「笠松先輩って、あの子のことスキなんスか?」


ウゼエ。
ちょっと顔とか体格に恵まれてるからって調子に乗りすぎだコイツは。


「い、いででででででで!センパイ!ギブギブ!!」

いつの間にやら背後に現れた後輩を絞め上げてオレは怒鳴った。

「うっせーんだよ!テメーは無駄口叩いてる暇あったらもっと身になることしろ!!」

「すんませんっス!」

ほんと、なんなんだコイツ。
キセキの世代だかなんだかしんねーけど、コイツの空気読まなささがすでにキセキの域だっつの。
せっかく今日はあいつのこと見つけたっていうのに…。

「って、アレ?どこ行った?」

「オレならここっスよ?やだなぁ笠松先輩。オレは黒子っちみたいにミスディレクション使えねーっスよ?なんたって」

「ウゼエ!まじウゼエ!テメーじゃねーし」

オレより大きな後輩の背中に蹴りを入れ、遠慮なしに体重をかけた。
うぜえ、なんなんだよコイツほんっと。あーイライラする。

おかげで見失っちまったじゃねーか。

「もしかして、オレお邪魔だったスか?」

「もーいいよ、ほら、さっさと帰んぞ」

「っス!」

あの後ろ姿を。











「あ、おはよう…」

「おー」


けれど次の日もまたやってくる。
一晩寝ればまたすぐ朝だ。部活に疲れて家帰って、飯食って、風呂入ってストレッチして。
そんでちょっとだけ宿題とかして寝たらもう朝。
他の生徒が登校するよりはやくに登校して、朝練やって、他の生徒が教室の席に着くよりちょっと遅れてオレも席につく。
ごく自然に繰り返される毎日。
これが学生ってもんだ。

そんな繰り返しの毎日の中で、なぜだろう。いつからだろう。

同じことが、同じに思えなくなってしまっているのは。





…あー。また「おー」しか言えなかた。

一限目の授業は古文だった。朝練後の古文は地味にキツイ。
朝っぱらから眠くなる。
それを今日は回避できている代わりにオレは一人反省会中だった。

オレより向こうの方がいつも席に早く着いてる。
つかオレがSHRギリギリに教室入ってくっから当然なんだけどな。
でも、そんでオレ、つい自分の隣の席にアイツがいることいつも確認しちまうんだよ。
んで、いると、あー今日もいるなーっつって、なんか当然のことに安心したりなんかして。でもそんなこと考えてる間ずっとオレ、アイツのこと見てんだろうな。

『おはよう』

ってただ一言言おうと思ってんだけど、なんかタイミング見失って、オレがアイツのこと見るからオレのことアイツも見るし、余計緊張とかして口開けなくなって、でもそんなわけにはいかねーしな、って考えてるうちに向こうが先に挨拶してきて、ちょっと嬉しい反面、先に言われたってショックから言葉数が少なくなる。
結果、おー。

アホか。

挨拶は何事においても基本だろ。

バスケの試合だってなんだって挨拶もろくにできねーやつはプレーもその程度なもんなんだよ。

つまり、毎日毎日この挨拶一つにこんな一喜一憂してるアホなオレはその程度のやつなんだよ。この分野においては。




ふぅ、と自分自身にため息をついて、隣に座る人物をみる。
教師が説明することを必死にメモとって、色ペンとか使ってノートを綺麗にまとめていた。
こういうの見ると女子だなーって思う。

そりゃ男女関係なく勉強やノートの取り方なんて個人差なんだろうけど、少なくともオレはこんな綺麗にノートとれねーよ。
ノートの白にシャーペンの黒、それと赤ペン。あと、たまに青とか、その程度だ。

まぁ分かればいいからいいんだけど、さ。



うわ、やべ。

いま目が合った?
いや、か、勘違いか?黒板見る時たまたま?


もう一回だけ見て見る。

向こうは真っ直ぐ黒板の前に立つ教師を見つめていた。
…やっぱ勘違いか。あほくさ。
何一人でびびってんだよオレは。




いつの間にやらこんなことが日常茶飯事になっていた。
部活やってるときはもうそのことしか頭にないから、バスケの妨げになるとかは全くねーんだけど、一度気にし出すとすげー気になる。
それに気づいてからは、さすがに分かっちまうよな。

オレ、コイツのこと好きなんだろうなって。



隣の席になってからだ。こんな風に意識するようになったのは。
それまではただのクラスメイトだったし。
そもそもオレは女子とそんなしゃべる機会がねえ。
そりゃ必要最低限の会話はするさ。でも女友達なんて呼べるものはいないし、黄瀬みたいに向こうが寄ってくるわけでもねえ。
だからこそ、余計にわかんねーんだよ。
好きになっちまったもんはどうしようもねーけど、そっから先どうしたらいいか。

向こうもそんなにしゃべるタイプじゃねーからな、一日の会話なんてそれこそ挨拶くらい。
だから、向こうの部活帰りの時間とバスケ部の帰りの時間が重なった時は声かけたい。

『また明日な』

って。
すげーしょぼいこと気にしてるってのは自分でも分かってんだ。でも、それが今のオレには難しい。
だって、下手に意識して好きなことバレても恥ずかしいだろ、なんか…。

だからまずは、普通に仲良くなりたいっていうか、まず、他の男子よりもオレに心を開いて欲しいっていうか…。

まぁ、本心を言えば、ちょっとは向こうにもオレのことを意識してもらいたい。
けど、そんなんどうすりゃいいだよ。

特に接点がある訳でもねえ。
オレのバスケ部と向こうの吹奏楽部。どっちも練習きついってことくらいしかしゃべることねー。

…ん?あんじゃん。
部活の話、か。
そういうばしたことねーな。
つかまともに二人で話す機会ってのがまずねーんだけど。


気づいたら1限が終わる時間だった。

「起立、礼」

その声に無意識で体が立ち上がり、「ありがとうございました」と口にする。学生の悲しい性。
席に再び着くと、バカみたいに緊張し始めた。

今、話しかけてみてもいいのだろうか。
迷惑、か…?
次の授業は…移動教室じゃないもんな。平気だよな。

てかまずなんて話しかけんだよ。突然声かけてビビられねえ?
つーか、オレはこんだむこうのこと気にしてても向こうはオレのことなんとも思ってないわけだし、キモイとか思われたりすんのか。
女子ってほんと謎の生き物だかんな。
や、でもこいつに限ってそんなことはねーよな。
結構誰に対しても嫌な顔しないやつだし。そういうとこもいいなって思ってるし。

…っていいから話しかけるなら早くしろよ、オレ。

昨日の帰りも今日の朝も失敗してんだからそろそろ、なにか進展させてえ。

し、進展ってか、あれだな。
仲良くなりてーんだよ、うん。

付き合いたいとか、そういうこと別に考えてる訳じゃねーし、うん。

うん…。
ウソだ。

付き合いたくないわけじゃない。

てかなんか妙に焦ってんのは他の奴に先越されたらどうしようってとこなんだよ。

あの黄瀬の野郎が昨日の帰りに「あの子結構カワイイっスね」とか言うもんだから気が気じゃねーんだよ。

黄瀬がいうんだから間違いなくかわいいんだろそりゃ、世間一般的にもな。
でもオレが先に見つけたっつか、黄瀬に言われる前からオレのが先にかわいいって思ってたし。
たまに髪結んでる姿とかもっといいと思ってたし。

だから…もし誰かにとられたらどうしようとか、考え始めるとすげー焦る。

「ファンの子に教えてもらったんスけど、あの子今彼氏とかはいないらしースよ」ってさらにニヤニヤして言ってくるからどついておいたけど、それ言われたらなんか今動かないとだめな気がしてきたりしてさ。


…!
オレ、いつまでぐだぐだ考えてんだ、休み時間10分しかねーのに、いい加減話しかけるなら話かけろ。

うし…。
大丈夫だ。割と暇そうだし。
もう教科書も次の準備してるし、なんつーか律儀だよな。
つか、暇だからって友達んとこにダベりにいっちまったりする前に引き止めないとだ。

いけ、
いくんだオレ。
とりあえず話かけろ。


「あのさ!」

「…っ!な、なに?笠松くん」


いけた!
ちょっとデカい声出ちまったから一瞬驚かれたけど、行けた!!

…ってやべ、声かけたは良いけどそのあとなんて言うか全く考えてなかったぞ。
やべえ。
えっと、部活…、そう部活の話…。

「昨日っ…昨日、帰り見たけど、そっちの部もかなり遅くまで練習してんだな」

「えっあ、うん。もうすぐコンクールとかあるから、みんながんばってるんだ」

おおお。よし、ちゃんと会話になった。

「へぇ。そっちも大変なんだな。この前金賞とったとかって聞いたけど」

「うん!前回いい成績残せたから今回もがんばりたいんだ。バスケ部ほどすごくないけど、うちの部もそこそこ強いんだよ!」

うわ…分かってたことだけど、…マジでかわいい。
そんな嬉しそうに話されるとオレまでニヤけるんだけど。

心臓ばくばく言ってっけど、バレたらって考えると恥ずかしくて死にたくなるからなんとかして冷静を装う。
普通に男と話してる時みたいなテンションでいいんだ。
意識すんな意識すんな。

「でもあの時間じゃ帰り暗いだろ」

「うーん、そうだね」

お、こ、これもしかしてチャンス…か?
一緒に帰ろうって誘うチャンス?いやでもまだそれほど親しくないし一緒に帰ろうとか言われても困る?
けど、実際あの時間に帰るのって結構危ないよな。
もしものことがあってからじゃ…。

「でも、部活の子たちと途中まで一緒だから楽しいよ」

「だ、だよなぁ」

…だめだ。言い出せねえ。負けた。
吹奏楽部の奴らに負けた。

「笠松くんもバスケ部の子たちと帰ってるんだよね」

「え?ああ、そうだな」

「バスケ部って厳しそうだけど仲良さそう!なんかいいよね」

「そう…か?」

仲良いのか。
悪くはねーけど、こんな純粋そうな笑顔で言われるほどのもんか?
普通にバカやってるだけなんだけどな。

「うんっ!それに笠松くんはキャプテンなんだってね。すごいね!」

…ふい、うち…。
すぎんだろっ。

なんか突然褒められた!

うわ、やべえ、今絶対顔赤くなってんだろオレ。

「すご、か、ねーよ」

無理だ、もう無理。
マジで持たねえ。普通に話せねーよ、意識すんなとか無理。
首傾げんな。かわいすぎるだろ。

ナイスタイミングなのか、それともここで会話が途切れることを悔やむべきなのか、授業開始のチャイムが鳴った。
「あ…」と隣で小さく声をだして、もう先生来ちゃったから話せないねと目で訴えられる。
そんな姿すら、かわいい。

「起立、」

立ち上がり、隣を盗み見る。
…ちっさいな。やっぱ女子って背低いよな。
オレもそんな背が低い方じゃないけど、バスケ部にいるとデカいのばっかだから余計、ちっさく思える。
ホント、生きてる世界が違うって感じだ。

「礼」

でも…少しだったけど、話せた…。
話してる感じからして、嫌がったりされるわけでもなかったし…。褒められたし…。

ちょっと…調子乗りたくなる。


「お願いします」

頭でそんなことを考えていても、きちんと言葉にする口は、やっぱ学生らしい。


他の奴らがどんな学生生活送ってんのかなんか知らねーけど、オレはオレの学生生活を満喫しているわけで。
短い高校生活ラストの年なんだし、いろんなことに挑戦してみたいってのはあるよな。


着席しながらもう一度、隣をみる。

すると、目が合った。
これは、勘違いなんかじゃない、よな。

刹那、微笑まれ、また心臓がキュッとなる。
でも、嫌な気は全くしない。むしろ、つられてオレの顔も緩む。

もうちょっとだけ…頑張ってみっか。
せっかくの、青春ってやつなんだし、な。





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