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||| ルシファーと魔王

「昔、魔王という曲を聴いたことがある」
「魔王?」
「同名の詩に触発され生まれた声楽曲だ。闇夜を馬で駆ける親子とその背に手を伸ばす魔王の物語になっている」
「魔王だなんて、大層な曲名ですね」
「名は体を表すというだろう。だが俺も聴いたのは随分と昔のことだ、今聴けばお前と同じ感想を抱くこともあるかもしれんな」
「ルシファーさまが音楽を嗜むなんて意外です」
「嗜む?そんなわけないだろう。付き合いだ、ただ一度だけ上位研究員に連れ出された」
「付き合うのも意外です!」
「……お前は俺をなんだと思っている。相手の趣味嗜好を知るというのは、他者を知るために必要な行動だ。俺はその付き合いに娯楽を求めたのではない、その男が何を好み何を不快に思うかを探りに行った」
「他人を連れ出す程度には声楽が好きなひとだったんですね」
「そうだな、他人に己の嗜好を押し付け自ら弱点を晒す者は実に利用しやすい。お前も覚えるといい」
「……好きな事を公言しない方がいい?」
「一切をするなとは言わん。だがそれにはリスクが伴う事も知っておけという話だ」
「ナマエはルシファーさまが好きです」
「は、ならば俺を殺せばお前は無力化出来るという事になる」
「怒り狂うかもしれません」
「それこそ無力だ、怒りに身を任せた獣に何が出来る?どれほど理性的に復讐の計画を練ろうがその理性は必ず綻ぶ、狙われればなす術はない」
「……」
「忘れるなよ、お前は道具に堕ちた。愛情や憧憬といった幻影に囚われるな、せいぜいお前は魔王からうまく逃げ延びてみせろ」

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