「ムリムリ、あきらめなよ」
私に友人はあっさりと言い放った。
「……」
「だって相手はあの柚木サマだよ?恋人はおろか、友達になるのすら無理でしょ」
高校に入り、私は生まれてはじめて恋をしました。
1週間くらい前のある日の放課後、先生に頼まれて職員室から教室へ授業で使うプリントと小冊子を運んでいた時、
「うわっ」
階段で躓いてしまった私は
「ああー!」
派手にプリントたちをぶちまけてしまったのです。
人気のない階段で、倒れた拍子に打った足は痛み、ひらひらと舞う紙が余計に虚しさを掻き立てる。
「…うう」
やってしまった、と思いながら近くに落ちたものから拾い始めた。
「大丈夫?」
突然声をかけられ、驚いて私は顔をあげる。誰もいないと思っていたから見られていたなんて恥ずかしい。
「………えっあ…!」
視線の先には音楽科の制服を着たとても綺麗な顔立ちの男子生徒がいた。タイの色から3年だと分かる。流れるように鮮やかな紫の長い髪、とても優しい微笑み。
「はい、これで全部かな?」
「あああありがとうございます」
渡されたプリントを受け取りながらも私は目を逸らせずにいた。
「立てるかい?」
だってこの人は…
「は、はい!全然っ大丈夫です!」
「よかった、それじゃ」
柚木…梓馬先輩…私の初恋の相手だ。
立ち去る後ろ姿すら気品に溢れていて、しばらく私は動けずにいた。
「たしかにラッキーだったとは思うよ?柚木先輩と二人っきりで話せて心配までされるなんて」
「…うん」
「でもそれは先輩は優しいからで…。親衛隊までいるんだからうちら1年が…しかも普通科だし、話し掛けることすら許されないんだよ」
「うん…」
分かっていたけど。
どうしても落ち着かない。
多分、これが好きって気持ちなんだよ。
もう一度近くで見たい、話したい。
でも今から音楽科棟の3年の教室に乗り込んで行く勇気もない。
だけど、
「……すき、だよぉ」
机に突っ伏して口から漏れた言葉。
友人が励ますように頭をなでてくれた。
姿を見れたら幸せだった。
なのにそれ以上を望んでしまう。
きっと先輩は私のことなんて覚えていない。
それでも私は想い続ける。
いつまで続くか分からない片思い。
まるで大海をぷかぷか漂うように、
気持ちいいのに苦しくて
楽しいのに辛い、
終わりのない毎日。
見込みのない未来を待ち続けるなんて、辛いよ。