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ALIVE







酷い事故があった。台車の後輪が外れて女の子がその車の下敷きになっていた。どうしてそうなったのかの経緯は知らないが、体は咄嗟に動いていて、俺はただ夢中で彼女を町医者の所へ運んだ。


「ドクター、彼女は大丈夫なのか」
「見た目程酷くはない。」
「足は!?」
「ああ良い足だな。」
「馬鹿!骨は、折れてたり…」
「しとらんよ。」

不潔そうな無精髭を撫でながら、ドクターは寝台の上の彼女の白い脚を撫でた。俺は頭にカッと血が上ってドクターの脹ら脛にローキックした。

「お前治療費はどうすんだ」

身悶えながらドクターはそんなことを言って誤魔化す。治療費か、何も考えてなかったけど今月の収入はコッコの涙程で、生活費だけでも厳しいものがある。自覚はある。俺はこういうところで考えなしだから、度々こんな人助けのようなことをしては、相棒にお人好しと言われていたっけ。

「そうだな、一昨日にお隣のおばさんから貰ったパンを分けるから、それで勘弁してくれ」
「湿気てやがるなぁ」
「まあ、二重の意味でね」

上手いこと言葉が重なった時にはくだらない笑いが起こる。オヤジギャグなんてものを冷ややかに流していた時分の俺からしたら、大分寒いに違いない。ついでドクターが乾いた笑いで返してきたものだから、俺の笑顔はひきつった。壮年の皺を刻んだドクターは、この暑さのせいか、日に日に痩せ衰えていくように見える。使い倒して強く絞った雑巾のような顔だ。表装は柄の悪い人だが俺に負けず劣らずでお人好しだから、ろくな治療費も受け取らず働きづめているんだろう。
治療費の湿気たパンに加えてチーズと果実類も渡そうと俺はひっそり考えた。


「…っ、う」

「あ、気が付いた!」
「待てリンク、そうがっつくな」


ずっと閉じていた彼女の瞼が開き、目は虚ろに視界に入るものを追っていっている。ドクターの制止も聞かず寝台に近づいて、俺が覗き込むと彼女は、乾いた唇を億劫そうに開いた。


「ここ…」
「町のドクターの所だよ、診療所」
「そう、…ですか、まだ…まだ、わたし…」
「ああ、生きてる」


しっかりとそう教える。力の無い手を取って握ってやる。そうしたら彼女は、泣いていたんだ。







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