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DAMN







もう何もかもどうでもよくなる。でもその空虚は実はずっと前から私を占めていたものだった。


「きみ、何か悩みでもあるのか」


青い目の彼、私を救った張本人。彼が見舞いの品にと持って来た林檎のカットを、私が手にして呆けていたらそんな柔らかい声が、努めて優しい声が掛かった。


「…貴方は、誰なんですか。」
「俺はリンク。なんていうか…便利屋を営んでるんだ」
「頼んでもないのに、人助けするなんて、随分便利な人ですね。」
「ははっ、まあよく言われるよ」


お医者さまの話では、三日もすれば容体も落ち着くというので、明日には自宅に戻れる。自宅。家。ここ数年はただ寝るだけの場所のような存在だ。それを思うと体が重くなった気がした。

「リンゴ、旨いぞ」
「食べたくないんです。」
「何か食べなきゃ、早く元気になれないだろ」
「でも、食べたくない」
「駄目だって、ほら一口だけでも……」


ほろ、と指から滑り落とした。リンゴを。私が。意図的に。そうした。便利屋さんは、あ、と惜しそうに声を漏らした。床に落ちた薄黄色の果実を見て、青い目は誰に対してか申し訳なさそうに歪んだ。「ごめんな」と彼は控え目に言う。彼が無理に勧め、押した手のせいでこうなったと思っているらしい。


 ぐしゅ


「!?」

私は寝台で座っていた場所から、すぐそばのリンゴへ、怪我の無い方の足を伸ばして、それを踏みつけた。

「な、」

わなわなと、彼の口が震えていた。

「何してんだ!お前!」
「…何を、怒ってるの。」
「いくら食べたくなくても…、食べ物を粗末にするなよ!」
「…モッタイナイから?」
「そう、勿体無いから!」



「このリンゴが私に食べられるのとゴミになるのと、どう違うの」



彼は顔を強張らせた。私が何を言おうと言い返す気でいたらしいのに、口を開けて絶句していた。
しばらくして



「全然違う……」


そう呟いた。

残りのリンゴを、彼は慣れた手付きでカットして、皮を剥いて、そして自分で全て食べてしまった。





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