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とんがり耳じゃないから?

(※トリップ設定)



例えば山羊に近づいていくと、きっとそこに 【A】なでる とかアクションコマンドの表示が出ているのだろうなぁ。
ふかふかの山羊の背中をなでなでぽんぽん、って、なんと優しさに溢れた手付きだろうか。穏やかな表情のリンクが山羊を見て和んで、山羊の方も心なしかリラックスしている気がする。だって身体をリンクの方に寄せている。
牧場の真ん中でのその素敵な図は、見ているこっちが癒されてしまう。

私も平和に充てられて、はあ、と暖かい溜め息を溢していた。それを聞いてか、リンクはこちらに向かってサクサク草を踏みやってきた。
芝に座る私には、健全な青年の高い位置にある頭は見上げるのも一苦労だ。それに逆光で見づらい。



「名前、――――?」
「…なに?」
「――!、――、…―?」


リンクは向こうを指差して、少し目を細めるように笑う。指し示しているのは、牧場の草か、山羊か、はたまた天気か、この牧場自体か、私には分からない。


「わからないよ」


諦めて、私は首を傾げる。
するとリンクも。困った笑いを浮かべて、緑の帽子と揃って、首を傾げてしまった。

私はハイリア語が解らないのだ。

生まれも育ちもこの国じゃないし、学校ではハイリア語日常会話なんて教えてくれなかった。…なんて言い訳をしたところで、例えば彼の口から流暢な英語が飛び出してきたとしても、すんなりコミュニケーションを取れる自信はないのだけど。

今までに成立した会話は皆無と言っていい。だって、私のリスニング能力の低さを差し引いても、ハイリア語というものは全く、発音が曖昧だし、音が雪崩ていくように速く感じられる。
自分の名前だけは伝えられたものの、それっきりだ。せっかく、…そう思ったのに。せっかくハイラルに来ることができたというのに、思うように動けないなんて。

きっと、リンクがこんなに目の前に立ったって、【A】話す のコマンドは出ないに違いないんだろう。

だったら代わりに 【A】なでる とか…なんて、私は動物か。


一人で黙々と心にツッコミをしていたが、おもむろに、私の手をリンクが引っ張って立たせた。
ってこれ、何のアクション?











急に立たされて、名前は驚いたのか随分よろめいて転びそうになった。慌てて肩を支えてやれば、目に見えて名前は顔を真っ赤にして俯く。

何と言うか、…名前のバランス感覚というか、運動神経というか、そういうものが俺は心配になる、毎度。此くらいで転びそうになるようなことが何度も。名前が何処から来たのか俺は未だに解らないけど、多分箱入りのお嬢様とか、かもしれない。



「名前、俺の目を見て」
「――!?」
「俯かない」
「―、っ…――」
「だからな、名前も、山羊撫でてみるか…って訊いてるんだけど、んー、解らないかな」


名前はぶんぶんと首を横に振った。多分今回も俺の言葉は通じていないけど、俺から目を反らしたくて解放されたくてそうしたのかもしれない。
これも何度もあることで、名前はかなりシャイだ。俺に限らず相手の目を見たり出来ないし、言葉が通じていないと分かってからは自分から喋ったりしない。

俺はまた苦笑して、名前の頭を撫でながら、振り乱された髪を直してみる。意外と指通りが良くて、すぐにさらりと溢れてしまうから、名前の丸い耳に掛けるように撫でて遊んでいると、いつの間にか名前は今までに見たことないほど顔を全部真っ赤にさせていた。目も濡れてて泣きそうで、眉毛をハの字に寄せている名前はその、…かなり良い。


「名前?」
「…っ」

堪らず、といった感じで名前は顔を両手で覆って縮こまってしまって、それが恐ろしく可愛らしかったから抱き締めてしまった。咎めるなよミドナ、不可抗力だ。




「リ 、ン ク」




(恥ずかしい)



俺の胸に頭を擦り寄せる名前はきっとそう言った。



どんな言葉でもいい。

いつか俺に伝わる言葉で好きと言ってくれ。
なんて、それ以前の問題か。












11.01.08.


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