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||| ベリアル

「まっずい!うわ、まず!おえ、うえぇ!まっず!」
「語彙のない罵倒だな」
「おいしくないんです!」
そう訴えて、べ、と顔を歪めて舌を出す。
赤い舌にわずかに残った白濁液は、ヒトの子が出したものならさぞ多くのナニカが蠢いていたに違いない。
けれど所詮繁殖とは縁遠い星晶獣だ。
不必要な器官に、不必要な生命の種を生む機能などなく。限りなくそれに似せられた味の悪い液体はただこちらの不快感だけを煽るばかりだった。
「口の中が気持ち悪い……」
「そんなに嫌なら、新しい体液で濯いでやろうか」
「噛みちぎりますよ」
「それは困るな、キミからの奉仕が受けられなくなる」
「ナマエはそれで困りませんけど。むしろ汚物がなくなってスッキリします」
顔についた液体を指で拭いながら淡々と告げる。
そもそもこの行為を好きでやっているわけではないのだ。空の民が言うところの強姦に限りなく近い、だから不快感がより一層増すのだろう。
そもそも事の始まりは何だったか。思いつきで組み敷かれたのが先?それとも舐めろと言われたから舐めたのが先か、もはや記憶にない。
2000年以上こうして不味い液体をかけられ飲まされ、毎回散々な目に遭うのだ。ああ、そう考えるとこの関係の始まりはそれならに昔から続いているのか。呆れたものだ。
「空の子はこういうことを好きな人にやるそうですよ」
「ファーさんにしたいのか?」
「求められれば」
「へえ、キミはファーさんの事がそういう感情で好きなのか」
「恋愛感情とは一言も言ってません」
本当に噛みますよ、と歯を見せれば手で制してくる辺り、そこには雄としての本能的な恐怖があるのだろう。それでも、他人の嫌な顔で性器が勃ちあがる所がこの男らしいといえばらしい。

でも言われてみれば、ナマエはルシファーさまにこういった行為を強要されたら嬉しいのだろうか?
ヒトの子は種の存続を目的として種子を求める、より強い遺伝子を残すためより強い男を求め恋をするようになっている。
だってその方が効率がいいからだ。生き残るという願望は世界において絶対のルールなのだもの。
でも、それなら星は?星の民は種の存続を望むのだろうか。そもそも、この身体に子を孕む器官はあるのだろうか。……あったとしても、星晶獣として作り変えられた、成長しない身体では使い物にならないけれど。

「考え事か?」
嘲笑うような声で奴が問いかける。そうです、と肯定すればもっと面白そうな声を出した。実に腹立たしい。
「オニイサマに相談してみるといい」
…腹立たしすぎて、一杯食わせてやりたくなる。
「……この身体が孕めるのか考えてました」
そう言って死人のような白い腹を撫でてみた。
どうだ驚いたか、その余裕を剥ぎ取ってやる。
そう思い目線を奴の顔へと向ければ、珍しくどこか驚いたような顔をしているではないか。
いや、そんなの、こっちが驚く。
「な、なんで驚くんですか」
「キミがヒトみたいな事を言いだすからに決まってるだろ」
「なんですかそれ」
片や椅子へ腰掛け脚を開き、片や跪いて脚の間に顔を突っ込み、二人して驚いた顔をする。
少なくとも確実に、空だろうと星だろうとこれが情事に見せる顔ではないのは分かる。
「孕みたいのか?」
「いえまったく」
「だろうな、そうじゃなきゃ困る」
なんだそれ。

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