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目的地は城下町だ。今請け負っていた依頼は他に無かったけど、近々行こうと思っていた。彼女の心探しという、妙な名目を得たから、彼女も一緒に。


城下に来たのは初めてだったのか、しきりに辺りを見回している。


「大きい…町ですね」
「凄いよなぁ、俺も初めて見たときは、気絶しそうだった」



思い出す。森から出て、初めて見た世界。何もかも大きくてワクワクしてた。楽しくて、少し恐かったあの感じ。


賑わう市場を通り抜け噴水広場にとりあえず歩いた。
彼女ときたら、なかなかこの人の多さに目移りしているのか、フラフラと危なっかしく俺のあとをついてくる。



「そんなにキョロキョロしちゃって」
「私の心、どこにあるかと思って」
「…そこらに落ちてるようなものじゃないと思うけどな」
「そうなんですか。」


特に気を落とした風でもなく、前に向き直って彼女は歩く。やばい、俺の都合で城下町に来ただけなのに、彼女はここに本気で心を探しに来てんだろうな。ていうか心を探すなんて具体的にどうするかは俺も知らない訳だけど。

ふ、と彼女の足が止まる。広場に抜ける手前の通りで、やけに大きな看板が主張していた。


「神の薬…。」


彼女がそれを読み上げる。病の完治、不老不死、性転換、なんでもござれ、と奇跡みたいな謳い文句が端に書いてある。


「ああ、これのことか」
「なんですか?」
「男が女になれる薬があるんだって言ってたな、酒場のアリッサが」
「……そんな薬はありませんよ。」
「は?まあ信じられない話だけど、現に此処で売ってるんだろ」
「………」
「ははん、気になるのか、同業者としては」



看板を掲げている、広場に面したでっかい店を見上げて、しかし彼女はやはり無表情だった。

心が無いとか、自分を粗末にしてるところとかある彼女だけど、薬屋の仕事はきっちり毎日やってるんだよなあ。
でもそれって変じゃないか?何の意欲も無い人間がさ、誰に雇われてるわけでもないのに仕事をするなんて、そんなこと成立しないだろ。




「お前ってなんで薬屋やってんの?」
「……薬、…私も、研究、しているんです。こんな奇跡の薬を。」
「へぇ!じゃあちょっとこの店入ってみるか?」
「…でも……どうして…わたしは」


店に入ろうと足を向けた俺を置いて、彼女はふらぁっと何処ぞへ行ってしまう。人の少ない方に行ってくれたから見失いはしなかったけど、何だかいつにも増して危なっかしいやつだ。
神の薬とやらを見に行ってみようという俺の提案が、気に入らなかったのか何なのか。何か思うところがあるのかな。こんな風に、よくも悪くも彼女が心動かすようなことを与えてやれば、そのうち彼女の心は戻ってくるのかもしれない。でもそれってすごく大変なことだ。

何かから逃げるように彼女は路地裏に入り込んでしまう。俺もすぐ彼女の後を追う。

そこで俺達は、とんでもないものを見たんだ。






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