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||| ケロって鳴くゲッコウガ

うちのゲッコウガの声はちょっと変わってる。普通のゲッコウガはゲコゲコ鳴くけど、うちの先生はケロっとしてて声が高い。
個体差があるのかな?病気だったりするのかな?と思っていろんな本を読んだけど、声の高い子も病気の子もゲコって鳴いてた。
「ゲッコウガ先生、なんでけろけろなの?」
「ケロ〜」
なが〜い舌の手入れのときも、一緒にご飯を食べてるときも、昼のお散歩も夜のお散歩もいつも同じ声。
パパとママが撮ってた昔の録画を見ても、やっぱりケロって鳴いてた。ケロマツのときも、ゲコガシラに進化した後もずっと!
「もしかして、まだケロマツだと思ってるとか……!」
「ケロ……」
うーん、なんだか違いそう。
もしも大変な病気があったらどうしよう。ポケモンセンターに入院して、治ったりするのかな?でも入院してる間は会えないなあ。
会えないで、帰ってきたら他のゲッコウガと同じようにゲコって鳴くゲッコウガ先生が帰ってくるの。
それってなんだか、違う誰かと入れ替わったみたい!ゲッコウガ先生は先生のままのはずなのに。もしみんなと同じようにゲコって鳴いたら、ナマエは悲しいのかな……?

「ケロ!」
「何してるの?そんな本に引っ張り出して」
「パパ!あのね……」
たくさんの本を読んだこと、昔の録画を見たこと、ゲッコウガ先生が病気かもしれないこと。ゆっくり、パパと目線を合わせて怖かったことをお話しする。ナマエが言葉につまるたび、パパも先生も頭を撫でてお話の続きを待ってくれた。
「……だからね、先生がケロって言う理由を探してたの。パパ、知らない?」
「勿論知ってるよ、だってナマエちゃんが言い出したんだから」
「うん?」
「覚えてない?小さい頃、ケロマツのことずっとケロちゃんケロちゃんって言ってたんだよ」
「ケロ!」
けろちゃん。その名前に聞き覚えがある。ぱち、と瞬きをして隣を見ると、ほっぺたがふっくら赤くなってるゲッコウガ先生と目があった。
「けろちゃん……」
生まれてすぐのことは、あんまり覚えていない。だから先生がいつゲコガシラに進化していたのかもよく覚えてない。
けど、ケロケロの可愛い声が少し形を変えたとき、ナマエはすごく、すごく驚いた。
だからその日──ケロちゃんじゃなきゃ嫌だって、ナマエが言ったの。

「けろちゃん……」
「ケロ?」
「パパ、喉が乾いたからお茶淹れようかな。ナマエちゃんとゲッコウガも飲む?」
「ケロ!」
先生の指がぴんと2本立っている。パパはにっこり笑って、キッチンの方へ歩いていった。

開いたままの本が床に散らばってる。先生が手を伸ばしてもう片付けを始めてる。手伝わなきゃ。でも、なんて言ったらいいんだろう。
ナマエがケロちゃんじゃなきゃいや!って突き放したのに。先生はケロちゃんでいてくれたのに。
なのにナマエは、ずっとわがままの内容を忘れてどうしてケロちゃんなの?って聞く始末。
悪いことをした時はごめんなさいをしなきゃいけないのに、謝ることが沢山あって言葉が上手に出てこない。
「せんせい、あのね、えっと、ね」
「ケロ」
先生が両手を開いてる。そのままナマエを包むみたいに抱きしめると、ゆっくり、ゆっくり頭を撫でてくれた。
「ケロ〜」
これは知ってる。先生が好きな木の実を食べた時とか、リラックスしてる幸せなときに出る声。でもなんで、そんな声が出るんだろう?
「せんせ、まって、ナマエまだごめんなさい言えてない……」
「ケロ?」
とん、とん、とん。
今よりもっと小さい頃、寝る前にいつも感じてた振動が背中に伝わる。大きな薄い手に安心して、いつもすぐ眠たくなる。
「せんせ……」
「ケロ?」
「……わがままいって、ごめんなさい」
「……ケロ」
先生に抱きしめられながら、私の意識が溶けていく。最後に聞こえた声が、なんだか、ちょっと笑ってるような気がした。



「二人とも、お茶が冷めないうちにおいで〜」
「ケロ〜」
「あ、寝ちゃったんだね。運ぼうか」
「ケロッ」
「む、じゃあお兄ちゃんに任せようかな」
「ケロ!」

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