「俺こことーった!」

「あ、ずっりー!じゃあ俺ここな!」

「え!ちょっと待った!」

「ここいただきー」

宿舎の探検をしてきた私たちは、夜に眠る部屋に来ていた。
部員たちには6人に一部屋程度で部屋が振り分けられている。
この部屋割りも絵里ちゃんが考え、決めたものだ。
この合宿期間中に問題が起こっては困るので一部屋に最低一人づつ位はリーダータイプの部員であったり、真面目そうな部員を入れてある。学年ごとに部屋は違うが、一年の部員はまだ入部したてということもあり、仲がいいメンバーばかりが固まらないようにという配慮までされている。野球はチームワークだ。レギュラーだとかクラスだとかそういうのを一切関係なしにテキトーそうで実はしっかり決めてあるのがこの部屋割り。
絵里ちゃんさすが。できる子!
え?私は何したかって?合宿があることを前日まで知らなかった私がそんなことしているはずないじゃないですか!
…なんか罪悪感感じてきたので、合宿中はもっと一生懸命雑用をこなそうと思います、ハイ。


「夏姫先輩も寂しくなったら夜ここ来ていいっすよー」

「俺、ウノ持ってきた!ウノ!あとでやろーぜ」

「絵里先輩も連れてきてくださいよー」

「おおお、二段ベッドってこんななんだー!頭打ちそう」

「テレビある!テレビ!!!」

さっそく部屋のベッドにダイブして荷物を広げ始めた一年生部員たち。
まるで修学旅行気分だ。

「…君たちはまだ知らないんだね…」

その無邪気な笑顔が逆に私の心を切なくさせる。

「え?」

「この合宿の細かい予定。あれ見たら遊ぶ気なんてなくなるよ」

「あはは、大丈夫っすよー」

「俺らまだ超元気!」

「そんなこと言ってられるのも今のうち。多分ね、今日の夜はみんな爆睡だよ。監督と絵里ちゃんをなめない方がいい…」

朝から晩までみっちりと決められた練習スケジュール。普段の練習量の比じゃないあれは。

「…まじすか」

「でも合宿終えたら、まちがいなく力にはなってると思う!…生きて帰れたらの話だけど」


キャー!、こええええ!!なんてノリのいい部員たちがはしゃぐ。本当に辛い合宿になりそうだけど、こいつらと一緒になら私も楽しくがんばれそうだ。


「あ、ねぇねぇ夏姫サンたちの部屋ってどこー?」

利央がニィと笑って肩を組み聞いてくる。

「202」

「あはは!やっぱりー!監督たちの部屋の隣じゃないっすかー」

夜騒いだらすぐ怒られるぞー!と利央が私を笑う。

「そうなんだよねー…」

しゅんとして答える私。しかし、内心ではふふん、と逆に利央を笑い返す。
みんなは知らないんだ。

監督と顧問の先生の二人部屋の隣の部屋が私たちマネージャーの部屋だという事しか。

なにせ、私たちの部屋のベッドはふかふかなのだ!
部員たちの部屋は硬い二段ベッドで、人数のわりに狭い。
しかし、私たちの部屋はシングルベッドが二つに、部員たちのとそんなに変わらない広さの部屋。ちょっとしたホテルのような造りになっている。

これを部員が知ったら絶対不公平だなんだって文句が出るだろうけれど、マネージャーの部屋はもちろん男子禁制!
彼らが部屋の造りなど知るはずもない。
部屋で過ごす時間なんてそんなにないとは言え、やはりこういった違いは嬉しい。
さらっといい部屋を確保するあたり、わが親友に抜け目はないね!


「さ…そろそろ私は仕事に戻ろうかなー」

「先輩おつかれっすー」

「夏姫さんまたねー」

部屋を出て行こうとする私を見送ろうともせず、部員たちはごろんとベッドで伸びていた。この薄情者たちめ!午後の練習で地を這うまで扱かれるがいいさ!

そんなことを考え、
ぱたん、と部屋を出る。

「あ」

すると

「あ…!高瀬く…!」

ちょうど向かいの部屋から高瀬くんが出てきた。
このタイミング…!なんか運命的!!とか思っちゃったりして。えへ。


ちなみに2年生の部屋は1年生の部屋と通路を挟んだ反対側になっている。
つまり、今高瀬くんは自分の泊まる部屋から出てきたわけだ。


「まだ午後の練習まで時間あるよ?どこか行くの?」

ほとんどの部員はまだ部屋で休んでいる時間。一人で部屋を出るなんて珍しい。

「あー。ちょっと喉渇いたから食堂行ってなんか飲めねーかなって思ってさ」

「それならお昼の残りの冷たいお茶かアクエリとかならあると思うよ」

「おー、ならアクエリ貰お」

「うん!私も今から食堂戻るとこだし一緒に行っていいかな」

「もちろん」




……も、ち、ろ、ん…っっっ!!!!!!
軽く微笑まれただけなのに顔赤くなりそう!
自然な感じで話せてますかね、私!?

野球部入ってから気軽に話せるようになったのはすごく嬉しいことだけど、二人っきりで話すとなるとやっぱりちょっと緊張する。


「そいえば昼飯うまかったよ」

「ほんと!?よかった!あんなに大量に作ったの初めてだったから少し不安だったんだよね。でも評判よかったし、なんとかなるもんだ」

高瀬くんに褒められるなんて!心の中でガッツポーズ。

「全員分だもんな、具もいっぱい入ってたし…ってか、ぷっ…そいえば、星崎さっきさ…!」

何やら高瀬くんがくつくつと笑い始めた。
さっき…?
…ああ!カレーを作っていた時のあれか…。

「ご、ごめんね。練習の邪魔して」

高瀬くんの笑いのスイッチとやらを私は入れてしまったようで申し訳ない。

「ほんと、しばらく笑いながら走るのキツかったー」

「うわー!ごめんごめん!ごめんなさい!」

高瀬くんを応援するつもりが、練習を辛くさせてしまっていたなんて何をしてるんだ私は。


「いいよ、おもしろかったし!星崎が怪我とかしてないなら」

「あ、それは全然平気だよ」

傷一つない両手を開いて見せる。

「ならよかった」

ふっと笑顔を見せられ、私は一瞬意識が飛ぶかと思った。かっこよすぎる。高瀬くんの笑顔、はんぱじゃない。不意打ちだったから余計に。



「星崎?」

「ごめ、なんでもないんです、ちょっと、いま、私も笑っちゃいそうで」

「え?」



高瀬くんのような清々しい笑顔ではなく、ニヤニヤとした気持ち悪い笑顔になりそうな私は必死に俯いて両手で顔を隠した。











笑顔にやられた
(ほんとにもー!かっこいいんだから!)

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