「こきゅうをとめていちびょうあなた…」
何故でしょう。
何故わたしはこんなバスの中で歌を歌ってんでしょう。
全ては、あそこで楽しそうに手を振って私を見てる少女のせいです。
絵里ちゃんの申し出に部員みんなノリノリで賛成。(朝からみなさんテンション高すぎやしませんか!?)
うちの部は人数が多いし、私立だってこともありバスを2台チャーターして合宿場まで行く。
だからバスガイドなんていないけど、それなりの備品はある。(小さいテレビとかね。)
つまり都合よくマイクがあり、……って………あっれ?おっかしーな。マイクは普通にあってもおかしくない。おかしくないよ。
でも………普通採点付きのカラオケとかないよね!?
ないって!!
………いやでもこの部に「なんで?」「どうして?」って質問はタブーだ。
まともな答えが帰ってくる訳ないからね!(でもきっと3年のあの辺がどっかから持ってきたんだろーなー)
ちなみに私が選んだ曲は野球部らしくあの有名な曲。
これ好き!
やっと歌い終わるとバス内から拍手が湧き起こった。
こんなに大勢の前で歌うのなんて初めてで緊張した。でも歌い始めるとちょっと楽しくなってきちゃうんだよね。みんなが馬鹿みたいに騒いでくれるから結構歌いやすかったし。
「夏姫お疲れー!」
席に戻ると絵里ちゃんが声をかけてきた。
「あはは、点数ぼろくそだったけどね。」
「だから夏姫にはあややが良いって言ったのに。」
「無理。私にはせくしーなのもきゅーとなのも無理。てか点数に関してフォローとか何もなしですか絵里さん。」
「して欲しかった?」
「いやいいけど。」
ふう、と息をついて席に座ると高瀬くんもお疲れ様、と言ってくれた。(一瞬で疲れ吹き飛びました。)
前方では今はマイクは3年の部員達がマイクを争いあっている。
いつも楽しそうだなあの人たちは。
「夏姫サンの歌初めて聞いたけど思ってたより上手だねェ」
「りおー?思ってたよりって何?」
笑顔で聞き返すと、もっと音痴だと思ってた!と元気よく言ってきた利央。
天然ってこういうのを言うんですかね。非常に腹立たしい。
「あ、じゃああたし歌っていいですかー?」
絵里ちゃんがマイク争奪戦に行ったおかげで私には平穏な時が戻った。
「高瀬くんは歌わないの?」
さっきから窓の外ばかり眺めていた高瀬くんに話し掛けてみる。
「おれは…いーや」
マイクを持って熱唱している絵里ちゃんをちらりと見て、高瀬くんは苦笑いした。
(絵里ちゃん、相変わらず上手い……。)
「な、なんで!?酔ったとか?」
「そうじゃないけど」
「よかった…!でも1曲くらいなら…!」
「でも俺、あんまり上手くないし」
「そんなことない!歌って!是非歌って欲しい!!!歌うべきだよ!!聞きたい!高瀬くんの歌!!高瀬くん!!歌って下さい!!」
「はは、星崎必死」
高瀬くんの言葉にはっとして口を塞ぐ。
やばい。うざかったかな!?
でも高瀬くんの歌とかすっごく聞きたい…。
「じゃあ1曲だけなら。」
「ほ、本当?やったー!!!」
バカ騒ぎっていいものだね
(高瀬くん…かっこいいよ…!)
(そしてなにげに利央が上手かったりするのがヤダ。)