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たそがれ






相も変わらず黄昏色の空を見上げ始めてからどれほどの時が経ったろう。いい加減飽きやしないのだろうかと、名前は心の底から不思議に思う。目に痛い橙色の髪を微風に揺らめかせるさまはまるで赤々と燃える炎のようにも見えた。
このままだといつまでもそうしていそうなのがその男、イクサなので、名前は何気なく口を開いてみることにする。



「なぁ、知っているかイクサ。黄昏の意味」


「んー………全然知らね」


少し離れた位置で首だけを傾けて若干は考えたようだが、どうやら思い当たる節がなかったらしくイクサは首を横に振る。薄暗い空の下、数歩離れれば相手の顔も分からない影の世界でもあまり気に止められないような"黄昏"の話、昔誰かから聞いたおとぎ話程度のそれを名前は思い出しながら話し始めた。



「たそがれっていうのはさ、ずっと昔……たぶん光と影が分かたれるよりも前、空が紫色に染まる時間帯を指したんだって」


「なんだよソレ、今と変わらないじゃん」



「たそがれ……薄暗くて、相手の顔がわからないから、"誰そ彼"って……最初はそう言ったらしい」



事実、こうして距離を取れば今イクサがどんな顔をしているのかも分からない。名前の話したことについて思いを馳せているのか、或いは彼のことだから普通に聞き流しているのかもしれない。
だが彼のためにと仕立てた服は遠目に見ても確かな黄昏色そのもので、空に溶け入ってしまいそうだとさえ思えた。

イクサは一旦空を見上げることを止めると、何故かゆるい足取りで名前の隣まで近寄る。そこで何を言うでもなく、再び黄昏の空を見上げることに徹した。
よく分からない彼の行動に首を傾げ、名前は訝しげに眉を顰める。


「イクサ…―?」



「……傍にいればさ、俺の顔も見えるだろ。だから、大丈夫だぜ」



何が大丈夫だというのか、問う隙もなくイクサの大きな手が彼女の髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。無遠慮な力加減に反抗したいものの、彼の馬鹿力に通用するほどの力を持たない名前は仕方なく溜息をついて無抵抗のままでいた。乱れた髪は諦めて、後でじっくり整えることにする。
ただ、今は、根源のわからないイクサの優しさに触れることができた、笑顔を向けられた、それだけで十分だ。


漸く手が離れたかと思えば、イクサは空ではないどこか遠くをその双眸に映して、心なしか穏やかな表情を浮かべていた。
名前が呟くようにイクサの名を呼べば彼の意識は簡単に戻ってきて、にこりと屈託のない子供のような笑みを見せる。



「また一緒に出かけような、名前」


「ああ、うん。そうだな。約束だ」


「服、ありがとう。大事に着るから」



濃い紫の服の裾と、おまけの暗灰色のマフラーの先を摘まみ、イクサはやはり子供っぽくくるりと回ってみせて体勢を崩した。踏みとどまるも自分の行動にすら面白おかしく笑みをこぼして、軽く手を振ると笑顔の残像を残し姿を影へと変える。どうやら時間が来たらしく、平面化した影もすぐにどこかに消えてしまった。恐らく宮殿へと戻ったのだろう。
後に残された名前だが、彼女の表情だけは満足そうな微笑を湛えていた。


今はほら、永遠に変わらぬ空の色を見るだけでその笑顔を思い出す事が出来る。







彼女は酷く鮮やかに映るを瞼の裏にしっかりと焼き付けた







ささやかな口約束が果たされる前にあの男は国を裏切ったと実しやかな噂を耳に挟んでも

何故か怒りが湧いてくることはなく、ただただ溜息と苦笑が漏れるだけだった




fin.
09.0401.円様へ


***

まさかの『その日は遠く』続編だなんてそんな馬鹿な話すみませんここにあります。
い、イクサくん好いてくださっているということで調子乗ってみましたすみませんちょっと自決してきます(死亡フラグ)



* * *
「空渡り」の翡翠様より!円の誕生日にゴッファ(噴血)イクサくん夢をいただきました!ありがとうございます!円は三度の飯よりイクサくんが大好きです(何を言い出す)

まったくこの天然タラシは乙女心を何も知らないような顔してサラッと心をかっさらってしまうんですから質が悪いですよもう愛してr(自重)
相手に身につけて貰えるものを贈れるって何だかくすぐったくて、幸せな気分なんですね…ニヤニヤします(こら)仕立て屋設定が凄く、改めて素敵だと思いました。大事に着てくれたまえよイクサくん(殴)

翡翠様!こんな格好いいイクサくんの夢を、円のために!本当にありがとうございました!


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