イヴェサン

「………いべーるぅ」

「………」

「構えよ―」

「………」

「本と俺どっちg「本」

「………イヴェールのばかやろぉぉ…!」

「うるさい黙れ」

こんなやり取りを30分前から永遠と続けている。おかげで本のページを捲るスピードが自然と遅くなっていた。
テーブルの上には酒の瓶が転がっていて、ワイングラスが二つ。俺のものと、ローランサンのもの。
久々に仕事が上手くいったので、奮発して有りったけのワインを購入してきたのだ。しかしローランサンは人より少し酒に弱い。俺が酔う前に酔っ払いと化してしまったので、面倒ごとになると直感した俺は荷物から本を取り出して一人の世界に入り込むことに決めた。
それにローランサンが黙っているわけがないと知っているけれど。

「…いべーるさまあ」

「………」

「抱き締めたい…。キスしていいか?」

「………」

「セックスしたい」

「死ね」

「酷っ!そこだけ反応するなよ…」

「行ってくれば良いだろう」

「…へ?」

「だから、そんなに溜まっているならさっさと娼婦に甘えてこい。明日仕事無いし、朝まで帰ってこなくていいから」

「…ちがうっつの!……イヴェールばかやろ―…!」

「ローランサンのばかやろ―」

適当に返事をして本に集中する。とりあえず今の俺に必要なのは、騒音に負けない集中力のみだ。酔っ払いに構って良いことなんてひとつもない。
そう決め込んで、文字の羅列をじっと見据える。とても有難いことに、ローランサンはもう言葉を紡ごうとしない。
しかし彼は諦めたわけではないらしい。気付けば襟のところをぐいっと引かれて、目の前にローランサンの顔が迫った。キス、しようとしている。

「っって!」

唇が触れるところで、彼の頭を本で叩き落とした。

「お前のそれは凶器か!」

「うるさい。キスでコトに持ち込もうとする気なんだろ。そうは問屋が卸さない」

「けち!」

「けちで結構」

「イヴェールは俺より本のが大切なんだ……」

だからさっきそう言っただろう、と言い返そうと思ったが、ローランサンのテンションが思わぬ方向に行きかけているのに気付いて口を閉じた。
座っている俺の肩に両手を乗せて、ずるずると床に座り込んでいく。

「………そーだよな、本のが楽しいんだもんな」

「……おい、ローランサン…」

「俺もう、明日から本になろうかなあ…」

「………普通のフランス語喋れよ」

「だって、イヴェールが俺より本が好きだって!」

「……あ―」

面倒くさい。非常に面倒くさい。体が床に落ちていくように、彼のテンションも段々と落下していく。
普段ならこういうことは無く、ローランサンはそれなりに冷静に言葉を発することができる人間なのだが、酔うとなぜネジが2,3本飛ぶのだろう。

終に諦めたのは俺の方だった。
本を閉じてテーブルに置き、沈んでいくローランサンの頬を掴んで持ち上げる。
目を丸くしてこちらを見上げてくる彼に口元だけで笑って、お望み通りにキスをした。軽いキスで済ます気は全く無かったので、とりあえず舌も入れてみる。
ローランサンの睫毛が震えたのが見えた。

「………、」

その表情を見て、大きく溜息を吐く。
なんで誘ってきた本人がこんなに余裕無さそうな顔をするのだろう。
思い通りにはいかないと制したはずなのに、俺の方が流されていく。
唇を離してこれからどうするか数秒考えた後、彼を羽交い締めにしてベッドまで連れていった。





「……ん、あぅ…ぅ」

組み敷いた体を抱き寄せながら、熱を打ち込んでいく。
酒のおかげもあって、熱に浮かされたローランサンはいつもより少し感じやすくなっていた。まだ触ってもいない自身は、体を弄り始めた時点で反応していた。
彼から求めたことなのに、いつのまにか立場が逆転している。びくびくと跳ねる体は許しを請い、彼の顔は苦痛にぐちゃぐちゃに崩れている。
優しくしてやりたいとは思うけど、やっぱり何か今日は難しい。

「っあ、ぅあ…、やだっイヴェ」

「……感じてる、けど」

「んんんっ」

ふるふると首を左右に振る彼は本当に余裕が無さそう。気持ち良すぎるのが、逆に自分を追い詰めて苦しいんだろう。
感じてるのだって、上がる声を聞けばすぐに分かる。

「…構えって言ったの…お前の方なのに…」

「イヴェ、る」

動きを止めて見下ろすと、ローランサンが涙の溜まった瞳でじっと見つめてくる。可愛くて、流れてしまったそれを舐めた。
これ以上弄ったら壊れるかもなあと思いながら、彼がそう簡単に壊れないことも知っている。
苦しいのだと気付いていながら、深く深くキスをした。そして組み敷いた体を持ち上げて抱き締めると、手の中にある自身が大きくなった。

「っっ、あ、や、いきそ…」

「…っ、待って」

「っ!ひっ、あ…はな、して」

その言葉にぎゅっと自身を握って出口を塞いでやれば、ローランサンは泣き喚いて背中に爪を立てた。

「…やだ!や、つら…イヴェ」

「ごめん。もう少し頑張って…」

「あぁ、や、…っばか!はなして、んん」

うるさい唇をキスで塞いで、腰の動きを早める。ローランサンは声無くして叫び続けた。離してと懇願されても手の力を緩めない。
苦しいのはこちらも一緒だ。優しくしたいけど、いじめたくなってしまう。それ以前に、自分の欲望に邪魔されてそんなことを考える余裕も無かった。
離して欲しいのはこちらも同じだけれど、今更離れることも、離すことも到底出来そうにない。
情けなく眉毛が下がる顔に苦笑して、こうなった責任を取れと叫んでやりたかった。
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