一片の情けもありません
(※名前変換無し/愛無し/独白/微グロ)
反吐が出る
自我を持つ生物が等しく醜く卑しく見えるのは生への執着を捨てきれないからだ
私は違う、私だけが、死を恐れない、あの方の為ならば
だから死なない
脅えた剣が敵を倒せるわけがないのだ
臆して退いた足が地獄へ沈める重石と何故気づかない
奴等の断末魔ときたら聴くに忍びないものだ、理性もなく本能だけの魔物などというのも表層にすぎぬと私は知っている
此は何だ、という疑問
赤だ、あの方と同じ色の水だ、そう答える声
一連の問答はもう何度目か、全て私の中で完結する
薄暗い城内の心許ない灯りに照らされる赤
腹部の穴を握るように押さえた手の隙間からワインでも注がれるように流れていくそれは時折光を受けて怪しく反射させる
忌々しい勇者からの重い一撃を受けて、使命を果たせず、そして死にもせず、命からがら辿り着いたのはあの方の居城
死ぬ、のか
私は
死ぬということ自体の恐れはない
あるのは愛しいあの方を見ることも想うことも叶わぬ永遠の絶望を一瞬に悟ってしまった恐怖
そうか此が、ああ此が死の恐怖で、そして至る先が生きたいという願望
救われたい、生きたい、せめてこの恐れを掻き消してくれる希望が欲しい
自我にまみれ圧力に支配されたに過ぎない不実な者共とは違うのだ
私は何時だっていつだってあの方を想って心からの忠誠を誓って全て愛して愛して愛して他の全て憎むほど唯、彼だけを、愛して、献身を尽くしてきたのだ
救われたい私は救われたいわたしはワタシはワタしはドウシテも救われるべきなのだだって、だって!そうでなければこんな、イミがないじゃないかワタシは、私が、生きた意義がっ、そんな、こと、馬鹿げてる、あの方が、わたしの死んだ世界でだ、だれ、ダレガっ、あの方を、愛して愛されるそんな、アノ方がお許しニナラナイ、だカラ、ユルサレルワケガナインダ!!!
虫けらを見るような目であの方は、床を這い赤でそこを汚す私を視界に入れる
「どうか、あ、…助け、て」
何事も無かったかのように、視線を前に戻し、あの方は通り過ぎていく
救いなど最初から無い
虫が潰れて床にくっついていることが何だと言うのだろう
塵が更に小さく弾けて掠れて消えていくことに何を思うだろう
何もありはしないのだ
もう随分鉄臭い味しかしない口を開いて、グルグルと、ぐつぐつと、ジリジリと、腹とも胸とも判らぬ辺りの震えを持て余し、今やっと目が覚めて血が巡り始めた感覚、伴い傷口も開いて紅を吐き出すのだ
「う、ぁ…あ゙…ああ、あ!!!」
あの赤い目こそ私が愛したものと思い知ると身体が甘美に痺れていくのに
何故涙が溢れるのかわたしにはさいごまでわからなかっ――――
10.12.16.