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パステルブルークラウン

(SmaXでXmas)




大闘技場が自棄に静かなのはここ最近の様相だ
試合が組まれないでもう何日も日が経つのは珍しいことで、それはマスターハンドが選手達の試合を見たいと駄々をこねる事態が起きないからでもある

円周の広大な観客席も当然、空風に吹かれている
だかその中央に浮かぶ平坦な乱闘ステージには、誰が為か、ど真ん中にどでかいクリスマスツリーが、どん、と据えられていた

色とりどりのオーナメントの一つ一つはおそらくあのピンクの悪魔より一回り小さい程度の大きさだ
巨大な装飾を抱えてなお、どっしりと構える巨大なもみの木は力強くて、安堵を与えるよう

ただ一人、その場に居合わせたアイクは鼻から白い息を溢し続けて
ステージを見事に占拠するそれを見上げていた
麓まで足を運べば、天辺の星などとうてい視認できないばかりか首が痛くなる
諦めて視線を斜めにそらせば、枝の隙間からピクミンが数匹ぶら下がっているのが見えて、少し憐れに思われたが、降り積もる雪の白とツリーの緑に足され絶妙な色彩に一役買っていたのでそのままに


突如、たたたた、と背後から迫る足を聞く
だがアイクは振り返らずにフッ、と口隅を上げただけで、大人しく背中に突っ込んでくる衝撃を受け止めた


「名前か?」

「サンタクロースでした」


マントごと腰回りに抱きつく温もりをべりっと引き剥がし、向き直ればやはりそれは名前だったが、同時にサンタクロースでもあった
なるほど、といつもながらの気難しい真面目顔で納得するアイクを、彼女は鈴の音のような声で笑った


「どう」
「何がだ」
「この…格好、とか」
「…寒そうだ」


率直な感想を述べる男に対し、彼女は乾いた笑い声を返した
半袖だし、スカート丈から随分太ももが晒されているし、マフラーの無い首元はスースーだ
確かに、雪空の下にあって今の名前は寒そうだ
しかし他に期待していた言葉があったようで、気紛れに腕を擦り苦笑する様には寂しさが漂っていた


「アイクは寒い?」
「いや、気になるほどじゃない」

苦し紛れの名前の問いに、あっさりと答えだけ返してアイクは彼女から視線を切る

先程まで屋内にいた彼には、寧ろこの久しく無かった突き刺さるような寒さが心地好くすらあった
いつになく空気が澄んでいて、程よく張りつめた世界を感じれば、理屈はでなく、何かを期待して心が踊った



不意に、もぞり、アイクはマントが翻るのを感じて斜め下に顎を引く
そこに潜り込むように、名前が彼の脇の辺りに抱きついていたのだった

どれだけ外を出歩いていたのか、名前自身も温もりに飢えた自身の肌に驚く
代謝の良い健全な身体は、布越しにもぽかぽかと熱を送るもので、罪作りな心地よさだった
もしかしたらたった今までトレーニングに打ち込んでいたのかもしれない、生真面目な彼の事だ、十分あり得る
名前は密に、体を押し付け、頬をすり寄せ、芯までその暖かさにあやかろうとするが
アイクは先程より眉間を狭くして口を真一文字に引き結んでいる



「あんたはこういう所でたちが悪い」
「嫌だった?」
「……そういう問題じゃない」


追い討ちに溜め息を一つする
しかし今日の名前は食い下がる
離れようとしないのだ
すん、と途切れ途切れに鼻を鳴らして震えている


「寒かったんだもの」

きゅ、と握り締めて離さないものだから彼の方も無闇に動けない

何かあったということくらいは察したアイクだが、やはり無遠慮に聞き出そうとはしない
名前が何も打ち明けず曖昧な態度を取り続けてきたことへのささやかな仕返しも込めて


赤い垂れ帽子の上から頭を撫でたりなどしてみるが、がさつに力の入った男の掌は名前の視界をぐらぐらと揺する
そんな扱いを酷いと嘆けば、今涙目を誤魔化す言い訳くらいには出来るだろう

赤いマントの内側にサンタクロースをすっぽりと隠して、アイクの青髪に白が綺麗に降り積もるまでずっとそうしていた

闘技場にぽっかり浮いたそのステージは、どんな世界からも切り離された雪原のよう
観客の居ない中で壮大なツリーも完全に浮いている








10.12.23.


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