「…いみわかんない」
「文句いう暇あるならちゃっちゃと手を動かす!」

私と絵里ちゃんは広い厨房のようなところで二人きり。
部員達はみんな外にある球場で練習中だ。私達は昼食のカレーを作っている。
ありえない。ありえないよこの量!!

「あーッもう!!なんで部員全員で来てんの!!レギュラーだけとか3年だけとかでいいじゃん!!」

口を動かしつつ、手も動かす。

「同じ部費払ってるんだからそこは平等にしなきゃでしょ」

優雅に椅子に腰掛けて、絵里ちゃんはじゃがいもの皮を剥く。ちゃっかり玉ねぎは私が切る係りになってるのは何でかな、絵里ちゃん。

さっき合宿場についたばかりなのに、部屋に入る暇もなく荷物を置いたら練習開始。監督やる気ありすぎだ。
この調子じゃ仕事仕事で4日間の合宿もすぐ終わってしまいそう。マネジって結局雑用で、好きじゃなきゃやってらんないよ。
私は正直野球なんてあんまり興味ないし、雑用なんて面倒なことやるのはごめんなんだけど…。
高瀬くんが間近で見られるなら、まぁやるだけの価値はあるかな…!


「目がいたいよ、絵里ちゃん…!代わって…!」
「い・や」

にっこり笑っての拒否。
こんの我が儘っ子!!
1・2玉くらいなら許せるけどね、こんなに量あったら目が限界だよ!!

「夏姫の泣き顔かわいいよ」
「好きで泣いてるんじゃないんだけど」

仕方なくひたすら玉ねぎを切り続ける。
絶対これ手ぇ臭くなるよ…。

そもそも二人で100人近くものカレー作るなんて間違ってるんだ!!


ふと窓な外を見ると部員たちはランニングしていた。
その中に高瀬くんを見つけた私は切っていた玉ねぎをほったらかして窓に駆け寄る。

「た、高瀬くーん!がんばってねー!!」

マネジになってから、高瀬くんと話す機会が格段に増え、気軽に話し掛けられるようになった。
手を振って呼びかける私に高瀬くんは気付いたようで、返事を返してくれ…そうだったのに固まってしまった。
突然足を止めた高瀬くんに和さんは不思議に思ったのか、声をかける。どうしたのかな、高瀬くん。


すると和さんが私を見て呆れた顔をした。そして、


「夏姫……。ほ・う・ちょ・う!!」


と私に言ってきた。


「…え?」


ほうちょう?ほうちょう…。包丁…?
自分の右手を見ると手には包丁が握られていた。

「……うおあああっ」


自分でも意識していなかったので驚き、変な声が出た。どうやらさっき、手を振っているつもりが包丁も一緒に振っていたらしい。

(恐ろしい!)


そりゃ高瀬くんが固まるのも無理ないよ。窓から包丁振って応援されちゃ……。
自分の失態に赤面しつつ、高瀬くんに変な目で見られていたらどうしようと思っていたら、高瀬くんが突然笑い出した。

「えっ?え…っ?」

「夏姫…あんたなにしてんの」

馬鹿にしたように絵里ちゃんが私の方に来て、私から包丁を取り上げまな板の上に置く。

「た、高瀬くんが突然笑いだした……!」

指を指して私が焦って言うと絵里ちゃんはため息をついた。


「あーあ。スイッチ入っちゃったかー」
「スイッチ?」
「高瀬は急に変なスイッチが入っちゃう時があって笑いだすと止まんないのよ」

絵里ちゃんの説明を聞き、心配になって高瀬くんを見ると目が合い、再び高瀬くんは笑いだした。

「な、なんかすごい笑ってる…!」
「夏姫が原因なんでしょ。さ、玉ねぎに戻る!!」

ぴしゃりと窓を閉められ、私は仕方なくさっきまでいた場所に戻る。



「高瀬くんってクールなのかと思ってたから意外…!」


初めて見る高瀬くんに驚いた私は、目がかゆいとか手が疲れたなんて考えることなくざくざくと玉ねぎを切って行く。


「クールではないでしょ。何?幻滅したとか?」


「う、ううん!むしろ惚れ直した…!」

「あっそ」

普段はカッコイイのにああやって笑うと子供みたいでかわいい。

「よっし、がんばっておいしいカレー作ろう!!」



私がそう言うと絵里ちゃんは興味なさそうに作業を始めた。























隠し味には愛を入れちゃお!
(まずくなるからやめときなよ)
(なんてこと言うの!!)


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