DISTANCE
夢を見た朝は寝覚めが良い。内容は覚えていない。だけど、目をさました瞬間に名残がある。キラキラと輝いていた日々の中にいた時のように、私の心が喜び、悲しみ、怒り、恐れていた、そんな感覚が胸に熱く残っている。夢の中で私は、心を震わせていた。
その日は朝からお客さまが来た。小さな女の子だった。
「いらっしゃいませ。」
「お父さんのくすりをください」
「お父さまはご病気ですか?」
「うん」
「お医者さまはなんて?」
「すいぶんぶそくだって。」
「少しお待ちくださいね。」
奥の薬棚に取りに行こうとすると、また店の扉が開かれた。青い目の彼だ。
「こんにちはー…」
「いらっしゃいませ。」
「リンク!こんにちは」
「あ、こんにちはメアリ。お使いか?」
「ううん、お父さんはいらないってゆうんだけど、お父さんに元気になってほしいからきたの」
「そっか、えらいな」
彼は恐らく数日前に置いていったブーツを取りに来たのだろう。片腕に抱えているのは私のベッドのシーツだ。そして女の子とは顔馴染みらしい。彼は便利屋さんだと言うから、顔は広いのかもしれない。
「はい、水分の補給を助ける薬です。」
「ありがとう!…えと、おいくらですか?」
「お金は要りません。その代わり、ちゃんと薬が効いたかどうか教えてくださいね。」
「はーい」
お客さまを見送った後、彼に向き直る。先程までの女の子への微笑みが引っ込み、半ばひきつった表情で彼は目を泳がせた。
「用件は、先日の忘れ物ですか?」
「うん。…あと、なんていうかその…この前は無駄に騒いでごめん」
「いいえ気にしないでください。どうぞ、貴方のブーツです。」
「あぁ、…これきみのシーツ」
物々交換を終えて、しかし彼は未だ緊張を解かずにじっとこちらを見ていた。話したい事があるらしい。丁度良い。私も彼に話がある。
「た――」
「仕事!…ちゃんとしてるんだな、さっき見てたけど」
「――…はい。」
「何だか、自暴自棄な人なのかと思ってた。そんなことないんだな、ちゃんと…他人のこと想えるっていうか」
「生きたい人がいて、生きてほしいと思われている人がいて、その助けになる薬がある。ただそれだけです。」
「じゃあどうしてきみは薬屋を?」
それが解らない。私は首を横にふる。あったのだ。そこに、大切な、あれが
「頼みたいことが…――」
「提案なんだけど…――」
声が重なって、ハッとして私達は目を見合わせた。会話の切り出しを譲るか譲られるかの微妙な間。
「心を探すのを…」
「手伝うよ、それ」
皆まで言わずに、どうして伝わるんだろう。彼はしっかりと頷いた。
「…本当に?」
「その代わり、心が戻ってもさ」
「はい」
「俺に惚れないでね」
「……」
「ぶふっ…ここ笑うところ!」
彼の笑顔は少年のようだった。私は想像した。この彼と一緒に笑っている自身を想像した。胸が引き裂かれるようだった。固まったまま動かない頬の筋肉を、見られたくなくて、私は顔を覆った。