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これは罪か

(※ねっとり微エロ/受け受けしい勇者)













「みず…水っ…くれ…」




身体を引き摺って、蚊の鳴くような声で水を求める男の姿ときたら
以前に見た、憎らしく爽やかな笑顔を咲かせる男との差が痛々しく名前の胸を締め付け呼吸も忘れさせるほど
名前は汲んだばかりの貴重な水をバケツを倒して溢してしまう
力が抜け、ともすれば気絶してしまいそうな身体を、井戸の縁に手を付いて支えながら、膝を着いてしまった彼の元へ、近付いた




「り、リンク!どうしたの!」
「ぅ、…水」
「今、今あげるわ!!待って!」


酷い掠れ声から、ようやく内容を聞き取ると、名前は半ば悲鳴を上げながら井戸の方へ戻る

平原越えは酷いのだろう
蔓延る魔物のせいで簡単に進めない上、休む木陰のための木々も今では枯れたものばかり、この七年でハイラルはすっかり荒れてしまった
中々に抜けたところのある彼の事だ、うっかり旅支度を忘れてしまったのかもしれない

井戸の底の底、枯れかけたそこの水を引き上げ、木桶をそのまま、何度か水を溢しながら、踞る彼の目の前に置いた



「はい!水よ」
「あ、あぁ…」
「大丈夫?一人で飲めるの?」


リンクは水を覗き込むように俯き、その中に両手を浸した
やけに落ち着いて、ゆっくりとした動作を、妙だと思った名前の顔にそれは襲った


「ひゃ!!!」

「ははっ、引っかかった!」


桶の中で握り合った男の掌の間から、水鉄砲を飛ばされたのだ


「な、…な……」
「凄く慌てちゃってさあ、ぷぷ、面白かった!」
「ばっ、…こっ、〜〜!!…質が悪いわよ!ふ、不謹慎よ!!」
「怒るなよ名前!これあげるから」


はい、お土産
と渡されたのは掌大の麻袋で、中に詰まったものの重量感が、何とも嫌な予感をさせる


「…なに、これ?」
「エポナの
(ピー)さ」

「ふ ざ け ん な!!」

ブンッ、と彼方に投げ捨てられたそれは風車の下翼に当たりその骨を追った
おおー!などと感心する男の横っ面をよっぽど殴ってやろうかと思う彼女だったが
直ぐ様、風車の管理人にばれて、名前はこっぴどく叱られるのに忙しかった

毎度毎度、こうなのだ
見た目こそ立派な、勇者を負うに相応しいこの男は
こんな悪戯で名前にちょっかいを出して楽しむ悪餓鬼であった



「もう知らない!知るもんですか!貴方が何処で野垂れ死のうとね!」
「怒るなよ、名前…くく、っ」
「な、何笑ってるの」
「ふ、くく…だって名前…変な顔!!」


指を差された名前の顔は大層なしかめっ面で、リンクには愉快に映ったらしい
益々顔を真っ赤にして手を上げる彼女のそれを、易々とリンクは避け、また更に怒りを買って、また笑っての繰り返しだ
そんな事を言い合いながら井戸から名前の家までカカリコ村の中を行き
罰として彼に家の掃除や食器洗いを課せ
そうしてそのまま夕食を振る舞ってしまうのが暗黙の内に決まっている

その間も、機嫌が斜めのまま名前はぶつぶつと小言を言い
馬鹿にするように大袈裟に彼女のぶつぶつを真似してリンクは叱られる







「今日は此処に泊めて」


食事を終えた宵前、不意にそんなことを請われ名前は耳を疑った


「…リンク」
「いいだろ?」
「あのねぇ、前にも言ったけど」


話を聞かず、リンクは名前の横をすり抜けて、夕食の皿を片付けに行ったその足で、奥の彼女の寝室への扉をあっさり潜っていった



「前にも、言ったでしょう!それは出来ないって!」
「どうして?」
「どうして、って……はぁ」
「ただ寝るだけだ」


彼がこれを素で言っているのだから、名前は呆れ返る
勝手に人のベッドに乗り上げ、気持ち良さそうに楽しそうに寝転がるこの悪い子を、叱ってくれる妖精はどうした、と話題をそらせば、少々つまらない喧嘩をして居なくなってしまったらしい
明日には帰ってくるさ、と笑って話題を終えた男に、やはり呆れて名前は同情を馳せた


「とにかく、駄目なものは駄目なのよ、帰って」


良い体格の男を引っ張り起こすのは重労働だ

唇を尖らせ渋々と引き下がったかに見えたリンクは、寝室の扉に差し掛かると、そこを出される前に扉を閉め、その扉に背を預け、ニヤリとして立ち塞がる
自身と名前を、まだ灯りを入れていないこの部屋に閉じ込めたのだ


「こら!」
「どうして駄目なのか、説明してくれよ」
「…貴方、…説明してもきっと分からない」
「そんなの!話してみなくちゃ分からないだろ」



駄目、駄目、駄目、と叱るばかりでは納得しない
どうして、何で、と返して駄々を捏ね納得できる理屈を求める様はどう見ても子供なのに、真剣な男の眼差しを真正面から受けると、胸がきゅ、と絞られてしまう


名前は数歩の距離、空いていた、暗い床を踏み締め、扉へ、リンクへ近付いた

「名前?」

足一つ分の間で、二人の爪先が見つめ合う
自分より一回りも小さい女に、しかし近すぎて恐怖のようなものをリンクは覚えた
そしてその距離さえも詰める

「っ…!」

とん、と触れ合う、というよりも
押し付けられた体の感触、体温、顎先を擽る彼女の髪、湿る吐息
じわじわと侵蝕していた危機感がここへ来て一気に背筋を引きつらせ、男の肩が張り、暗い部屋の頼りない夕日明かりでも解るほど、顔が真っ赤に熟れてしまった


身体を寄せただけでこの慌て様



「分かる…?」


名前はポツリとそう訊いた

何を訊いているのか、先の話など、それ以外でも、何も、白い、とにかく分からない
リンクは平生の何もかもが通用しない、そんな雰囲気と成り果てたこれを前に、身体を固まらせひたすら背後の扉に寄りかかるしかなかった

強張った表情のリンクを見上げ、名前は爪先で立ち、彼の首を引き寄せ唇に噛み付いた



「んっ!!?、ぅ…ん、ん!」


ぎゅーっ、と目を瞑る男の赤面を、瞬きも忘れて見入る
本当に何もできず、拳をつくり、自分が見失われ飲み込まれそうな不思議な口吸いの感触に必死で耐えていた



「ッ、は、ぁう」

「いつもの口利きは無いのね、随分大人しいじゃない」

「だっ、て…こんな、こと…っ止めてくれ」

「ああでも、こっちは元気そう、…本当に止めちゃっていいの?」

「あっ、ぁ、…待って!」


はぁ、はぁ、と息を切らし顔を真っ赤に、涙目でいるこの男
本当にただの子供にしか見えない
それも少女のように女々しい

がたん、と乱暴に伸ばした手で、リンクは逃げるようにドアノブを捻り扉を開けたが、後ろに掛けた体重のまま派手に床に転んでしまった
そこを馬乗りになって彼女は唇に吸い付いた


「あ、…っ、名前…ぃ」

唇の裏側を合わせるような、ねっとりしたそれを繰り返し、啄み
浮いた彼の舌を悪戯に舐めれば大袈裟に震えていた

「それ、やめ…っ、痺、れる」
「聞いてあげない」

口付けがお気に召さないらしい
だがいくらやめろと言っても悪戯に反省の色を見せなかったこの男の、それを聞き入れてやる義理は名前にはない

彼の嫌がる方へ、口内へ浸食しながら
彼女の細い手が、額を撫で、頬を撫で、首へ撫で下ろす

襟首を解き、暴き、そこから手を差し入れる
熱い体の温度が、服の中籠っていた
女の手の指先など相対に冷たいのか
触れる度に、その引き締まった男の体躯はビクンと跳ね踊るのだが
悩ましげに眉を寄せるだけ、困惑し見上げてくるだけ
それだけだ

ああ、と声を上げしなる喉仏に弱く歯を立て、舌で撫でてやると
そこで顔を上げた名前が言う



「だから駄目なの、分かる…?」
「ぁ、なに…、?」


何も考えられずに、意識を失わないよう努めていただけの彼が、うっすらと瞼を持ち上げる
本当に何も言葉が頭に入らないらしい

そんな様をくす、と笑って見下ろす彼女も、いやに切なく目を潤ませていたので
逃げるように顔を反らしリンクは再び目を固く閉じる



「…抵抗すればいいのに」

「出来ない、力が、…抜けてっ…、ハァっ」

「そう」

「、っ…名前…」


懇願の声音だ
疼きをどうすればいいのか知らない子供
助けて、という懇願

これを聞き入れるは罪か

名前は自問するが、答など無い
あるのは、彼がどこどこまでも子供の心であることが恨めしい、と訴える情
ただ触れることさえも罪悪に苛まれてしまうのだから




「目開けて」

「ンぅ、…」


目が見たい、サファイアブルーの瞳を見たい
名前の囁きに応じ、恐る恐る、開かれたその目

欲情に歪む目なのに、一層綺麗だなんて











11.01.06.


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