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||| ルシファーが捨てた星の子の箱庭

──ルシファーさまはナマエを時々丁寧に扱う。
丁寧っていうのは言葉を聞いてもらえるっていう意味で、いつもはあんまり丁寧じゃない。
ルシファーさまがナマエに優しくしてくれるときは、ものを教えてくれるときだけ。疑問をわかるように教えてくれる。
外から見れば丁寧には程遠いかもしれない。でもいつものルシファーさまの、時には返事すらしてくれない姿と比べればそれはずっとずっと丁寧で優しかった。
だからナマエはルシファーさまがすき。ものを知るのがすき。優しくなるルシファーさまがすき。
文字をなぞる指先と、冷たい声がすき。こちらを見ようともしない横顔がすき。どこか遠くの、ナマエにはわからないものを見ている目がすき。ナマエを見ようとしないルシファーさまが、だいすき。
だからね、永遠にそれが続けばいいなって思うの。実験を続けて、ものを知り続けて、ルシファーさまの声がいつまでも聞こえる世界に居続けたい。それがナマエの願う楽園。
世界が終わらなければそれでよかった。

でもほら、終わっちゃったでしょう。二千年前のあの日ナマエの楽園は壊された。とても見慣れた人の手によって。
だから取り戻さなきゃいけないの。どんなに時間がかかっても、どんなにつらくて苦しくても。もう一度楽園を作り直さなきゃいけない。
箱を用意して、昔と同じお人形を揃える。ルシファーさま。ベリアル。ルシフェル。四大天司。上位天司に下位天司、星の民も揃えたほうがいいのかな。神さまみたいにナマエが全部揃えるの。
再生しよう。箱庭を作ろう。技術はたくさん教えてもらった。全部が頭の中にある。
もう一度楽園に帰る、そのためにはまずだいすきな人の帰る準備を整えないと!


「──それで?箱庭計画はうまくいったか?」
ああ、へびが笑ってる。舌を出して、誰よりも楽しそうな声で嗤ってる。閉じない目でこっちをみている。せっかく作ったお人形に身体を巻きつけて、かえしてくれない。
「オレたちの願いは繋がった。あとはファーさんの目覚めを待つだけだ、キミには感謝している。本当だよ」
「だからキミの役目は終わり、子供はもうおねむの時間だ。知ってるかい?夜更かしすると怖い悪魔に連れていかれてしまうんだぜ」
いや、幽霊だったかな。まあどっちでも変わらないか。

「箱庭っていうのは、今も昔も踏み台にちょうどいい大きさだ。中身が無ければ、潰れて踏み台として機能しないだろう?だからしっかりと骨組みを作る。
だがどういうわけか、時々踏み台ではなく箱の中身に興味を持つ奴がいてね。使わなくなった箱をあげるのは吝かじゃないんだが、お人形遊びに付き合えと言われると非常に困る。それなのに骨組みに必要な素材の作り方はキミしか知ることができない、実に悩ましい問題だったよ。
箱庭からキミを引きずり出した時のショックと、箱庭の中でキミを動かすこと。その二つを天秤に掛けたのはファーさんだ。そしてそれは前者に傾いた。ナマエ、キミの感情はあまりに大きく偏っている、空虚な星晶獣の一生をある種最も正しく理解し活用していた。その点において偏りは極上だったよ。ただ、求められていたものはソレじゃない」

「サヨウナラ、星の継受者。なに、お人形は沢山いるだろう?あとは遊び疲れて眠くなるまで好きにしろ、キミにはその権利がある。オレたちにその箱は必要ない、持ち主はもうキミだ。
さあ、大好きな箱の中で終末を楽しみに待つといい」

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