うちの部にはマネージャーが2人います。
1人は2年生の先輩絵里サン。
ちょっと厳しいところもあるけど美人だし、仕事めちゃくちゃがんばってくれてるし、かなり頼れる先輩!
困った時は部長の和サンか、絵里サンに頼ればまず大丈夫だね!

もう1人は絵里サンと同じく2年生の夏姫サン。
夏姫サンは今年マネージャーになったばっかりだから俺ら一年生と同じ下っ端仲間!
絵里サンとは元々友達だったみたいで、人手不足を補う為に野球部入ってくれたらしー。
絵里サンとは違って、結構バカだと思う。
でもなんだかんだでいい人だし、俺は好き。
多分、他の奴らや先輩たちも夏姫先輩のこと好きだと思う。
面白いし。

「りおー!ボール取ってー!!」

「ボール?」

足元に転がってきた野球ボール。夏姫サンは両手でボールが山盛り入ったカゴを持って叫んで来た。

「行きますよー」
「こーい!ばっちこーい!」

足を大きく開いて夏姫先輩は俺を見た。30メートルくらいか。
軽く投げたらイイ感じにそのカゴにボールは収まった。

「ナイスコントロール!ありがとー」
「どーいたしましてー」

そして夏姫サンはそれを監督のとなりに置いて、伸びをする。
腰に手を当て体を反る。
なんかばばくさい。

それが終わったらなにやら監督に話しかけていた。
真面目そうな表情。
マネージャー業に関することでも話してるのかも。
かと思ったら笑った。
監督もなんとなく楽しそう。

「利央?なにやってんだよ」
「あ、準さーん」

午後の練習の為、ぞろぞろと先輩たちもグラウンドへと出てきた。
じっと立ち止まっている俺に先輩の準サンが声をかける。

「見て下さいよあれー」

ベンチに座ってる監督と、その前に立ってなにやら語っている夏姫サンを指差した。

「星崎?と監督?」

ちょっと目を細めながら準サンもそれを見る。

「夏姫サンって入部してそんなに経ってないのになんか馴染んでますよね」
「…そういや、まだ一ヶ月も経ってなかったな」
「俺ら一年は中等部からの持ち上がりも多いから分かりますけど、夏姫サンの順応力は異常ー」
「いいことだろ。それが出来なくて悩む奴だっているのに、星崎はすぐ打ち解けて仕事も覚えてくれてるんだし」
「けど、1番納得いかないのはアレですよ」

もう一度俺は指差した。
なんとなく、向こうの会話が聞こえてくる。


「監督監督!監督って、甘いもの苦手でしょう!ビールとバタピーあれば生きていけそうな顔してますよね」
「どういう意味だ、星崎」
「えっ!どういう意味っておっ…」
「おっ?」
「おっ……ぱい」
「はあ?」
「あ、ちょっと、こっち見ないでくださいよ!セクハラですよセクハラ!きゃー」
「おまえの乳よりはそこの球見てる方が俺は興奮する」
「なんなんですかそれー!!」
「おまえこそ何の話だ」
「じゃ、じゃあ絵里ちゃんのおっぱいは?」
「おまえよりマシだな。色気が足りんが」
「熟女趣味ですか」
「俺は嫁一筋だ」


「監督とあんな会話したことありますー?」

俺は振り返って準サンに問いかける。

「多分どの部員もねえと思う」
「ですよねー」

夏姫サンはどの部員より1番新入りなのに、どの部員より監督と仲がいい気がする。
うちの部の監督って言ったらすぐ怒るし怒鳴るし、練習は鬼だしで部内でも恐れられている。
うちのクラスの女子なんて近づくのさえ嫌がるのに夏姫サンは全くビビってない。

それどころか

「あっ」
「こんの馬鹿っ!足元すら見えてねえのか!ちゃんと片付けとけよ!すぐ使うんだからな!」

監督に対してあからさまに不満な顔を見せている。
部員は多少の理不尽でも、はいって答えるのが当然になっているのに夏姫サンは違う。

「わかってますよーだ!監督の……ばーか」
「今なんつった?」
「いいえーなんにもー?」
「聞こえてんだよ、ばかっつっただろ」
「聞こえてるなら聞き返さなくても」

さすがの俺もあそこまで監督の感に触ることいわねー。

「てめぇ…。これ、ちゃんと取ってこいよ」
「ギャアア!何転がったボール投げてくれちゃってるんですかー」
「うっし、午後練はじめるぞー」
「鬼ー!まじ鬼ー!般若ー!!」

監督が思いっきり投げたらボールを追いかけて夏姫サンは叫びながら走り出した。
監督のおもちゃにされてるのが俺でも分かる。
それは多分夏姫サンがちゃんと仕事をこなした上で文句を言っているから監督もあんな対応になっているんだと思うけど、でもやっぱ…。

「監督、夏姫サンに甘くないですかァ?」

「まぁ、たしかにな」
「俺らにももっと優しくすべきだー」
「優しい監督は監督じゃねェだろ」

準サンは暑いのか帽子のつばを握り、ぱたぱたと仰ぐ。

「そうですけどぉ」
「むしろ星崎に感謝するべきなんじゃねーの?」
「なんでっすか?」
「去年より今年のが罵声聞く回数減る気がする」

去年なんて俺は知らないけど、午前中だけでも何回か監督の声がここに響いたはず。
夏姫サンのおかげで監督の怒りゲージが下がっているとでも言うんだろうか。

「おい!準太!利央!」

そんなことを考えていたら監督に呼ばれた。
その目はしっかりと俺たちを見てる。
やべえ、無駄口叩くなって怒られる?

「「はいっ!」」

驚きながらも俺と準サンはいい返事をした。

「星崎が足引っ掛けてぶちまけたボール、お前らで片付けとけ。連帯責任な」

「えー!」
「うぃーす」

夏姫さんのあほー!と心の中で叫びながら、俺は駆け足になった。
準サンが俺を抜かす。
そして振り返って言った。


「星崎来てからなんとなく部の雰囲気変わって俺は結構面白いと思うんだ」


準サンのその笑った顔見て、俺の口元もちょっと緩んだ。


「それは俺も思いますよー。夏姫サンはなんてゆーか、あれですね」












あほオモシロイ人
(って本人に言ったら絶対怒るなー)
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