ss | ナノ
ADDICTED







彼女のことをドクターに聞いたら、薬屋だという。医者の多くないこの町で薬屋と言ったら、知らない筈がないのだが、後日彼女の店を訪ねて、それが何故か分かった。胡散臭い雰囲気だ。端から見たら占い屋か骨董屋みたいなもんだ。町でも悪目立ちしていたが、縁が無くて俺はその店の中を知らなかったんだ。扉の前で少し物怖じしたが、用意してきた言葉を喉の所まで引き出して店に入った。




「いらっしゃいませ。」


確かに彼女がいた。扉のベルの音に反応して振り返り、作業を中断して、少し足を引き摺りながらこちらにきて、きっちり頭を下げた。俺は鼻から息を大きく吸った。つんと臭いが刺さったが、構わず口を開いた。

「昨日のことだけど…!」
「はい。」
「リンゴはゴミになったらそこで終わりだけど、きみが食べたら君の体になって、君の活力になって、きっと色んな人に影響して、ずっと終わらないだろ。何より、きみの空腹は解消される。だろ?ほら、全然違う!」

彼女は微動だにしなかった。表情も変えなかった。理論武装だって負ける気はない。これでも人より多くの経験をしてきたという自負がある。だけど彼女の方は絶句と言うよりも、聴いていないのか、なんなのか、よく見ればその目は虚ろで、全く俺を見てはいなかった。


「なあ、聞いてるのか」
「聞いてますよ。ええ…ゴミになるよりもマシと考えている。そこが食い違いですね。」
「なに?」
「私が何の生産性もない人間だったら?それどころかマイナスで、残虐の限りを尽くす魔王なら?」
「は…」
「意見の押し付けはやめてください。」


彼女はすっ、とターンして、奥の窓辺の作業台に戻って行ってしまった。カラクリ人形でも相手にしている気分だった。酷い。俺の方がよっぽど人間らしい。

彼女は、よくわからないけど、変な薬の調合みたいなことをしていた。店の中は全体的に真っ暗で湿っぽいけど、そこの作業台周りは陽光があって植物もあった。俺はそれとなく彼女を伺っていた。晴れない気分で、帰るのは癪だ。


「リンクさん。」
「え?」
「質問してもいいですか。」

まさかの彼女からの声。俺は間抜けな声を出していた。扉側に佇む俺の方に、律義に振り返った彼女。後ろの窓から午後の日差しが照って、彼女の形はハイライトに浮かび上がっていた。無表情が印象強いせいで、すごい絵画みたいに、少し恐いと思った。


「いいけど、なに」
「貴方の生きる意味は何ですか。」
「……考えたことない」
「ふっ」
「!?」


僅かに喉を鳴らして、彼女は笑った。表情の方は、さしたる変化は見られないのに、確かに。なんて笑い方をするんだ。


「なら貴方は死んでる。」
「は、あ…?」
「私と同じ。」


彼女はもう背を向けて、手に持っていたガラス瓶を傾けて、何か白い水を飲み干した。よく解らない、よく解らないが馬鹿にされた気はした。言葉は凶器だ。下手な奴に剣なんか持たせたら、本当に、酷い。

「こん、のクソ×××!!」

なんて言ってない。そんな下品なこと俺は言わない。ちょっとくらい言ったかもしれない。俺は店を飛び出した。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -