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APOLOGIZE







俺だって男だ。いや男でしかない。男以外何がある。何年男をやってきたと思ってるんだ。本業より便利屋稼業より断然長いさ。女に興味が無いわけでもない。でもないが、どうしてよりによってあんな女。見るからに貧乳で無愛想なやつ。いや貧乳なのか?意外とあるのか?というか俺は生で見たのか?触ったのか?全然解らない。こんなに記憶を飛ばしたのはいつ以来だろう。そうだな、初めて酒を飲んだ15の時以来だ。あのときの二日酔いの気持ち悪さはよく覚えている。ナビィの小言で頭痛がおさまらなかったのを、俺はつい昨日のことのように覚えている。

「うぇっぷ」
「勿体ねぇ勿体ねぇ、いい大人がせっかくの飯をげろにしちまって」
「いいから、水、くれっう、ぐ…ゲロゲロゲロゲロ」
「お前に飲ませる水があったら俺ぁワインで体洗ってるところだ」

それでも医者なのか!と叫びたいところだが俺の口は今それどころでなく忙しい。俺が木桶に顔を突っ込み農家の人に土下座している横で、ドクターは今朝俺が彼女のところから持ち去ってしまったベッドシーツを頭から被ってその匂いを嗅ぎ倒していた。と、思ったらもう飽きたのか、俺の方に投げ寄越してきた。

「エロ中年おやじめ…」
「ケツの青いチェリーが何か吐いたか?」
「さくらんぼ?」
「お前の心配事なら何も無いぞ。匂いがせん。」
「え゙、本当に?」
「ああ、つまらん。」
「ドクター!!っ、う、ぐう、っぷ…!」
「ほれ、水」

俺は彼女のシーツで口を拭いて水を一気に飲み干した。毒が薄められていくように、気分が楽になる。しかし匂いでなんのかんの、解るものなのか、ドクターって凄い。

「俺決めた。当分酒は飲まない…。」
「そうか。まあ今時酒も高騰してるからな。」
「へぇ、知らなかったなぁ…アリッサの所じゃ変わってない気がしたけど」
「あそこももうじき無理が来る。足りねえのは水だ。噂じゃ城下の奴等が買い占めてるらしいが」
「……」

さっきの軽口は、軽口なんかじゃなかったらしい。本当に俺に飲ませる水は無かったんだ。酒を戻して勝手に気持ち悪くなってる俺なんかに飲ませるくらいなら、ドクターは自分の熱中症に備えてコップ一杯の水を飲むべきだった。

「ドクター」
「あ?」

ドクターは鬱陶しげに、シャツの襟元を扇いで、ぶっきらぼうな字で、帳面に書き込んでいた。俺の名前のページに並んだ6つ目の「二日酔い」の文字。

「今度、えーと……依頼で城下町行くんだけど、お土産何がいい?」
「ケツの締まった良い女。」
「それはちょっと…」

ドクターはヘラッ、と笑った。年をとった時こういう笑い皺のできる男ってのが密かに俺の理想だった。





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