幸せとは、たまたま転がってきたり、落ちてるのを拾ったりするものなんかじゃない。
自らの力で手に入れるものだ。

私は、そう思っている。

「きゃああああああああああ!!!音也ああああああ」


ステージに向かって、赤のペンライトを振る。
彼の目に届くのは沢山の赤い光のうちの一つなのかもしれない。
それでも、私は力の限りペンライトを振る。
左手には彼の名前の入ったうちわを胸の辺りでぎゅっと握り、汗すらかいていそう。

一歩間違えば狂気にも似た熱気。
ステージの上で彼が微笑み手を振れば、バカみたいに心臓は跳ね上がり足ががたがた言い出す。
だが、決して倒れたりはしない。
ここで倒れたりなんかしたら、音也は全く見えなくなってしまうだろうから。

「みんなー!だいすきー!」

マイクを通して向けられたその言葉に沸き立つファンの群れ。

そして私も、その一人。


「私もだいすきだよ音也ー!!」


彼の言葉はいくらでも私の心のど真ん中を射抜くのに、私の言葉はどれだけ大きな声で叫んでも彼に聞こえることはない。
分かってる。
分かってるけれど、やめられない。

好きという感情は真っ直ぐすぎて、止められない。

たとえ、届かないとしても、彼が私だけに微笑みかけてくれることはないと分かっていても、私はやめられない。

だから、この幸せを私は自分の手で手に入れる。

辛いことがあったって、苦しいことがあったって、働いて、稼いで、チケットだってとって。

こうして、ライブという形をしていたって、私にとっては何より幸福な彼とのデートの時間になるのだから。



自分で手に入れた幸せは、私を幸せにしてくれる。

生きていると実感させられる。

グッズだって買うし、ファンレターも書くし、彼の誕生日にはプレゼントだって送る。

それで、幸せなんだ。

私は、それでよかったんだ。

叶わない恋だと分かっていてもなお、思い続けること。
それは、私には身分相応の幸せなのだから。






だけど、幸せってやつはたまにひょっこり、思いもよらないところから顔を覗かせる。

こんなに一生懸命に、私が幸せを掴むために頑張っていたって向こうは何食わぬ顔で突然現れたりするんだ。



「あ、君…これ落としたよ!」

「えっ、あっごめんなさい」

駅のホーム。

沢山の人が行き交うその場所で、まるで運命の出会いだとでも言うように、それは起こった。

仕事へ向かう私の鞄の中には、途中のポストへ投函しようと思っていたラブレターが入っていた。


「ありが……音……也……?」


その宛先の主が、私が落とした封筒を拾った。
少しだけ、変装をしているようだけれど、この私が見間違うはずがない。


慌てて飛び乗った電車。
私の後ろで、プシューと音がして、扉が閉まった。

目の前には、私が1番好きな人。

その彼の手には私のが彼への書いた手紙。

決して交わることのないはずだった私の片道切符。

でも、不思議。

何かの拍子に、私はいつもと違う列車に乗り込んでしまったみたい。



(始発駅)

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