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15.約束してないから

(※悲恋ぽい)







時計台からの鐘の音は、世界の果ての果てにまで響き渡るほど、堂々と盛大、そして不変

きっと彼にも届いているのだろう


ただただ、この音は無情
絶望を垣間見た人間を、あっさりそちら側に誘うくらいに、非情、にも聞こえてしまうだろう
全ての門限の時
希望の光は一片たりとも締め切られる


だけど私は絶望の中も、無理矢理に希望を思い描いてまでもがかなくてはならない
諦めの悪い人がいるから、二人も、三人も






「サーコーン!」

「うひ!?」


ズザァァー!、とスライディングをかます勢いで床を滑りながらコーナーを曲がり目標の人物に睨み付ける
片手にハイラル一の鍛冶師からの餞別、小振りだが切れ味の凶暴さに定評あるマイナイフをチラつかせている私の方がさながら強盗のようだった


サコンのアジト内、秘密の地下に潜り込み、コンベアに運ばれていってしまった太陽のお面を追ってきてみれば、主犯の奴がコソコソと貴重な盗品をまとめて逃げようとしているところだった


「観念してそのお面返しなさい!あと私好みの宝石も寄越しなさい!」

「ばっ、馬鹿が!こんな月が落ちそうな時に正気か!」

「最大の火事場に温いこと言ってんじゃないわよ、二流め」


別に私が泥棒で一流だとかいうわけではないが
タルミナの最期、この最大の火事場にもこいつがしっかり泥棒していたならその信念にも感服するものがあったのに
焦燥ついでに失望だ














「名前!」

「リンク!取り返したよ!」

イカーナ渓谷を引き返す道中、エポナに跨がり迎いにやってきた昔馴染みの彼に太陽の面を投げ渡す
リンクは狂いなくそれをキャッチすると、Uターンさせて私と同じ方向に走った



「カーフェイは!?」

「アンジュさんのところだ!」

「リンク、先に行って、届けてあげて!」


リンクは目を見開き私を顧みた
驚いてもエポナの足を止めず時間を惜しむのは流石といったところか
いいのか?、と何か意味を含みながら訊く声に、早く、と怒鳴るように言い渡して先を促した

エポナの速度を上げさせて颯爽と並走から飛び出していく
リンクは距離が広がる前に振り返り、時のオカリナをこちらに投げた
私は落とすまいとわたわたしながら危なげに両手に収める


「時計台で待ってる!」


そう言って、リンクは見えなくなった
勇者リンクが吹かないでは無意味のこのオカリナが託された意味は
二人が揃わなければスタルキッドを止められない、ということ
口を揃えて確めるほどの約束でもない

地平にリンクとエポナが消えていくのを見送った後、私は足を止めて渓道にポツンと立ち尽くした
疾走に息は上がっていて、気が付けば呼吸が反響していた
それ程に世界が静か

鐘の音が僅かに届くほど


カーフェイは今頃どうしてる
リンクに太陽の面を渡され、呆けて、リンクに背中を蹴られながらアンジュの元へ、彼女の腕の中へ
幸せを抱き締めている頃だろう



ポロポロと頬が涙に撫でられた
醜いほどの感情なのに胸の中はすぅっと溶かされて色が落ちるみたいに透明な気がした

「ぅっ、ぐぅ…っ…」

指じゃ拭い足りないくらい涙が出るから腕で目元を覆って痛い程に拭っていたら痛かったからむしゃくしゃしてもっと泣いた
立ち止まってはいられないから足は律儀に前を進んでいた
泣き歩く様はさながら迷子のようだ


真正面から好きだと伝えてもいない私に彼を恨む資格はないのにバカ馬鹿馬鹿と響かせる

好きだったよ赤い目の君
愛する人と迎える世界の最後なんてシャングリラ、私は拝ませてあげたくないから
約束してもないし行く義務もないのに諦め悪く世界を生かす道を行くよ



10.01.04

お題:確かに恋だった


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