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フロンティア







ジャラ


ジャラジャラ





未だ半分夢の中の私を冷たい音が引っ張り上げる

何の音だろう、からくり時計が壊れたのか
瞼がどうしても重いし、きっとまだ6時にもなっていないと思う
今日は遅番なんだから昼まで寝かせてほしい
だから邪魔しないで欲しいな変な音さん、最近は酷く疲れが溜まるんだもの
ああでも夢の中も疲れる、何だか最近同じ夢を繰り返し見ているような気がするから、邪魔してくれて丁度いいかもしれない






「繰り返す三日間っていいよね」


「……えぇーと」


「何をしても名前は覚えていないんだから」



目を開けると茶色い天井の木目より先に青い目が見えた
キラキラした宝石のような、ぱっちり大きな、少年の目が、私を見下ろして影を作っていた
私と目が合ったのを確認すると、おはよう、と
やはり幼さのある少年の声が言った


「うわぁぁっ!!」


私は飛び起きた

ジャラ

そうして振り返り、変な格好に足を曲げて座り込んで、枕元の方に、座っていた少年と再び目が合う




「だ、誰だ、少年!」

「ほら、覚えてない」

「何を言っている!」

「俺はリンク」

「そっ、そうか…ではリンク少年、君は家主側の許可なく住宅内に入ってはいけない」

「…昨日まであんなにイイコトした仲なのに、つれないね」

「い!?」


何だ、良いことって何だ
ま、まさかこんないたいけな少年を相手に私、ああそんな馬鹿な!私は由緒正しい騎士の家系なんだもの(今は自警団員だけど)そんな道理から外れたことするはずない、きっとない、ま、まあ確かにこの少年、あと七年くらいしたら結構私の好み…


「って、違う!」


ジャ キ ン


「うわ!」


腕を振り乱していたら何かに引っ張られた
見れば、なんということか、手首に枷、鎖で繋がれ、ベッドの足の方にくくられていたのだ、しかも両の手

「なに、…何を!」

「ベッドから出られないような長さにしてある」

「ふざけるな少年!今すぐ外せ!」


そう、私が怒鳴り焦るほど、リンク少年は意地悪な顔で笑う
小さい指で、摘まんで見せられたのは小さい鍵
手枷を外すためのものに違いないと、私が悟るのと同時
少年は家の隅の扉、トイレの扉を開いてその穴に…い


「何してんのクソガキぃぃいいいい!!!」

「はい、もう鍵は無いよ」

「馬鹿なのあんた!?これじゃあ私、門番の仕事にも…!」

「"月が恐いので家族と避難します"ってバイセン隊長に手紙出してあるから大丈夫」

「はぁぁああ!!?」


この私があんな岩の塊ごときに恐れ覚えて町を放棄し逃げ出しただって!
そんな家名に傷をつけるような醜態、わざわざ手紙に残すような逃げ方しな…
じゃなくて!逃げたりしないわ、私は騎士の子なんだから!

ああもう私はこの先どうすればいいの
隊長に今更会わせる顔が無いし、もしカーニバル中止の避難命令が出たって、私はここから動けないし



「ああぁぁー!!私はどうすれば!」

「絶望してるところ悪いけど、そろそろ俺の要件済ませてもいい?」

「要、件?」



ギシ

古いベッドが鳴いた
少年がベッドの上を渡り、私の方へ確実に距離を縮めに来た
当然だ、私はベッドから出られないのだから
ギリギリ縁まで来たところで鎖がピンと張る、本当によく調節された長さだ、頭に来る



「ほら、そんな端っこじゃなく」

「きゃあ!」


鎖を引かれ、ブンっ、と体が枕元の方へ投げ飛ばされた
この少年の何処にこんな力が隠されているのかというくらい、逆らえない強さで、ぼふん、とベッドに沈む


「なに今の可愛い声」

「う、煩い!ちか、ち、近寄るなあ!」

「名前はもっと女の子らしくすればいいのに」


直ぐ様上体を起き上がらせ、半ば抜けた腰で必死に後退りしたけど駄目で、すぐ壁紙が背中を叩いた
そこを少年が迫ってくる

ああ私はいったいどんな酷い暴行を…
こんな一回りも違いそうな少年にいいように遊ばれてしまうだなんてなんという恥辱、なんという屈辱
もう私、自害するしかない
さようなら、お父様、名前は貴方の娘として生まれたことを誇りに思います、本当に







「ん……?」


ふぁさ、と柔らかいものが触れた
それに程よい重みが膝に
下を見れば、再三、リンク少年と目が合ってしまった





「……何をしている、少年」

「膝枕」



少年は何度か寝返りをうち、楽な姿勢を探る
その都度、緑の帽子を取って現れた金髪が膝をくすぐり、どうも焦れったい
と、同時に、私は急速に体の力が抜けていき、へたり、壁に寄りかかってしまった


「ひざ、まくら…かぁ……良かった…」

「ふっ、何を期待してたの」

「き、期待などしていない!それよりも少年、鎖で繋ぐなどと大袈裟な真似を………」


少年は早くもうとうとと眼を眠そうに細めて私を見上げていた
余程私の膝が気に入ったのか、四肢を縮こまらせていく、本当に少年らしい姿に、私はもう怒鳴る気になんかなれなくて
柔らかい金の前髪をそうっと撫でることにした




「はぁ…」

「凄く…幸せそうな溜め息だな、リンク少年」

「ん、俺しあわせだよ」

「そうか」

「次はウサギずきんで…バニーちゃん…かな…」

「ん?」

「ブレー面で、…女王さま、も……」


すー

 すー




少年の力が抜け、膝にのる頭の重みが増した気がした


しかし膝枕の為にこんなことをしでかす少年がいるとは
人は死の間際には簡単に理性を失うと言うが、やはりあの月のせいでもはや世界は終わりと思い、奇怪な凶行に走る町民も増えてくるのかもしれない
ますます警備を厳重にしなくてはいけないな、バイセン隊長に進言しないと

ん?私、こんな決心を前にもしたような気が…











11.01.17.(四-破)


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