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さら


(※死ネタ?/夢じゃない/なんか謎話)




























森に入ってはいけないと、母さんは言っていた
森はお前を惑わせるだけだから
迷子になったら帰れないから


そう言っていた母さんは森に入って帰って来なかった



森に入っては絶対に駄目と父さんは言っていた
森の中には母さんはいないから
何も目ぼしいものなど無いのだから


そう言っていた父さんは森に入って帰って来なかった




私はそこで漸く気付いたので、丈夫なブーツに履き替えて、荷造りをした
そして森に入った










「ねぇ、聞きたいのだけど」


森に入って、そんなに歩かなかったと思う
少し木を切り開かれて空いた広場に辿り着き、切り株の一つに少年が座っていたのを見つけた

日光をいっぱいに招き入れたその森の一角は、艶々の葉がそれを優しく反射し、柔らかい光を漂わせて、空気さえ輝いている
まるで一枚の絵画のような、しかし何か懐かしさを感じさせる光景に気付き、私がしばし呆気に取られている間に、少年は手にしていたバイオリンを担いでさっさと木々の間へ入って行こうとしたのだ


「あ、待って!」

「っ…離せ!」


捕まえようとする私の手を振り払う少年の、顔をようやく間近に見ると私と同じ金髪の、糸目

何処かで見たような気がした



「君、名前は」

「……フォド」

「あのね、私は名前、母さんと父さんを探しているの、二人ともね、私と同じ金髪よ、知らない?」

「…知ってる」

「本当に!?何処に居るの?何処で見たの」

「…何処にでもいる、そこら辺にもいる、でも…互いに見えてないみたいだな」

「互いに見えない?」

「きっと皆探してるものが違うんだ」


ふっ、と小馬鹿にするように笑った少年の一瞬の表情を私は知っていた
そうだ、私がうんと小さい頃に行方不明になったという兄に似ていた
写し絵でしか見たことがないが
母は森で彼を見てしまったのだ
そうして少年を探して回って帰って来なかった
父は母を追い、探して回って帰って来なかった



「ねえ、フォド、一緒に来て」

「え?」

「私の家に来て、お願いよ、森のすぐ傍の小屋なの」

「いやだ」


私はどうしてもそれしか考えられなくて、嫌がるフォドの小さな手を掴んで引いた


「母さんは君を探してるの、追ってるの、だから君が森から出たら」

「嫌だ!やめろ離せ!」

「そうしたら、母さんもいつか森を出てくるでしょう?父さんも帰ってくるんでしょう!?」

「やめろ、離せ!駄目だったら!!」



走って、走って、来た道を、半ばフォドを引きずりながら、はやる気持ちで走った
森に入ってから、そんなに距離はなかった筈なのに、どうしてこんなに長く感じるんだろう

母さんと父さんを待ち続けた時間に比べたらどうってことないのに






「名前!!」







森を出るその刹那、私の手を引く力がなくなった


さら、と砂のような何かが私の指の間をすり抜けたみたいな、そう思ったら、彼は居なかった

森の入口に、降り積もった、それは、森からの風に吹かれて、まるでチリでも掃くように、森の外に、流されて




「あ…あぁっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」



私は訳も解らぬ叫びを上げながら森へ引き返していった




「フォド!フォド!!フォドー!」


探したいのは母さんと父さんだったのに
私が声を枯らすほど呼んでいるのはフォドだった

だってかれが、彼が家にいてくれればきっと、父さんも母さんも帰ってきて、元通りの家族になる
ううん、フォドもいて、もっと素敵な家になるはずで、だって、そうでしょう

フォドがいてくれればいいんだ
フォドが、希望なんだ

フォドが、消えたなんて、そんなの――




















森に入ってはいけないと、母さんは言っていた
森はお前を惑わせるだけだから
迷子になったら帰れないから


そう言っていた母さんは森に入って帰って来なかった



森に入っては絶対に駄目と父さんは言っていた
森の中には母さんはいないから
何も目ぼしいものなど無いのだから


そう言っていた父さんは森に入って帰って来なかった





森に入って探しには来ないで、と姉さんは言っていた
森でのイタチゴッコはたちが悪いから
全員迷子なんて笑えないから


そう言っていた姉さんは森に入って帰って来なかった




僕は思ったんだ、家族皆でイタチゴッコなんて、きっと楽しいに違いない

僕は丈夫なブーツに履き替えて、荷造りをした
そして森に入った









11.01.19.(四-破)


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