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ホーリーホワイトナイト

(SmaXでXmas)









今日という日に何が起きたのだろう
寒い、特に寒い
空がとっぷりと深く暗い

本当に何があったのだろうか、ピットは身震いをして身体を縮こまらせた
白い布を巻き付けたような自身の格好はいつだったか、風呂上がりのバスタオルなのかと笑われたことがあった
今なら自分もそれに同意できそうで、ピットは少し喉を鳴らした
きっと客観的に彼が彼を見たらとても寒そうだと思ったのだ

見上げた空からは柔らかい雪が無数に降ってくる
なのに、浮かび見える星もまた無数だった
この光景の神秘を受け入れるなら原因も知れたもので、要はマスターハンドのせいだ

そのいつもの気まぐれが、今回は迷惑な方に出たらしい
昨日までは何も気がかりなく平穏快適であったものを、今日になって急激に冷え込み始めた世界
容赦なく寒さに攻撃された四肢は軋むようだし、翼を広げ動かすのも億劫

加えてまいってしまうのは、いつも移動に楽な転送ゲートの電気が何故かシャットアウトされて、この広く賑やかな世界の移動が一瞬で済まないことだ
ピットも、もう何度も屋根の下や木の下で休んでは、凍える身体を温めている
プライベートエリア、選手の私室が並ぶ舎屋はまだまだ遠く、気分は随分下がってしまった
がちがちと鳴る奥歯のリズムに、妙に調和した鼻歌が何処からか聴こえてきたのはそんな時だ

ピットの意識を一瞬でも寒さから切り離してくれた陽気なメロディを辿り、近代的な街道を屋根づたいに走って行けば、ミニスカートのサンタクロースがスキップをしている姿が小さく見えた

あ、と声をあげそうになるのを堪え、ピットは翼の関節を曲げ伸ばしして慣らす
赤い三角屋根を下り助走を付けて一気に飛び上がると、冷たい風を幾筋も従えてあの彼女の頭上まで到達した


「名前さん!」

「…え?」


声に呼ばれるまま顔を向けるサンタ
目の前に、粉雪と共に舞い降りたピットを見ると、名前は、はぁ、と感嘆して目を輝かせた


「素敵」

「名前さん?」

「すっごく聖夜!」


言いたいことは大体伝わるのだがいかんせん、語の繋ぎがおかしいようだ
それだけ興奮し心踊っているのだろう
彼女の頬には赤がさしていて、その度合いが見てとれる



「ねえ、粉雪を降らせる小粋な天使は貴方だったの?」

「いえ、マスターハンドだと思います」

「っもう!夢がないなぁ」



ピットの苦笑混じりの返しに名前は憤慨したが、そんなことは少なからず気付いていたらしい
大きな落胆はせず唇を尖らせただけだ



「それより、この寒さの理由は…名前さん?」

「うん、今日はクリスマスなの」


答えになっているのかいないのか、首を傾げそうになる
クリスマス…、とピットは復唱した
ぽかんと呆けるピットを半ば置き去りに、名前は彼へのプレゼントを袋から取り出した
先端がハートの矢、それが三本、真っ赤なフリフリのリボンで束ねてある



「これで誰かの恋を成就させてあげてね」

「…そんな力があるんですか、この矢」

「クリスマスだからね!」



効果の程はやはり疑わしいが
これではピットへのプレゼントではなく、誰か他の悩める子羊へのプレゼントではないだろうか

受け取ったはいいものの、何か複雑な気持ちが抜けなくて苦笑するピットの、腕に何かが触れてビクッと跳ねた
名前の手が、手袋越しにだか、氷のように冷たい腕を擦っていたのだ




「ピット、相変わらず寒そうな格好」

「…み、…見た目通り寒いですよ」


「じゃあ特別に」




そう言って名前は自身の襟元を暖めていた白いマフラーをクルクルと外して、それを彼の首に引っ掛けた
グッ、と頭が引っ張られて突然近づいた名前の顔を前に、みるみる顔を熱くしてピットは閉口している
クルクルと巻き付けられた毛糸のマフラーは雲のように柔らかくて、優しい匂いが少しする


「それもプレゼント、…気に入った?」

「はい、……とっても」

「サンタも天使くんも、クリスマスは風邪なんかひいてられないでしょ、皆に愛を届けなくちゃ」



張り切った様子で大きな袋を背負い直して、名前は今までにないほど生き生きと笑い、また歩みを再開した
ああ、なんと無防備で、そして罪深い
ピットは思わず、自身の胸の前に手を置いて、衣を握った

全くどうして彼女ときたら、この目の前の自分を、無条件で決めつけるのだろう
恋を成就させてやる天使、皆に愛を運んでやる天使、と




「天使が恋しちゃいけませんか」



聖夜を寒く白く彩る穢れなき空気にわざとらしく、チュ、と福音を





10.12.22.


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