「メル、誰ノ復讐ヲ手伝ッテアゲヨウカ!」
「ネェメル、ドウシテ人間ハコンナニ面白イノカシラ!」

 少女の人形は僅かに動く目や口を嗜虐に歪ませる。
 少女を抱く青年は彼女の質問や投げかけられる言葉に一つ一つ笑みを交えながら答える。
 色の消えた夜の森。命を落とした忌まわしき井戸と言う事を忘れ、誰かを愛していた事も忘れ、青年は復讐に燃える心を満たす為に指揮棒を振るう。彼の側で宵闇の復讐を手伝い、傍聴する少女は楽しげに笑う。

 そう、復讐しなければならない。メルツ。貴方が忘れようとも、私は決して忘れはしない。許さない。決して許さない。貴方を死へ貶めた奴らも私を魔女として断罪した奴らも、許さない。
 アンネリーゼ、貴女も決して許しはしない。

 エリーゼの意思は私の遺志。エリーゼの殺意は私の愛。彼女は私の器。
 この子の口から出る愛の言葉は全て私の思い。愛しているわ、メル。
 可愛らしいお人形の言葉に微笑む貴方に、愛しい我が子の面影は少ないけれど、確かに貴方は私の可愛い息子。無かった世界を求めて、私を求めた愛らしい子。ひかりをあたたかいと言った記憶が無くても、愛しい子。
 とても不思議な出来事によって世界を手に入れた貴方を地獄へ堕とした、あの痴れ者共を決して許してはいけないわ。

 白かった無垢を宵闇へ染め、月光を瞳に宿して童話の名を冠した貴方はもう私の子では無いのかもしれない。私の事など覚えていないのかもしれない。けれど、けれどねメルツ。私はずっと貴方を愛しているわ。たった一人の、唯一の家族だから。魔女と蔑まれ地獄の業火に身を焼かれても、唯、貴方だけを愛した一人の母。

 寵愛した我が子を奪われて悲しまず憾まず怒らない親が何処にいると言うのだ。奪った相手を恨まない親が何処にいると言うのだ。
 けれど私の肉体は燃やされ灰へと還り、愛憎の炎を少女に宿すだけの思念にしか過ぎない。人形だった少女の視覚を、聴覚を、言葉を通してでしか貴方と介す事が出来ない。私自らが手を下す事は出来ない。

 ならば、貴方が代わりに復讐を手伝えば良い。何も知らない貴方は、唯恨みを持つ人間の復讐の指揮をしてやれば良い。
 私の息子なのだもの、貴方も死への恨みを持たない筈がないわ。まだやりたかったことが、行きたかった場所があった筈だわ。そうでしょう? メル。

「今夜は風が強いね、エリーゼ」
「大丈夫? 寒クナイ? メル」

 衝動に身を任せて、さぁ――――

 今世界は恨みに満ちている。
 復讐を続けていればあの子にもきっと繋がるわ。
 登場するのは歌手より先に奏者、更に先に指揮者。
 罪を犯した奴らが罰せられずに生きている世界を恨みなさい。
 世界にひかりを奪われたなら、奪い返せば良い。
 私は永遠に貴方の味方。愚かな母の願いを、どうか叶えて。

 ――――唄ってごらんなさい。

「復讐劇ノ始マリネ!」

 少女の可愛らしい笑い声が黒い森に響いた。








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復讐の炎は地獄のように我が心に燃え






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