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トゥルーサンタクロース

(SmaXでXmas)









時間の概念も曖昧な世界だ
この一角は名前に馴染みある世界の街並みを模してはいたが、時折目に触れる時計は全く動いていないようだし、空もまだまだ夜明け色になる気はないようだ

街灯がぽつぽつ浮いているだけの景色をサンタクロースは一人徒歩で行く
チョコレートプレートに満遍なく積もったパウダーを思わせる雪の道に足跡を残しながら

誰も彼も寝静まったように、他に灯りが無いのはイルミネーションを引き立たせるためだったというのに、その光は今や無い

はず、であったが
ちかちか、と点滅する光の糸が、視界の隅に映りこんだ










「リンクだ」

「あ、サンタクロース」


脚立の上で作業をしていたリンクは、ふもとに近寄ってきた名前に気付くと、彼女を指差して笑顔を見せた
随分長く屋外で作業をしていたと分かるほど、頬が赤く腫れていたために、その表情はやや引きつっている

ちょっと待ってて、と律儀に断り、リンクは目の前の高い壁に向き合った
赤いレンガの建物の壁に、あのチカチカ光る線を貼り付けていたのは彼だったのだ
窓枠や看板の端に針金でしっかりくくりつけると、満足気に唸ってリンクは脚立を下りてきた


「直してたの?」

「いや、新しいのに取り替えてただけ」


リンクは苦笑して肩を竦めた
そこに薄く積もり張り付いた雪がパリッと鳴いて落ちるのに気付いて、名前は慌てて彼の肩と、帽子と、前髪の雪をぱたぱたと払った

短く鼻をすすりながら、ぽつりと礼を言ったリンクは、そこらに広げていた作業道具をまとめ、脚立を軽々と担いだ


「修理はロボットたちが頑張ってるよ、皆もあっちで飾り直ししてる」
「みんなって」
「ポポとナナと、リュカとネスと、ルカリオと、デデデと、マリオと、サムスと、えーと、とにかく皆、…まあガノンドロフとかは出てきてないけど」


信じられないことを聞いた名前はふあ、と口を開いて、自分より高い位置にあるリンクの横顔を見上げた
白い息がふらふらと勝手に立ち上る
振り返らずとも、名前のそんなぽかん顔を想像できたのか、リンクの口角はニヤニヤとつり上がって仕様がないようだ


「どうしよう」

「…?」

「う、嬉しくて、…あはは、なんか、あの、…グッときちゃった」


やっぱり、皆のことは言わなければ良かったかな…
リンクの苦心を余所に名前は誤魔化し笑いで静かな空気を震わせる
言わなければ、言わなければ、名前は二人きりの街角で素直に喜び涙してくれたかもしれないのに
惜しむ一方で彼の足は、話の流れの通り、彼女を皆の作業現場に導く方に進む


「ありがとう、リンク」

「ん?」

「リンクが皆に声掛けて、直してくれようとしたんでしょ、多分」


ドクンと胸を内側から叩かれた心地がして、思わず脚立を担いだ肩の方にリンクは大きくよろめく


「だって私がイルミネーション見たがってたの、話したのはリンクにだけ」


そうでしょ?
名前はもこもこのスカートの裾を揺らしリンクを追い越して下からしげしげと彼のサファイア色を覗き込んだ
真実は、そんなに声を掛けて回った訳ではない
リンクの行動につられて皆が動いてくれた結果なのだ

そんな埋もれかけた彼の思いを掬い上げてくれるとは
いったいどんな素敵なプレゼントだろう



「だって、名前が見たいんだろう」

「うん…」

「だったら、やっぱり俺の仕事。君を喜ばせるのは俺」


そうだろ?
誇らしげに、体勢を立て直してはにかんだりなどしてみる
その頬はもうすっかり解れてぽかぽかだ


「リンクはサンタクロースなの?」

「サンタは名前だろ」

「ううん…だって、リンクは本物のサンタクロース…、じゃない?」

「違う違う、俺はリンク」



急に何を言い出すのかと、リンクは冗談に受け取るが、名前は真剣に彼の長帽子を自分の垂れ帽子と比較しているのだった

ああ、だってこんなにも夢と愛を与えて心を満たしてくれるのだから
きっと本物のサンタクロースは自分がそうだって気付かないのだ
そうやって自分を省みない誠実さが、同時に心配でもあるのだけど

グローブから見える彼の指先は痛々しいほど真っ赤で、名前はいてもたってもいられずに触れた
手袋を剥いで、同じ素肌で

そうしたら、柔らかく暖かい手は簡単に捕まった
キンキンに凍った彼の大きな手に包まれて


「凄く…冷たい、…生きてないみたい」
「大袈裟だなぁ、大丈夫だよ」


そう笑い飛ばしながらも繋がれた手と手は解かれない

染み入る名前の熱に、リンクは身震いを覚えて、目を細めた

このままずっとずっとこの手を離さないで、決して離さないと強く誓えば
この人を連れていけるだろうか



「ねえリンク、また、クリスマスしてくれる?」



季節が一巡りしたら
また御一緒に、此処で、皆で
今度は同じハプニングは起きないようにしっかり準備して



「君が笑ってくれるなら」



サンタクロースは裏切らない
だって良い子は彼を信じ疑わない、そうだろう?







10.12.24.


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