シャイニング事務所所属アイドルたちによる夢の共演ライブが終わって今日で3日が経った。
元々人気が鰻登りだったST☆RISHはこのライブを通して先輩アイドルのファンからも認められ、更に勢いを増していた。
グループとしても人気の高い彼らだが、最近では個人としても活動を増やしており、雑誌の表紙を飾る者やテレビのクイズ番組に出演する者いた。


ふふん、と鼻歌混じりに私はマウスをクリックする。
インターネット上でも彼らの人気は垣間見える。
ファンたちの集う掲示板では先日のライブでのパフォーマンスが褒め称えられ、昨日のテレビ番組に出演していた音也くんのここが見どころだったとか、かっこよかったなどという書き込みにあふれていた。
その一つ一つに、「うんうん、だよねだよねー」と頷きながら私は目を通す。
コンビニで仕事帰りに買ってきた新発売の炭酸飲料(先週から音也とトキヤがイメージキャラクターとなった商品だ)を飲みながら至福の時を過ごす。


「あ、そろそろだ…」

リモコンを手に取りチャンネルを合わせる。
今日はトキヤが生放送で出演するバラエティ番組の放送日。
もちろん録画予約はしてあるけれど、生放送なのだから、生で見なければ意味がないだろう。

軽快な音楽とともに始まった番組、雛壇には有名芸能人がゲストとして並ぶ中、堂々とした態度でトキヤもそこにいた。

「今日も凛々しいなぁ……あれ?」

司会者の話に頷きながら笑顔を見せるトキヤを見て何か違和感を感じる。
そういえば今日は生放送だというのにメールが一通もトキヤからは来ていない。
仕事の内容に関しては守秘義務もあるし、忙しい人だからそんなに頻繁にメールが来るわけではない。
けれど、何かこれは是非見てもらいたいという仕事があるときは必ずと言っていいほどトキヤは律儀にメールを送ってきてくれていた。
そんな彼がこんなゴールデンタイムに生で出演する番組のことに全く触れないなんて珍しい。
もちろん、彼からのお知らせがなかったとしてもファン根性で彼らの仕事はしっかりチェック済みだし、音也・トキヤコンビの仕事には特に念入りに情報を仕入れているけれど。


でも、たまにはそういう日もあるよね。


そう流していたはずだった。
けれどテレビ越しで見るトキヤはトキヤなのに何かおかしい。
浮くことなく、そのスタジオの空気を読んで場に合ったリアクション、発言をしているし、それなりにおいしいカットもある。
けれど番組が後半へ向かうにつれて私はハラハラした気持ちで彼を見ることになった。
確信はない。
けれど、彼の性格に対する理解はそこらへんにいるただのファンよりは高い自信があった。
完璧主義なトキヤのことだ。
番組に穴をあけるわけにはいかないのだろう。そして、それをファンに悟らせたくないのだろう。

でも…。


「トキヤ、無理してる…」


顔色が良くない。
そう思える。

何気ない仕草、視線の動き、笑顔…。
完璧なのに何か引っかかる。

なんとか2時間の番組が終わったころには私はいてもたってもいられず、電話を掛けていた。
連絡先を交換して以来一度も掛けたことのなかった電話。
プルル…と呼び出し音だけが鳴り響く。
当然だ…、はっと気づいて通話ボタンを切った。
番組は終了したとはいえ、今もまだテレビ局内にいるんだろう。電話なんてできるはずがない。


突然の電話を謝る旨と、体調良くないの?という心配を記したメールを送る。


結局、その夜返信が返ってくることはなかった。





仕事がない日は私は目覚ましを掛けない。
そのため、思う存分寝るのだが、今日は朝からケータイがうるさい位になっていた。
間違えてアラームをセットしてしまったのだろうか。

「…うぇ!?」

寝起きの半開きの目に飛びこんできたのはトキヤからの着信表示。
慌てて電話に出た。


「も、もしもし?」



『もしもし?…一ノ瀬です』


「と、トキヤ…?」

寝起きだった頭が彼の声を聞いて一気に覚醒した。
トキヤ相手ではみっともない格好は見せられない。
今は寝巻きで、髪はボサボサ、顔すら洗えていない。
幸い電話では今の私の容姿なんてまったくといっていいほど向こうには伝わっていないのだろうけれど、それでも自然と背筋が伸びる。

『起こしてしまいましたか?すみません』

必死で取り繕おうとしたところでもう彼にはバレてしまっていたらしい。寝ぼけた声を聞かれてしまっていた。
恥ずかしく思いつつも返事をする。

「う、ううん!全然平気、もうすぐ起きるつもりだったし!」

うそだ。電話がなければ昼過ぎまでは完全に寝ていた。

『そうですか…。昨日は電話を頂いていたようですみません、メールも返せず…』

「あ、いいよ!それは気にしないで!私こそ突然ごめんね。…それで、トキヤ元気になった…?なんか調子悪そうに見えたから…」

『……そう、見えましたか?』

「う、うん。あ、でも私はそう思っただけでもし勘違いなら……」

自信はあったのだけれど、もし違っていたのなら迷惑だっただろうかと思いそう答えるとトキヤの返事が止まった。
そして次に彼から放たれた言葉に私は驚いた。と、同時に立ち上がる。

「……えっ?たおれた…?」

昨日、あの番組の収録が終わった後、トキヤは一人楽屋で倒れてしまっていたらしい。それを見つけたスタッフが慌てて119番。
意識を取り戻し、事務所の人たちと話をつけたのが今さっきだというのだ。

思っていた以上の大事…。入院先である病院名を聞くと私はすぐさま電話を切った。







「と、トキヤ…っ!?」

ノックをして返事が聞こえたのをいいことに私は勢いよく部屋へ飛び込んだ。

「どうしました?そんなに慌てて」

「ど、どうしましたじゃないよ…!具合は?熱とかはないの?」

本を片手にベッドに腰かけているトキヤに近寄る。

「軽い過労だそうですので今は平気です」

「そ、そっか!よかったぁ…!」

「それにしても早かったですね」

「え?」

「電話した時には寝起きだったようなので来るのは昼過ぎかと思っていました」

「だ、だって倒れたっていうから心配で!…あ、えっと慌ててたからお化粧とかほとんどできてないんだけど許してね」

「いえ。昨日の電話もメールも、そしてこうして駆けつけてくださったことが嬉しいので。…それに、あまりメイクは濃くない方が似合っていますよ」

にこりとトキヤが穏やかに微笑む。そのアイドルスマイルに私は頬がほてるのを感じた。
そうだ。今は目の前にトキヤがいるんだ。メールですら私なんかができていることが奇跡だったのに、こうして直接会えるなんて。

話をきくと今日もスケジュールがぎっしり詰まっていたはずだったのだが、ドクターストップが掛かってしまい今日一日だけはお休みになったらしい。
でも、それを聞いて安心した。
最近の彼らの人気と比例して仕事の量はかなり増えていたからだ。ファンである私が全部追いかけるのも辛いくらいに色々な露出があった。
だからこそ、一日であっても、こうしてじっくり休養をとることは必要なことだったんだと思う。

私もまた今日は仕事が一日なく、用事もなかったために暫く彼の話し相手になることにした。
お互い話す内容はやはり仕事について。こういうことがあって大変だった。こんな現場に立ち会い感動した。様々な話をした。
けれど、結局は私の方がトキヤの仕事に興味津々で、会話の主導権はトキヤに移っていた。
途中看護師さんがトキヤに点滴をしに来て、その白い腕に針が入るのを見て本人より私が痛がったり、個室である病室にあったテレビの天気予報が明日は雨だというのを二人で聞いたり、ゆっくりと時間が過ぎた。

すると、コンコンと不意にノックの音がした。
看護師さんかな、と思っているとトキヤが返事をする前にノック音の主は部屋へ入って来る。

「トっキヤー!!調子どうー?」

「…音也!」

驚きの声を上げるトキヤの隣で私は固まっていた。
音也だ。
生音也。この前のライブ以来の彼がすぐ近くにいる。

「…あれ…?君……」

驚いた顔をしたのは音也も一緒だった。私を見て目をぱちぱちとさせる。

「あ、こ、こんにちは」

座っていた椅子から立ち上がりぺこっと頭を下げた。

「トキヤが倒れたって聞いて、お見舞いにきて…!」

「あ、そっか。そうだったんだ…」

へへ、と笑うと音也は私の隣に立った。

「すみませんでした、音也。無事撮影は終わりましたか?」

「うん、ばっちり。トキヤも元気そうだし、よかったよ」

今日の朝入っていた仕事は急遽同じグループである音也にお願いする形になったらしい。
その仕事が終わり心配だった音也も私と同じく駆けつけた一人なのだろう。

けれど、今日の音也はなんとなく表情が暗い。
部屋に入ってきたときは元気そうだったのに。もしかして、私は邪魔だっただろうか。

「あのさ、ちょっと前にメールしたんだけど、見てない…?」

気まずそうな顔でこちらを見ながら音也は私に話しかける。
え!と声を上げ、私は鞄の奥底に沈んでいたケータイを取り出す。
確かに音也からのメールが来ていた。受信時間はトキヤから電話をもらった少し後だった。
電話を切ってからはトキヤの心配ばかりをしていたのでケータイを見るのを忘れていたことに今気づく。

「ご、ごめんね!音也!!」

「いいよ、君をトキヤを心配してくれて来てくれたんだろうし…。……おかげでトキヤもすごく元気そうだし」

にっと私に笑って見せるものの音也の表情はやはり納得いかないものだった。

「…音也…」

「でもさ、トキヤ。この子は…俺のファンなんだよ?」
「…えっ」

音也がちょっと乱暴に私の手を掴む。突然のことに私は驚いて音也を見た。しかし、その瞳は厳しい。
それに対してトキヤくんの瞳はどこか冷めている。色で表すのならまさに赤と紫。
彼らのイメージカラーがそのまま表れているようだった。

「そうですね」

「なんでトキヤがさ、この子と二人でいるの?俺がトキヤの穴埋めに行ってる間二人でいたの?楽しかった?」

攻撃的な言葉を投げかける音也。私はドキリとして背筋が凍った。
トキヤはそれに無言で睨み返す。

「倒れたのって、もしかしてこの子の気を引くためだったんじゃない?」

「そんな…っ」
はずがない。だってトキヤは仕事にいつも真っ直ぐ真剣に向き合っていて、自分にこんなにもストイックなのだから。
そういいたいのに、言葉が出ない。
私が何か言うより先にトキヤが言葉を遮ってしまったからだ。

「…だったら、どうだというんですか?」

トキヤもなにを言っているんだと私は小さく口を開いたまま彼を見る。

「…許せない」

「そうですか」

ぎゅっと握られたままだった手が解放されたかと思うと音也はさっと背を向けた。

「帰る、俺この後もまだ仕事あるから」

「お、音也…!」

「またね」

私にだけ言うとすぐに音也は部屋を走り去ってしまった。
そしてそこに残されたのは私と眉間に皺を寄せたトキヤだけ。
和やかだった雰囲気は一転、口を開くことすら躊躇われる空間に変わってしまった。













(事故発生)


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