「アクセラレーター!」

私が呼んでも知らんぷり。なんだよもう。

「ねー聞いてる?」

細い身体に後ろからしがみついてみれば、うぜェと言われ振り払われた。

それでもめげずにベンチに座るアクセラレータのとなりに座り、彼の髪をすくった。
綺麗な、綺麗な白いいろ。
自分のなんの変哲もない黒髪を、彼の髪と合わせて手の平で包む。
白と黒がまざった。
灰色にはならないけれど、なんとなく私の髪も綺麗に見えた。

「なにしてンだ」

「べつになんにも!」

私と彼は全く違う世界の生き物のようで、実際、全く違う人生を歩んで来ていて、交わることなんてなかったのに案外混ぜてみるといいものになるんじゃないかなって思った。


私には絶対飲めないブラックのコーヒーを飲む彼。その手に触れてみる。
すぐに無言で邪魔だとばかりに跳ね返されたけれど、こうやってとなりに座ることは拒まないんだなって笑ってしまう。

「にやにやしてンじゃねェよ、気持ちわりィ」

悪態すらちょっと嬉しい。私は先程彼がコーヒーと一緒に買ってくれたパックを取り出す。あ、ストロー入ってた。店員さんありがとう。

手がひんやりした。

口を開けてストローをさす。吸い込めばいっぱいに広がる慣れた味。
久しぶりに飲むとおいしいな。
でも、少し身体が冷える。


「アクセラレータ…」



缶コーヒーを握る彼の手に再び自分の手を重ねた。


「さむい」

「ンなもん選ぶからだろうがよォ」

ホットの缶を持っていた一方通行の手は私の手とは正反対に温かかった。
細い指を握って自分へ近づける。

何すンだ、なんて言いつつもコーヒーを反対の手に持ち替えて私の行動を咎めない。


「あったかー」

彼の体温と缶コーヒーの熱。寒い冬の夜。
頬に感じる温もり。


「寒ィんなら飲めばいいだろ」

差し出された缶にそっぽを向いてアクセラレータの手を強く握った。

「ブラック苦い、やだ」

「そォかよ」

気分を害したわけではないだろうけれど、いつも通りに冷たく答えが返ってくる。

そんなのいらない。
この体温だけあれば、いいんだよ。

私の気持ち、伝わってるかな。


「にしてもなンで牛乳なんだァ?」

ベンチの片隅に置かれた冷たい冷たい牛乳パック。
私はアクセラレータの手を放して再びそれを掴んだ。

「なんとなく」

そう、ただ、なんとなく。


「アクセラレータが黒だから、」

それなら

「私は白かな…って」


ずゅ…とストローを吸う。
白を飲みこむ。
やっぱりつめたい。


「ンな理由で買ったのかよ」

「うん」

白と黒のコントラスト。
私、好きなんだよ。
私たちみたいだなって思っちゃうから。


「くだらねェ」


そうやってアクセラレータが吐き捨ててしまう言葉すら私は愛しくて、聞き逃さないよう耳を澄ます。
私は彼の全部を受け入れるんだ。



しばらく黙っているとアクセラレータはコーヒーを全て飲み切った様子だった。


「わたしはおりこうなので、牛乳を最後まで残さず飲みます」

「ハァ?」

待たせるのも悪いのでラストスパートをかけて一気に飲み込む。さらに身体が冷える。

「………さむっ」

あと一口、そんなところで一旦休憩。ココアとかコーンスープにすればよかったかなってちょっと後悔。

「飲ンだか?」

「あと少し」

答えるとアクセラレータは私の手から牛乳パックを奪った。

「アクセラレータ?」

なにするのかと見ているとストローに口を付け残りの牛乳を飲みきり、パックをぐしゃっと潰した。
そして空き缶とともに放物線も描かず真っ直ぐごみ箱に投げ入れる。

「あ…」

「行くぞォ」

呆けている私をアクセラレータは急かす。
すぐに立ち上がり追いかけ、彼の背中をぐーで叩いた。

「最後まで飲むって言ったのに!」

「飲み切っただろうがよォ」

「そうじゃなくて…」

ちゃんと私が、全部飲まなきゃ意味がなかった…。アクセラレータが私に買ってくれたものなのだから。
多分アクセラレータは分かってない。私がどれだけ意味のないことに意味を感じているのか。私がどれだけ、アクセラレータ以上にアクセラレータを理解しようと努力しているのか。



「無理してンじゃねェぞ」

「え?」

顔も見ないで捕まれた右手。冷え切った手にアクセラレータの体温。

その後の言葉を待っても待ってもアクセラレータは口を開かない。

「アクセラレータ?」


ただ、手を握り返せば嫌がることなくそのままでいてくれて、それは多分アクセラレータなりの心遣いなのかと思った。


「…今日は寒いね」

牛乳を飲んだせいで身体は冷えてしまった。でもアクセラレータの小さな優しさに触れて、温かい気持ちになった。


「はやくお家かえろ」

握った手を放さずいてくれるから、私は嬉しくて彼のとなりで笑う。


彼のとなりに居られることが嬉しくて

「アクセラレータ」

私は彼の名を何度でも呼ぶ。

「ずっととなりに居てね、アクセラレータ」


てのひらに感じる体温を確かめながら。










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