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ハンドメイドクリスマス

(※トリップ設定)







今日はクリスマスだという
この異空間入り交じる世界においてそんなイベントなど霞む程度でしかないが、他でもないマスターハンドが少々浮き浮きしながらクリスマスの話をするのだ


「此はサンタクロースの衣装だ、君に合わせて創ったから着てみると良い、そして皆に幸せを運んであげるんだ」
「マスターハンド…」

キメェ…と内心溢しながら白い手を見る
ズイズイと差し出すどころか、もはやグリグリと押し付けてくる、その赤い衣装は彼が創ったらしい
衣装の両肩部分を摘まんで眺めてみたら、首もとをは大きく開いてるしスカートだし丈は短いし、明らかに邪なサンタ、萌えって奴だ

「お姫様達に着せたほうが似合うと思うんですが」
「彼女たちにももちろん創ったさ、だからそれは君の分」
「……」
「嗚呼!心配ない、私のアイドルは君だけなんだ」

寒気が走ります、貴方の"アイドル"に寒気走ってますよマスター

マスターハンドにとって見たら私ら何ぞただのフィギュアだろうに、嫌だなあ、もう少し自重していただきたい

この衣装だってそうだ
こんな(彼にとって)小さい服を、この日のために何日も前からチクチク縫っていたのだろうか
その白い手袋の下は?絆創膏の指先なのか
考えただけで気分が下がった

私はいつまでこの世界に囚われるんだろう
本当なら私も今頃クリスマス、友達と飲みでもしてちょっと気になる先輩にプレゼントとかして家族との年末年始の計画を立てて……まぁ、そんなことが叶わなくてもいい
イルミネーションに飾られた街を歩くだけでも構わない
雪とか少しだけ見れたら尚良いな


はぁ、とついた溜め息
サンタ衣装を手に項垂れる私の姿は、それを着るのを躊躇しているようにでも見えたのかもしれない
マスターハンドはパチン、と指を鳴らして、そうしたらポンッ!と何処かから雲みたいな綿みたいな煙が弾けて
気がついたら私は先ほどまで手に持っていたサンタ衣装を着ていたのだった


「ちょっと!!」
「よく似合ってるよ、名前」
「っ、やめてよ!キモチワルイ!!!」

「!?」


誰かの右手がびくんと震えた
気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い神様に、気持ち悪い世界!


「私の服は!?いつ脱がしたの!返してよ!!」
「脱がせたわけではないよ…今のは私の力で…」
「違う!私の知覚できない次元で脱がせた!」
「名前…どうか」
「返して!私の服!私の世界も返して!全部よ!!」


叫び終えてそのままわんわんと泣き崩れた私をマスターハンドはそうっと撫でた
別に貴方が嫌いな訳じゃないのに、酷いこと言った、でも、それでもマスターハンドは優しい(乱闘時除く)
涙なんて流れないのだけどね、この世界の皆
もともと楽しいことの為の世界、この手がそう創ったから、私たちは涙も流せなくて、そうしたら何だか悲しく考えていることすら馬鹿らしく損なことだと思えてくる
嫌な世界だな



「……」
「こんな、掌サイズの"アイドル"と遊んで楽しいの」
「…楽しいさ」
「変態」
「どうしてそう…そう、もっと、…純粋な意味に捉えてくれないんだ」
「こんなサンタ衣装創っておいて!」
「それは仕方無い、私も男だから」


グッ、と親指を立てて、再度言う「やっぱり似合っているよ」のあまりにキリッとした態度に思わず笑ってしまってた


「馬鹿」
「ああ、その笑顔だ」
「もー!」

怒ってもなじっても何処か嬉しそうに吸収してしまうのでモヤモヤした気も削がれた
座り込んでいた私に向け、掌を見せるようにする右手
小さい手をその指先に載せてサンタは立ち上がる



「あのね、サンタやる代わりに、一つだけお願いがあるの」


マスターハンドは何でも叶えよう、って、解らないけど、笑った気がした






10.12.17.


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