「「あけましておめでとうございます!」」

自分たちの部屋から出て、階段を降りる。
リビングの扉を開くと同時私たちは声を上げた。


「おめでとー」
「おめでとう、夜中遅くまで起きてたくせによくあんたたち起きて来たわね」

お父さんは分厚めの新聞を読んでいて、お母さんは台所でご飯を作っていた。

「私目覚ましなしで起きたよ!」

「明希に起こされてだけど、おれだってすぐ起きたかんね!」

大掃除をしたおかげでちょっとだけ雰囲気の変わったリビング。
年も明けて、カーテンの隙間からは日の光が差している。
私と双子の弟、利央はそんな光に包まれながら落ち着きなく両親を見た。

ちゃんと新年一発目から元気に礼儀正しく挨拶したよね、私たち?
欲しいなー、あれ。正月と言ったらあれだよね、欲しいなー。

そんな希望を込めた眼差し。
しかし、親は私たちに見向きもしない。

それを悟ると私と利央は目と目で会話。
15年も毎日一緒に居ればお互いの考えてることなんて分かってくるものだ。


まだ貰えないのかな。

朝ごはんの後とか?

去年ってどうだったっけ?

覚えてないや。


口には出さずに利央と話し合っていたら、お母さんから指示が飛んできた。

「呂佳はほっとくとずっと寝てるから、あんたたち起こしてきなさい」

「「はーい」」

そっか、家族揃ってからか!

そんな風に私たちは視線を合わせて、リビングから飛び出した。

私の部屋と利央の部屋。その隣に殺風景な兄の部屋がある。
ほとんど家には帰って来ないから荷物は大学の寮の方に置かれてて、物淋しいその部屋。
けれど、昨日の夜から部屋の主が戻っている。それだけで存在感がぐんと増していた。


コンコン、

ノックをしたものの返事はなかった。

「絶対爆睡してるよ」

「昨日私たちよりは早く寝てたよね?」

「でも眠いところ起こすと超機嫌悪くなんじゃん。明希が起こしてよォ」

「ええー」


年末のカウントダウン直前になって、「眠ぃ。寝る」と部屋へ戻っていた兄。
とにかく自由な人なので同じ血が通っている私たち双子でも理解し難いところが多い。

「ほら早くー」

急かされて私は扉を開いた。

「おにーちゃーん」

ベッドの上、布団に包まって、顔がどこにあるのかも分からない。
呼びかけにも全く反応がない。

「利央っ!ダイブ!」

指さして弟に言えば、真剣な顔して利央は青くなった。

「新年早々おれに死ねって言うの!」

「さすがに利央がのしかかったらお兄ちゃんも起きるでしょう」

「兄ちゃんが起きたらおれが寝る事になるよ!」

「大丈夫大丈夫」

「大丈夫じゃなーい!」

わいわい騒いでいたら布団の中からうめき声が聞こえてきた。

「…」

黙って私は利央を見る。
利央もまた私を見ていた。

「兄ちゃーん」

「んんぅ…」

軽く利央が叩くとまた声がした。
低く、機嫌の悪そうな声。

「お兄ちゃん、朝だよー」

私が布団を開くと、おもいっきり顔を歪めた兄がいた。

「起きろー」

「うるせぇ…」

「お兄ちゃん起きて起きてー」

「兄ちゃーん」

2人してその大きな体を揺さぶる。
普段なら反撃が怖いため、機嫌の悪い兄にはあまり関わらないのが暗黙のルールだが今日は止むを得ない。
だって今日は。


「お年玉が掛かってるんだから起きてー!!」




私の大きめな声に、ようやく兄の目が薄く開いた。
私の兄、呂佳は大きくて、強くて、頼もしい最高の兄だとは思う。けれど、思うんだけれど、人相はあまり宜しくない。
だから、この顔は家族以外が見たら本当に怖いと思う。
私や利央とは全く逆の顔の系統をしているからだ。


「お、起きた…」

ホッとしたように利央がこぼす。

「お兄ちゃんおはよう」

私が覗き込むと、本当に顔の悪い兄がいた。

「ん…明希…?」

寝ぼけているのか小さな声で「なんでここに…」なんて言ってる。

「正月だよ、元旦だよー」

「ぅん?…ああ、…家か」

ぐっと腕を引かれ、布団の中に引きずり込まれる。

「わ、お兄ちゃ…!」

ミイラ取りがミイラに…!と瞬間的に考えた私は、隣にいた利央も引っ張った。

「ちょ、明希!」


おかげでシングルベッドに3人も転がることになった。

「狭ぇ…邪魔こいつ」

お兄ちゃんは足をもぞもぞさせ、利央を見つけだすと蹴りだす。

「い、いたっいたい!兄ちゃん!痛い」

子供の時ならともかく、この馬鹿でかい2人と川の字で寝るなんて不可能だ。
もっと言うとお兄ちゃんと私だけでもかなり狭い。
ただ、お兄ちゃんの体温の残った布団が温かくて居心地が良いのは事実。
出たくなくなる前に私はその場を出ようとする。けれど、私の倍近い太さの腕がそれを阻んだ。

私だけ捕まるのは癪なので利央を離さないように必死に私も掴んだ。

「痛いって!明希!離して!」

見えないのではっきりとどんな状態かは分からないが、利央は大変なことになっているっぽい。

どすん。

大きな音がした。

「いったぁ…」

利央の下半身が落ちたらしい。
兄の蹴りに弟は負けたようだ。

「ふんっ」

頭のすぐ上で兄の満足そうな鼻息が聞こえた。


「お兄ちゃんーそろそろ起きようよー」

私がそういうと舌打ちが聞こえて、兄は体を起こす。
ついに起きてくれたかと安心して、私も掴んでいた手を離した。
構って欲しいのかわざとらしく利央が上半身もベッドから落ちる。

「仕方ねーな」

くしゃりと私の髪を撫でて、お兄ちゃんはベッドから下りた。

「ぎゃっ」

その足元にはまだ利央が転がっており、思いっきり踏まれて悲鳴を上げた。

「お前はいっつも邪魔なとこにいるな利央。図体無駄にでかいんだから邪魔にならないところにいろよ」


お兄ちゃんのが利央よりも幾分か大きいはずなのにこの言われよう。

利央はぶーっと膨れた。

「せっかく兄ちゃん起こしに来てやったのに!」

「明希だけで十分だろ」

「なんだよーねぼすけー」

ぐーでお兄ちゃんが利央の頭を殴る。
さらに膨れて利央は私に寄り添った。

「明希、兄ちゃん絶対父さんたちからお年玉もらえないよなー」

「去年は貰えてたよ?」

「でも今年はないね!あんな素行の悪い人にお年玉は貰えません!」

いーっだ!と子供っぽく利央は部屋を出て行こうとした兄に歯を見せる。
いつも通りそんな利央を無視して兄は行ってしまうのだろうと思ってたら振り返った。
今日は利央の挑発に乗るらしい。

「俺にそんな態度とっていいのか利央」

「なんだよー!父さんに兄ちゃんが殴ったって言いつけてやるかんね!」

「なら俺はお前にやらねーからな!」

「何を?」

反抗的に利央は聞き返した。
けれど、しっかりと私の腕を掴んでいるところからして、やっぱりちょっと押され気味だ。

「お年玉」

「へ?」

予想外の言葉に利央はきょとんと目を丸くする。

お兄ちゃんは机の上に置きっぱなしにされているケータイの隣にある財布を手に取ると、千円札を一枚取り出した。


「ん、明希。あけおめ」

「えっ?本当に?」

「おー」

「わあ!やったあ!お兄ちゃんありがとう!!」

まだ大学生だけれどお兄ちゃんはアルバイトをしているから高校生の私たちよりは遥かにお金持ちだ。
元から私たちにくれるつもりだったのか、それともただの気まぐれなのか…。
それは私にはわからないけれど、まさにお年玉。棚からぼた餅!
ありがたく受け取った。

「に、兄ちゃおれには?」

「ある訳ねーだろ」

ポケットに財布とケータイをつっこむとお兄ちゃんはさっさと部屋を出て行ってしまった。

兄の部屋に残されたのは私たち双子。

「いーなーいーな!明希だけずりー!半分ちょうだい!!」

「やだよー!」

当然のようにたかって来る弟から逃げて私は自室へ向かう。
自分のお財布の中にその千円を入れて、部屋を出ると不満げな顔の利央が立っていた。

大好きな兄に贔屓されたのが私は嬉しくて、意地悪く利央に笑いかける。

「早く下行こうよー」

「んー」

兄に遊ばれているのが分からないのか利央は気に食わない様子だ。
けれど、ちゃんと私が戻ってくるまで待っていてくれたのはさすが弟。
兄も大好きだけれど、弟のことだって私はちゃんと平等に好きなんだ。
だって私、ブラコンだからね。


私の一段下を降りて行く利央。
その肩に飛びつく。

「ちょっと明希!危ない!」

狭い階段でよろめく利央。

「ゴーゴー!」

おんぶしてもらう形になって私は囃し立てる。


窓から差し込む朝日はやっぱり眩しくて、今年もまた大好きな家族と仲良く過ごせますようにって朝ごはんを食べたら出かけるであろう初詣でお祈りしようと考えた。


「利央!今年もよろしくね」
「はいはい、よろしくね明希!」









2012年
あけましておめでとう!
アズちゃんへ捧ぐ!(^o^)




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