無言が続く密室。じわじわと青い空へと登ってゆく。
向かいに座った自分より少し年上だと思われる青年はひどくうれしそうな笑みを浮かべ、地上をうごめく人の群れや遠い空を飛び回っている鳥ポケモンたちを見つめている。
そんな彼の横顔をまじまじと見つめ、私は大きなため息をついた。
「…?どうしたの?」
ずいぶん久しぶりに彼の顔を見たような気がした。
ため息に気がついたらしい彼…Nと名乗る青年は不思議そうに首を傾げた。
「……べつに」
そうは答えたものの私は明らかにふて腐れた顔をしていただろう。
「明希は観覧車好きじゃないの?」
「好き。どっちかと言うと」
「でもあまり楽しくなさそうだ」
悲しそうな表情を見せるNに、私まで悲しい気持ちになる。
Nにそんな顔させてるのは私のくせに。
「だって」
続きを言うことなく、私は口を閉じた。
「だって…?」
だって…Nには私の気持ちが理解できないから。
そう私が言ったらNは困るでしょ?
……Nは…愛を知らないんだもの。
「Nはポケモンたちを愛してる?」
「もちろん」
「じゃあ私は?」
「明希も愛してるよ」
あっさり答えたNに苦笑い。
そう、そうなんだよ。
Nの愛と私の愛は違うの。
Nと私の愛してるって言葉、
似てるけど
全然違うんだ。
「N、私はNを愛してる」
「同じだね」
微笑むNに、違うよと返せば更に彼は首を傾げる。
そんなところも愛、してる。
困らせたいわけじゃない。
だから笑ってみせた。
「…ごめんね、同じかも」
「…明希、…泣かないで」
私はどんな顔をしていたのだろう。笑ったつもりだったのに。
「え…ぬ?」
涙は流していない。
けれど、Nの瞳には泣いているように映ったようで、
「明希はあったかいね」
抱きしめられた。
涙はないけれど、私は自分が泣いている気がした。心のもやもやを必死にせき止めていたダムが決壊。もやもやは言葉では表せない、どす黒いけれど透明な何かに変わった。
私は縋るようにNにしがみつく。
ポケモンは…涙を流さず泣いたりするのだろうか…。
「N…愛してる」