「…………っ、」
全く歯が立たなかった。
横たわった自分のポケモンに走り寄って抱き上げる力もないほどに私自身もボロボロだった。
勝てると思っていた。
むしろ、負けるというのがどんなことなのか今の今まで忘れていた。
「………負け、ました…」
涙が溢れ、凍てつくような吹雪に両足がガタガタと震えた。
正面に立っていた青年は相棒のピカチュウを肩に乗せ、いまも無言でこちらを見ている。
桁違いの強さ。
ゆっくりと右手を上げ、ボールにポケモンを戻した。
真っ白だ。頭の中も。世界も。
「…………。」
レッドさんが一歩一歩近づいてくる。
その風格に私はますます身動きとれなくなった。
「……………。」
「………っ」
じっと見つめられ、目を逸らせない。名前通りの赤眼。でも、恐怖感は不思議となかった。
「寒い…?」
手足が震えた私に向けられた言葉。
初めて声を聞いた。
「……………あ、…………は…い」
明らかに私より薄着で寒そうなレッドさん。
なのに、そんな様子は微塵も感じられない。
レッドさんは腰に付けたボールのうち1つを掴み、中からリザードンを出した。
どきり、とした。
一瞬、私は死ぬのだろうかと考えた。
「…あったかい?」
そう言われて気づいた。
彼は私の為にリザードンを出したのだ。
尻尾の炎が暖かい。手先がじわりと感覚を取り戻しはじめた。
「はい……」
「そう」
小さく、本当に小さく彼が微笑んだ。
伝説という称号、行く先々で聞いた噂、無言で始まったバトル、知らないうちに恐ろしい人だと思っていたのに、なんだか、拍子抜けだ。
もちろん、実力は想像以上だったが。
おかげでこのザマだ。
数本のスプレーがあったはず。帰り道はなんとかこれで野生のポケモンから逃げきらなければ。
そんなことを考えていたら
「………ポケモンセンター、連れて行ってあげて」
レッドさんがそうリザードンに告げた。
すぐさまリザードンが私を背に乗せてくれた。冷えた私の身体にリザードンのあたたかな体温が移る。
「……ありがとうございます…」
素直にうれしかった。
「…………レッド、さん」
「…?」
「レッドさんはこれからもここにいるんですか?」
首が縦に振られた。
グリーンさんが言っていた。あいつは自分を倒してくれるヤツを待ってるんじゃないかって。
「わっ私!また来ます!!」
レッドさんは驚いた顔をした。
「強くなって、また来ます!それでもだめなら、もっともっと強くなります!
だから、いつか私を認めてくれたら、
一緒に帰りましょう!マサラタウンに!!」
リザードンが大地を蹴って空へ飛び上がった。
「……………。」
さっきよりもはっきり、レッドさんが笑った
そんな
気がした