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手紙の出し方





ポストの前で、わざわざ手紙を両手で持ち、躊躇していた

かれこれ30分は、こうしていただろうか
ポストの口に、近付けて、引いて、近付けての繰り返し
近付けて、押し込んで、そのまま手を離せば、届いてしまうんだ

私のこの手紙が

それは恐ろしいと同時に、大きな期待もはらんだ事象で
どちらにも気持ちが傾ききらずに、どうしても私は手が離せずいた
そのせいか、じゃっかん手汗で封筒が湿ってきたような気が
それにシワも随分できてしまった
早く出さないときっともっと酷い手紙になってしまう
何より、もうすぐ郵便屋さんが来る時間なのに








「出さないのか?」


「え!?」





もう来ていた

この島の担当の郵便屋さん

向き合う私とポストの間を取り持つかのように、そこに立って腕を組み、私の挙動に首を傾げ、立派な揉み上げを揺らしていた



「あ、ラブレターか?」

「ちちち、違いますそんな!!」


愛が込もっていない、と言ったら嘘になる
しかしながらラブレターかと訊かれてはいそうですと素直に頷ける度胸は私には無かった

ラブレター、だなんて言ったところで、相手は私のことなど殆ど知りもしない、こちらの完全な片思いなんだから

私は手紙に視線を落とした
薄ピンクの封筒だ、少し香りつき
こんなの、彼が喜ぶのかしら
そんなのを疑問に思えば次々にボロが出る
宛名の文字も、震えていて不恰好
中身もたしかこんな字だったかもしれない、そう思い出す

きっと駄目だわ、だって、こんな、ぐちゃぐちゃに散らかった内容で、貰った人はどう思うんだろう、気分を害するかもしれない、私が嫌いになるかもしれない、それなのに

何故これを投函しなきゃならない


気付けば私は息を止めていて
両手を互いに違う方へ引き、破いて破いて、破いて、

びりびりに破いて地面に捨てた


胸が苦しくて、思い出したように呼吸を戻せば煩くて、あぁもう

と苛立ちに任せ、散らばる紙片を更に地面に押し付けるように踏んでいたら




「ゴミをこんなところに捨てたら駄目だろう」





郵便屋さんが言った




「ご、っみ!?ゴミだなんて!」


私は心外も心外で、たった今も、手紙だったものをゴミへと変えようと踏みつけているのを棚にあげて、郵便屋さんの凛々しい眉毛のあたりを睨んだ
彼は少々…怒っていたかもしれない…真剣な顔付き





「俺は仕事柄、手紙を受け取る人の反応をたくさん見てきたが、少なくとも受け取った手紙をこんなに破く奴は一人もいなかったな」





かぁぁっ、と顔が熱くなって、私は俯いてしまった
そしたら土をたくさん被る紙が見えてしまって、慌ててそこから足を退けた

恥ずかしかったからだ、情けなかったからだ
それは未だポストを通っていない、誰からの手紙でもないのに、だって


私は私の想いを引き裂いてゴミにしてしまったんだ
今までずっと暖めていた私の気持ちと、前の晩に一生懸命考えた私の言葉を







「っ…わたし、私は…!」



私はその場に膝をつき、手紙の欠片を集め、手元に引き寄せて、そして土で汚れたり、掠れてしまった切れ端の中から、言葉を、想いを、探して探して、捜して








「あの、郵便屋さん!」

「何だ?」


郵便屋さんはポストに肘をつきながら、ずっとそうして待っていてくれたらしい
土まみれになった私の手元を、興味深そうに眺めていた
優しくて柔らかい微笑をしていた




「これ、私から、貴方へです!」


切れ端を、二片、渡す

なんて小さくて、凝縮された手紙だろう
掠れていながら、"郵便屋さん"、と、それから、"好"の文字だけ辛うじて読める紙片





「俺に?」



こくこく

恥ずかしさから、何度も頷きながら、段々顔を俯かせていく

へぇ、って、感心したような声がした
それは、どんな意味だろう


今にも風に飛ばされ得る、掌上の小さい紙を、彼は丁寧に指先で摘まんで、受け取った





「こんなに良い気分か、手紙を貰うのって」





爽やかに笑ってくれたりしたら、良いお返事を期待しちゃうじゃない、郵便屋さん








11.01.22.(四-小)


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