朝早く学校に登校すると、既に自習室には友人が一人居座っていた。受験生も見えないくらい早い時間に何をしているのかと覗き込めば、珍しく勉強している。
俺に気付いていながら、我慢出来なかったのか犬歯を覗かせてエレフは大きく欠伸をした。虚ろな瞳で一生懸命プリントを見据えて、眠気と格闘している。
俺には眠気の理由が分かっているから苦笑するしかなかった。

「はぁ…オリオンか…、朝から野郎と顔合わせるなんてついてないな…俺」

「……お前今にも崩れそうな顔してるな」

会って早々溜息をつかれても反感する気になれない。だからと言って同情する気にもなれないのは自業自得だからだ。
もうあと1週間で期末試験という地獄が訪れる。成績があまり良いとは言えないエレフだが、やれば出来るということは俺も周りの先生もよく知っていた。
それで皆で相談し合って出した結論は、「テストが終わるまでミーシャ禁止令」
勉強中でも構わずミーシャに触れたがるシスコン兄の暴走を一時期やめさせて、勉強に集中させようという魂胆らしい。
ということでミーシャは少しの間ソフィア先生の所で寝泊りしている。エレフが寝不足なのはきっと、彼女が傍にいないからとかそんなものだろう。

「勉強終わったら存分に甘えれば良いだろ。それまでは一つのことに集中するのも良いんじゃねーの?」

「他人事だと思って…」

「他人事じゃん」

エレフのガードがない分、ミーシャに近付けて俺にとってはプラスだけどね、とは言わないでおく。このシスコンに何をされるかわからない。
今日何回目か分からない欠伸と溜息を繰り返すエレフの隣に座って、勉強道具をばらばらと出す。切羽詰まっているのはこちらも同じなのだから。

「ミーシャも、頑張れってお前に言ってたよ」

俺じゃ足りないだろうけど、ぽんぽんと頭を撫でてやる。
エレフは怪訝に顔をしかめていたが文句は言わず、頬を叩くと再びシャーペンを強く握ってプリントに立ち向かった。


―――


黄昏に近い午後。下校する生徒が増えてきた中で、自習室を覗けばまだ明かりが灯っていた。
誰も見ていないことを確認して、ミーシャはこっそりと部屋の中に入る。
受験生らしき生徒は疎らに居るが、皆殆ど帰る準備をしていた。そろそろ閉まる時間だ。
その中で一人眠っている者を見つけて、ミーシャは背後へと近づく。
すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てているのは双子の兄。オリオンから聞かされていたが、寝不足というのは本当らしい。

「頑張ってるのね」

離ればなれになった時間がとても切なく感じていたが、エレフの顔を見ると元気になった。今までも林間学校や修学旅行で離れて寝たことは何度かあったが、こんな長い期間ではないし、必ず次の朝には顔を合わせられる。
離れて不安になるのは、何もエレフだけではない。

「可愛いなあ」

髪を引っ張ってみても起きる気配はない。それは安心しきっている幼子のようだ。
ミーシャは苦笑すると、軽く髪を持ち上げて、見えたこめかみにキスを落とした。

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