいなのだろうか。不必要な実況をしてくる後ろの男に、イドの羞恥心は限界だった。思わずシーツから手を話して耳を塞ぐが、その手をコルテスに取られてひとくくりにされてしまう。

「えっ、え?」

きょとんと肩越しにコルテスを見ると、目を細めて嬉しそうに微笑んでいた。それに反射的に頬をひきつらせてしまう。絶対良からぬことを思い付いている。

「…っあ」

コルテスは片手でイドの両手を掴んだまま尻を弄っていた三本の指を抜き、その手で彼の髪を結わいているリボンをほどく。ぱさりと長い髪が重量に従って肩や背中に滑り落ちた。イドが困惑している間に、コルテスは器用に赤いリボンを彼の両手首に巻き付けてしまう。海賊や私掠船を幾度も拿捕している彼は、布切れのような紐でもしっかりと相手を縛る技術を身に付けていた。髪止めが立派な縄となり、後ろ手に縛られて身動きが取れなくなる。手で上半身を支えられなくなることで本格的に尻をコルテスに差し出す体勢を取らされることになった。

「っコルテス!!ふざけるのも大概にしたまえ!私は君の玩具になったつもりはないぞ」

「大丈夫だ。痛くはしないから」

「…っい、あ!?」

何が大丈夫なのか全く分からないお前が大丈夫か。そう叫びたかったが、まだ話は終わっていないというのに後ろから衝撃が走り、イドの声が裏返る。ズブズブと水音が後ろから響いた。切っ先を中に入れられ、狙ったように前立腺を擦っていく。イドは不快感を露わにシーツに歯を立てた。ぎりぎりと歯を食い縛っても快楽は留まって逃げてくれない。

「ふっ、ふぅぅ、ん、ふぁ、あ、やあ」

コルテスが入ってくるのが見えなくてもよく分かる。ゆっくりと呑み込まされている。拒否権など初めからこちらにはないのだ。この瞬間は、いつまで経っても慣れない。嫌だという感情が全て違うものに上書きされていく感覚がとてつもなく嫌で苦手だった。怖かった。自分が駄目になっていくようで怖かった。中がコルテスを迎えて広がっていくように、頭の中もだんだんと開かれていく気がする。

「あっん、っあ、深、い」

「…はあ、イド、イド。こっち見ろ」

「ふ、ふざけ…っだったら、この体勢、っ、なんとか…」

「そのままこっち見ろ、よ」

コルテスは許すことをしてくれない。縛られた腕も、シーツに縫い付けられた身体も、コルテスは許してくれない。身体を捩って肩越しに彼を視界に入れると、コルテスは上半身をイドに寄せて唇に触れるだけのキスをした。どちらかのか分からない汗が口に入って、少ししょっぱい味がした。涙の味に似ていた。

「動くからな」

「…っひ、あ」

ぐいと腰を引き寄せられて律動を再開する。男同士でするには一番楽な体位であるため、いつもよりも動きが激しかった。物にすがり付くための腕を封じられて、衝撃をそのまま受け止める身体がシーツに擦れる。

「あっ!あ、は、んあ…」

「…ん、締まる」

「…っう、あう、ああ」

快楽を感じているのか恐怖に震えているのか自分でもよく分からなかった。ただ混乱した頭をコルテスが後ろから優しく撫でてきたことは分かった。気付いたら涙が出てきて頬を濡らし、シーツに小さな染みをいくつか作っている。通りで鼻が詰まっていたのだと半ば他人事のように思考した。
内臓を押し上げられるような不快感を快楽に受け止めてしまうのはどうしてだろう。玩具のように好き勝手に弄ばれているのに彼を責められないのはどうしてだろう。変になる、なんて使い古された言葉だが、今のイドにはその気持ちが痛いほど理解できた。いつか自分が、この男の手によって壊される気がして。頑なに守ってきていた自尊心を、彼が自分に触れることによって跡形もなく砕かれる気がして。その恐怖が快楽に混在し、酷く混乱した。

混沌に恐れを抱き助けを求め必死に手を伸ばしても、どうせ掴むのはコルテスなのだ。

「…イくぞ、イド」

「ん、んあ…っあ…!!」

腰を叩きつけられ酸素を求めて顔を上げるのと同時に、イドにも限界が訪れる。中に乱暴に押し入られ好き勝手掻き回された、だが中に広がった衝撃は不快には感じなかった。出されてるなと頭の隅で思いながら、自分にしては酷くおとなしくそれ受け止めていた。





翌朝。イドの日誌には『本日も晴天なり』という一文がいつになく乱雑な字で殴り書きしてあった。途中で羽ペンをへし折ったのか、インクが血痕のように羊皮紙に染みを作っている。

「アルコールは一種の悪魔だと思う。イブが食った林檎にはアルコールが含まれていて、こう酔った勢いで性欲的なものが増したんじゃないか」

「で?」

「酒の勢いですみませんでした」

「それだけかい?随分と稚拙な言い訳を引っ張り出してきたものだねフェルナンド。君こそマストにくくりつけて吊り上げるべき存在だと私は今確信した」

「…何の話だ?」

「やかましい。君はもう酒を飲むな」

「そうは言うけど、お前が折角の休日を一人で潰すとか言い出さなければ俺もな…」

「は?」

「なんでもない。忘れろ」

ベッドの上に座らされているコルテスを見下ろすようにイドは仁王立ちし、何かを話す度に睨み付けてくるので口を閉ざした。それに今余計なことを言ったら火に油を注ぐ気がする。酒を飲んでも昨夜の記憶はしっかりと残っている為、いたたまれなさからきちんと反省もしていた。
船から降りてまだ一週間も経っていない。陸は船員にとっては休息所だが、イドはそれからも休む暇なく船の不備のチェックや食物供給路の確保など、目まぐるしく働いていた。船長という立場からそれを止めさせることはできない。確かにそれらの仕事はイドの役目だ。だからせめて日曜日だけは、仕事も何もかも忘れて仲間と過ごしたいと思っていたのだ。柄になく楽しみにしていたのだと思う。なのにイドは睡眠を取る為に抜けたいと言い出し、その楽しみを易々と打ち砕いてしまった。コルテスはそれを無理矢理引き留めることは出来ずに見送った。眠りたいと言う彼を引き留める理由が見つからなかったという方が正しい。疲れているのだから仕方ないと自分を納得させることで紛らわしていた。その抑え込んだ衝動が爆発した結果が、これである。

それイドに伝えても理解してくれそうにないので、コルテスは全てを酒の勢いのせいにして流すことにした。

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