退屈な授業中、眺めるのは彼の後ろ姿。
野球をやっているらしい彼の背中は程よく筋肉のついた、実に青少年らしい姿だった。


(……あー本当、かっこいい)







「夏姫、聞いてる?夏姫ってば!!」
「……ぅわああ!はいっ!はいっ聞いてます聞いてます!!」

友人、絵里ちゃんの言葉はっとして我に返る。

「あんた絶対聞いてなかったでしょ。」
「………ハイ。スミマセン。」

そういえば今は昼休み。お昼を食べてるところだった。

「何、また高瀬のことでも考えてた?」
「あ…はは!」
「あんたって本当わかりやすい」

サンドイッチ片手に乾いた笑いをした私に、はぁっと溜息をついた彼女。私が高瀬くんを好きなのを知ってるからだ。

「それでね、そんな夏姫に朗報です」

パックのカフェオレを飲みながら、私は首を傾げる。

「ろーほー?」

「うちの部って今まで先輩2人とあたしの3人でマネジやってたんだけど先輩たち卒業しちゃったから今あたし一人なのよ」
「うん?大変だね。あれ?でも1年生は?」
「ダメダメ。入ったはいいけど多分あの子達もう退部まで秒読み状態。」

数週間前から顔出さなくなっちゃったの、と絵里ちゃんは私の飲んでいたカフェオレを奪うと遠慮なく飲んだ。(酷い…!)


「野球部でしょ?マネジもそんなにキツイの?」
「確かに体力的にキツイのもあるけど…あれだよ。問題は監督。」
「………あっ!あの有名な恐い監督?」


うちの学校の野球部の監督が恐いというのは生徒のほとんどが知っている事実。
放課後ともなればあの監督の罵声が学校に響き渡る。


「野球部はイケメンが多いとかなんとかって毎回マネジ希望者は多いんだけどだんだん消えてっちゃうのよ。監督のお叱りに耐え切れず。」
「あー…あれは効くよねー」

あの監督に至近距離で叱られたら心臓持たない。

「だから、今マネジが足りないの。ね、夏姫やってみない?」

「…………………は?」

な、なにを言い出すの絵里さんは。

「ほら、あんたの大好きな高瀬を間近で毎日見られるチャーンス!」
「チャーンスって…。……無理無理。私にもあの監督は無理。」
「大丈夫だって。あんたMっ気あるから。」
「えむっけ……!?ないから!ないっ!!私普通の人!!」

私が全否定すると、絵里ちゃんは不満そうな顔をした。

「……じゃああたし一人であの人数のマネジやれっての?」
「…それは…。他の人に当たってみるべきでは…?」
「あんたしかいないの夏姫ーっ!!」
「えええっ!!」
「なってくれたらジュース1本奢ったげる!」
「安ッ!」


絵里ちゃん……。
…この子意地でも私をマネジにする気だ。


「私…やらないからね!」


マネジになったりしたら貴重な土日が消えちゃうじゃんか!


「……………絶対?」
「絶対。」
「何があっても?」
「うん。」
「高瀬ーっ高瀬ー!?」
「ちょ、なっ!!!」

絵里ちゃんの呼びかけに教室内にいた高瀬くんがやってきた。

「呼んだ?」
「高瀬、あたしがマネジ1人って可哀相だよね!」
「あ、ああ。」

男女問わずこんなテンションの絵里ちゃん。

「夏姫がマネジやったらいいと思わない?」
「星崎が?」

高瀬くんと目が合った。

か、かっこいー!高瀬くんだー!
普段は背中ばっかり見てるけどやっぱり前から見るほうが断然っ!!
かっこいいんだけど顔はかわいいんだよね。
高瀬くん高瀬くん高瀬くん…!

「いいんじゃねーの?星崎なら仕事もちゃんとやってくれそうだし」
「はい、じゃ、けってーい!」

高瀬くん…!

高瀬くんこっち見てる…。
高瀬くんが、高瀬く「星崎?」
「………はっはい!!」

「よろしく」

…………高瀬くんが、笑った。こっち向いて笑った…!!

「よ、よろしく!!」


反射的に笑顔で返す。
用の済んだ高瀬くんはどこへ行くのか教室を出て行った。
歩き方すらかっこいいよもう…!!









………………って…。


「なんでこんなことになってんのー!!!!!」
「夏姫うっさい。往生際が悪いよ。いいじゃん高瀬と話せて幸せだったんでしょ?」


ばかっ………自分の大馬鹿!
私は机に突っ伏して叫んだ。

「………………幸せだあああああああ!!」














そして始まるマネジ生活
(夏姫のそーゆー素直なとこ好きよ)
(絵里ちゃんの悪魔ーッ)


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