メタフィクションは揉み消した
(※メタ発言?/一寸勇者/名前変換無し/ただただ謎)
ディメンションは交わらない
ボーダーはすぐそこ
時代は3Dだよ。知らないの?まあ無理もない。古い奴ってのは捕らわれるんだよなあ、過去に。自分が一番輝いてた時代を忘れられない、そういうもんさ。別に悪いことじゃない。俺も言わば『過去』の産物なわけだからさ。でもさ、新しいものを受け入れないってのはどうかと思うよ?それは人の進化を止める。だからきみ、この先ゆるやかに死んでいくだけなんじゃないか。
「うーるさい!小さい口でペチャクチャとぉぉ!」
「お、やっとこっち向いたな!さあほら、俺と遊ぼう」
「いいこと?小さい勇者さん、すぐにお家に帰りなさい、祖国の危機に油売ってる場合?」
でっかい彼女はテーブルをばしんばしん叩いて怒った。俺の足元が酷い地震に見舞われた。よろめく俺を鼻で笑って、彼女はカチカチと小型携帯器機をいじりに戻る。何を怒る必要があるのか解らないな。まあいいさ。俺に対して感情を抱くのは正解だ。楽しいのも腹立つのも、遊びでは大事だ。
「本当に何て言うか…俺も出来ることなら今すぐガノンドロフをめためたにしばき倒したいと思うよ」
「しばき倒すとか言うか、勇者が…」
「でもきみが『アレ』の電源を入れてくれない事にはハイラルの時が進まない、だから仕方ないじゃないか」
「っ…」
彼女は唇を噛んで、ふいっ、と俺に背を向けた。そっちがその気なら、と、俺は彼女のおやつのケーキをこっそり拝借した。
「きみは何なの…」
「リンクだよ、もぐもぐ」
「あっ!ケーキ」
「ショコラって外れがなくて好きだな」
「お子様め…」
「中身は9歳なんだ」
「8歳よ!」
ハッ、として彼女はまた顔を背けてしまった。そうだったっけ?まあコキリの森で暮らしてきた歳月が、はっきり何年とかわからないけど。
「リンクは…」
「うん?」
「もっとポリポリしてた」
「?…魔法の豆?」
「違う…でももういい。ていうかタッチペンをフォーク代わりに使わないでよ!」
「はいはい。でも諦めろよ。時代は3Dなんだ」
「なによ、3Dなんて……こちとら生まれた時から…何年3次元やってきてると思ってんの」
そんなに気にくわないかなあ、3Dって。楽しいと思うんだけどな。進化だと思うんだけどな。だって同じ次元の臨場感って、やっぱり凄い。俺はテーブルから棚の方に飛んで彼女のデスクの上のパソコンの所に辿り着いた。さりげなく公式サイトを開いて置いてアピールしたりなんかして。
「そっちの携帯より、こっち、ほら、遊ぼうよ」
「今更要らない…」
「きみに見せたい景色があるんだ。ううん、一緒に見たい、そういう景色があるのに?」
「でも、本当じゃない」
黙々とカチカチと、彼女は携帯を手に丸まって縮こまっている。コミュニケーション能力がないのは別にいいけど、俺は出来れば目を見て会話したかった。
「本当かどうかはきみが決めるしかないんだ」
「……」
「そうだな…いつかきっときみの脳を騙す程の3D技術が出来るよ」
「さっきから思ってたけど、勇者のくせになんで『こっち』の事情に詳しいの!3Dとか言わないでよ」
「だって俺はきみに会いに来たんだ」
びくん、と彼女の肩は跳ねて、振り返った。そしてデスクの端で足をぶらぶらさせていた俺の方へ来て、大きな目を俺の目の前に寄せた。
「嘘」
「どうして?」
「だって、所詮…小さな3Dの空間の…住人、でしょ?」
「くくっ、ふふ…!本当にそう思ってたの?」
彼女はショックを受けたように瞳を揺らした。
「私の夢はね」
「ん?」
「そっちの次元に行くことだった」
「本当に?いやぁ、ははっ、なんて言うか相思相愛みたいな?」
「違う。ライバルだよ」
「!?」
きみがこちらに来るか俺がそちらに行くか?どちらが先か?それは危険だ。すれ違いが恐い。丁度良くすれ違って、きみがいないんじゃ面白くない。そっちだってそう思うだろ?
間を取ってさあ、二人だけの世界に行かない?
11.07.24.